世界に泰平を喜ばし少女たち…
ベアトリスの中心に立つ塔の一部。そこには『ベアトリーチェ』がある。
塔を降り、二条宮へと向かっていた。
塔と宮の都市を結ぶ『街道』を使って、向かうことになっている。
それを破ると命の保証がないというらしいが、実際に街道を使わずに大地を渡って生きているものはいないらしい。
それはさておき、二条宮のある都市は『アルフィン』と呼ばれている。
そこに着いた時のことから、今回は始まるのである。
「アルフィンへようこそ、って、理子様だぁ〜」
見た目は御子とは違った。普通の服、普通の子みたいにいろいろと御子とは違った。
しかし、その子は御子だった。それを知るのはまだ後のことだった。
「えっと・・・」
3人はとりあえず挨拶をした。
その後彼女は二条宮へと案内してくれた。
「話はなんとなく伝わっているよ。真の大地がどうのこうのって・・・」
「あら。全国に知れ渡ったんだね」
「でもね、あんなの、誰もやろうとは思っていないから」
それを聞いて黙っていなかったのは当然理子だった。
「む・・・」
「み、御子様・・・」
米斗が制止をさせた。
「このお方の前で大陸の夢を邪魔するようなことを言わないでくれるかい?」
「分かったよ・・・」
女の子は分かってくれたようだ。
「二条宮って結構大きいんだね・・・」
ふと、瑞穂がそういうと、彼女は黙っていなかった。
「えへへ・・・。だって、そこはわたしの・・・」
「『わたしの』?」
「ううん。わたしとはすんでいる所が違う二条家のお屋敷だからね・・・」
まったく答えになっていないことには気づいていた。
「へぇ、そうなんだ・・・」
瑞穂はまったく気づいていない様子だった。
そんな彼女に米斗は声をかけた。
「(なんかあの子、怪しくないか?)」
「(気のせいじゃない?)」
「(嘘だろ。俺には分かる)」
「(あらら、ばれちゃったか・・・)」
「ちょっとぉ〜?」
急に理子が声をかけてきた。
「わわ・・・」
「いくら、瑞穂が女の子だからって、わたしがいるそばで堂々とやってくれるものね?(あの時もおかしかったし)」
訳も分からず、瑞穂も言った。
「そうなの?」
米斗は即答した。
「違いますよ!」
***
二条宮は大きくて高い所にあった。
アルフィンに着いてから徒歩で20分。やっとで二条宮へとやってきた。
すると、女の子はそそくさに消えていった。
「じゃ、じゃあね。わたしはここに目をつけられていて、近づいただけで捕まっちゃうからさ・・・」
「あ、ちょっと・・・。もう・・・」
「今は気にすることでもないと思いますよ、御子様」
「そ、そうね・・・」
それぞれの宮には通常迎え入れる客は決まっているのだが、当然格が上のものは何もなしで入ることができる。
言わなくても分かるかもしれないが、宮家と一条家は王権の下であるため、それに従わなければならないのである。
「一条理子様、ですか・・・。分かりました」
「こちらはわたくしの付き人の一人である咲芽米斗、こちらにはわたくしのもう一人の付き人の八条瑞穂」
「こんにちは」
米斗と瑞穂は挨拶をした。
そして、二条家側からあることが言い渡された。
「ただいま、わが二条家の次期当主であります二条朱禰はいらっしゃらないのですが・・・?」
心配になった理子がこういった。
「朱禰さん、どうかされたのですか?」
「いえ。いつものことなので・・・」
「その、いつものことだったらもっと心配になります」
このままだといつまで経ってもキリがなさそうだったので、米斗が話に割り込んだ。
「あの・・・。朱禰様はどのようなお方ですか?」
お付き役は答えてくれた。
「朱禰様は、元気なのがいいのですが、毎日それに悩まされているのです」
「それって一体・・・?」
話は続く。
「今日だって、彼女は気づかれていないと思っているのでしょうが、屋敷を抜け出して町に方々しているんですよ・・・」
「え? 町にって・・・」
「多分、あの子だと思う・・・」
「2人とも、何なの?」
米斗と瑞穂はあのことを打ち明けた。
「御子様。ここに来た時に案内してくれた子がいましたよね?」
「ええ。いたわね」
「確証はないんですけど、その子が朱禰様だとわたしたちは思うんです」
「嘘でしょ!?」
「いいえ。あの子はいろいろなことをとても詳しく話してくれましたし、二条宮のことを瑞穂が話したら微妙な答えしか返ってこなかったし・・・」
理子は考えた末にこう答えた。
「考えすぎかもしれないけど、その子を探しましょうか。米斗、瑞穂、その子の手がかりとなるものは分かる?」
瑞穂が手持ちの手帳に絵を描いて見せた。
「こんな感じだったと思います」
