世界に野望を持ちし少女たち…

――空の大地ベアルトリス。そこには真の大地を求める人々がいた。
長年の間、民は立ち上がることもなく御子達も世代が代わった今の時代にあっても大半の者は諦めていた。
だが、真の大地を再び探そうと立ち上がる一人の御子がいた。
一条理子(いちじょうりこ)。誰かの意思で動いていても、それは彼女自身の意思でもあるのだ。


***

ベアトリスの中心の都市『ベアトリーチェ』にある一条家の宮、一条宮。
そこで、一条理子という御子が町の人にある呼びかけをしていた。しかも、最近になって毎日続いている。
その呼びかけとは、自分と共に真の大地を再び探そうというものであった。
初日はみな聞いていたのだが、呼びかけがしつこいと思われたのだろう。
いや、呼びかけるだけで動かない彼女が見向きもされるわけがなかった。
「・・・最近、多いよね、これ」
と、彼女はつぶやく。

彼女は呼びかけを諦めて、自室に戻ることにした。

***

自室で休んでいると、部屋の扉からノック音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
彼女は返事をして誰かを迎え入れた。
「御子様。つづいては・・・」
彼女はその者の会話を切った。
「もう、何回やってもだめだわ。あなたも分かっているでしょうけど、わたしが動かないから人は誰もついてこないのよ」
「しかし、それは・・・」
「『総統』の命令、って言いたいんでしょ? そんなこと分かっているわ」
彼女はため息をついた。
「御子様・・・」
「あと、わたしと二人っきりの時には名前で呼んでもらっても結構って言ったはずよ?」
「し、しかし・・・」
「い・い・か・ら!」
彼は仕方なく言った。
「り、理子様・・・」
「んー。【様】なんて付ける必要はなかったけど、忠誠心は結構なものよ」
「なんかやりづらい・・・」

「よし・・・。米斗、わたしの護衛に付きなさい!」
「ま、待てよ。」
「うん? わたしの命令が聞けないの?」
彼のこと咲芽米斗(さくがまいと)は、御子である理子の外出につき合わされたのであった。
外出だけあって、彼女のことばっかり。それに護衛は何か変な気もするのだが・・・。
「理子様・・・」
「何です?」
「最近多いですよね、外出」
「大丈夫よ。ちゃんと『総統』のスケジュールとやらには間に合っているんだし」
米斗あきれていた。
そして、話の脈絡もなく、彼はこう言った。
「理子様は誰を『剣』にお迎えで?」
剣とは、いわゆる主従のことである。
彼女の場合は誰を下に置くかということになる。
「そ、それは・・・」
米斗は答えに期待をしていた。
「ば、バカっ! 言えるわけないでしょ」
「どうしてです?」
「そ、それは・・・、あ、あな・・・、あな・・・だから」
「あな?」
「ああ、もう。分からないのなら結構よ!」
彼女はそそくさに帰っていった。
「誰なんだろうな・・・?」
米斗も後をついて行った。

***

あれから3日経った。
理子と米斗が総統の元に呼ばれた。
「呼んだ理由は分かっているな?」
「いえ・・・、それは・・・」
「はっは、あいつめ、呼び出したらそれで終わりにしたか。まあいい」
こうして総統の話が始まった。
「お前ら二人にはこれから他の宮に協力を仰ぐように説得してもらおうと思う。」
「それでは、ついに・・・」
「フッ。この俺様が間違っていたようだからな。そこで、言い出した御子様にやってもらおうというわけになった。」
「はい。喜んで」
「9人の御子全員で呼びかければ民も動いてくれるだろうな」
「ただ、呼びかけるだけでは・・・」
「ちゃんとやるさ。だからお前たちに頼んだのだ」
ついに世界を動かすらしい。
そう聞いた彼女は張り切っていた。
「よし、早速準備してきなさい」
「分かりました」
彼女の元気が全てを動かす。彼はそのような気がしていた。

出発の時になった。
理子が先に待ち合わせ場所にいた。
そこで、米斗でもない声が彼女に向かって聞こえてきた。
「り〜こ〜さ〜まぁ〜♪」
一人の少女だった。
彼女は理子に飛びついた。
「わわっ、何なのです、あなたは?」
「分からないのですか、りこさま?」
彼女は身軽な恰好に刀を携えていた。
「あ、あなた、まさか・・・」
「そうで〜すっ! 理子様ファンクラブNo.1八条瑞穂(はちじょうみずほ)っす!」
「みぃずぅほぉ〜?」
理子は完全に怒っていた。
瑞穂は驚いた。
「わわわっ、ごめんなさい・・・」
そんな時、米斗がやってきた。
「あれ? 理子様、誰なのです、彼女?」
「ちょ、ちょっと・・・」
「あ・・・れ?」
彼は間違った発言をしてしまった。
「『理子様』だってぇ〜!? しんじられな〜い、こんな悪人相でどこの馬の骨か分からない男がぁ?」
理子は質問に返す余裕がなかった。
「落ち着いてよ、瑞穂・・・」
ここで、ふと米斗は思った。
「ああ、その子が御子様の・・・」
だが、答えたのは『御子様』ではなく瑞穂だった。
「うん。そーだよっ!」
「ちょ、ちょっと・・・!?」
米斗は納得してしまった。
「そうでしたか・・・。よかったです、出発前に聞けて」
「わたしの話を聞いてぇ〜〜〜〜〜!!」
ということで、理子と米斗に瑞穂が加わって9つの宮を回ることになったのであった。



〜その後・・・〜
話は理子が瑞穂と契約したことによって収まった後のこと・・・。
瑞穂「ま、いいよ。りこさまが決めたことなんだし」
理子「はぁ・・・、よりによって瑞穂なんかと・・・」
瑞穂「大丈夫っす! 米斗もいるし」
米斗「呼び捨てか・・・」
瑞穂「いいじゃん」
米斗「ちっ。しょうがないか・・・」

とある場所での夜。
瑞穂「米斗、話があるよっ♪」
米斗「何だ?」
理子「ちょっと、米斗は・・・」
瑞穂「ちゃんと言ってやるのよ・・・」
米斗「(何をだ?)」 理子「(なんか怖いけど、)わ、分かったわよ・・・」
(少し離れた場所・・・。)
米斗「ちょ、待てよ・・・」
瑞穂「内緒にしてよね・・・」
米斗「なんのことだよ・・・。って・・・手が!? 俺は一体!?」
瑞穂「ま、そういうこと」
米斗「『そういうこと』って、瑞穂って・・・」
瑞穂「元々体格上では男だったよ。でも、りこさまに近づけるようになったら、身も心も女の子になったってわけ」
米斗「おいおい・・・」
瑞穂「じょぶじょぶ。ファンクラブのみんなは分かっているけど、分かっていないのはりこさま1人ってこと」
米斗「そ、そうなんだ・・・」
瑞穂「くれぐれも内緒にしてくれたまえ」
米斗「するし。言ったらどうなるか・・・」
瑞穂「よーし、米斗も一緒にファンクラブへ引きいれだぁ〜」
米斗「何故だ〜!?」
(こうして、瑞穂の秘密を知った米斗はファンクラブへと強引に入会させられてしまったのであった。というのは本当なのかどうなのかは不明である。)