瑞穂の絵はなかなか分かりやすいほどきれいなものだった。
「そうですね。その子です」
お付き役も一度見ただけで分かったそうだ。
「じゃあ、これを手がかりに町中を探してみましょうか」
こうして、朱禰の大捜索が始まったのであった。
***
街中を探したのだが、見つからなかった。
「さっきまではいたのにどうしてここまでしていなくなったの?」
「戻ったんじゃないのか?」
「そんなことはありませんわ!」
「確かにそうかもしれませんが・・・」
日が暮れてきた。今日は諦めようと思ったのだが、1人だけ諦めることはなかった。
「米斗!」
理子は突然言った。
「は、はい!」
そんな彼女の調子に米斗は驚いた。
「どうしても探したいから、あなたがつれて帰ってきて」
「はい? 訳が分かりませんよ」
「ここはどうであっても、あなたは『はい』の一言で済ませること。わかった?」
「は、はい・・・」
理不尽だと分かっていても、意味不明だと分かっていても、理子のいうことは絶対だった。
「た、多分、理子様には理子様なりのお考えがあるんでしょうかね・・・」
そう彼は思い、一応心当たりを探ってみた。
「(それとも、この俺の考えていたことがばれていたのか?)」
米斗は街から離れたとある小屋にたどり着いた。
「一度は来て諦めてみたけど、御子様はどうしているのでしょうか・・・?」
米斗は一応入り口をノックしてみた。
「朱禰様、朱禰様」
返事がなかった。
「もうお帰りになられた方がいいですよ?」
声がした。
「誰なの? それとも、お父様から言われたとか?」
米斗は素直に答えた。
「違いますよ。朱禰様が一日でもお戻りにならないと心配されると思いますよ?」
相手も答えた。
「・・・誰も、心配する人なんかいないもん・・・」
まるで分かりきっていたような口調だった。
米斗は言った。
「じゃあ、毎回抜け出しているんだね?」
「うん」
「どうしてですか?」
「みんなわたしに嫌なことばっかりを押し付ける。わたしだって嫌なのにどうしてそれを分かってくれないの?」
「簡単なこと。それは、みんながあなたさまを慕っている証拠です。でも、あなたさまはそれをとらえ間違っているだけです」
「慕っているから嫌なことを押し付けるの?」
「いいえ。嫌なことになってしまうのは、今がそうだけであるから。いずれはいいことになると思いますよ」
扉が開いた。
「暗い所じゃなんでしょうよ。長くなりそうだから入ってよ」
米斗は言われるがままにした。
部屋はきれいだった。それに、いろいろとここでも住めるようなものが数々とそろえられていた。
「米斗、だったよね?」
「そ、そうです」
米斗は確認した。
「あなたさまは二条朱禰様ですよね?」
彼女は答えた。
「うん。そーだよ」
彼女は話を続けた。
「でも、よくここだって分かったよね?」
「人目が少なければどこでもよかったって感じですし」
「他にもここで遊べるんだから」
「遊ぶ、ですか?」
「外は広いでしょ? いろーんなことができるの!」
「そうなんですか・・・」
話は二条宮に戻ることについてになった。
「今日もこっそり戻ろうと思ったの・・・。でも・・・」
「でも?」
「米斗たちが来ちゃって、なんか帰りづらくなっちゃった。それで今でもちょっと・・・」
「何です? それなら、俺が・・・」
「怒られちゃうかも・・・」
「それでも、朱禰様は毎日家を抜け出しているんですよね?」
「だってそれは・・・」
「言っておきますけど、もう知らない人はいませんよ」
「そ、そうなの!?」
「あはは。だから、この俺も行きます。これで俺も理子様にね・・・」
「わ、分かったわよ・・・」
こうして2人は二条宮へと戻った。
朱禰が無事だったということが分かり、みんなは明るく迎えてくれた。
でも、米斗は朱禰がどうして毎日抜け出しているのかという、朱禰が話していない本当の理由が少し分かるような気がしていた。
〜その後・・・〜
(米斗と瑞穂はなぜか一緒にいた・・・。そこで繰り広げられる、御子二条朱禰についてのことである・・・。)
瑞穂「どうしたの?」
米斗「いや、なんでもない」
(瑞穂は話を続けた。)
瑞穂「朱禰様って元気だね、本当」
米斗「そ、そうだね」
瑞穂「あれから、理子様はすぐに朱禰様とお話をされたんですって」
米斗「それで?」
瑞穂「朱禰様、まったく興味がないご様子でした」
米斗「あらら・・・」
瑞穂「そこで、理子様は強引に話し込んだの。でも、『大地より、米斗の方がいい!』って言ったそうですよ」
米斗「・・・」
(米斗、止まる。)
瑞穂「うらやましいねぇ、男っていうものは」
米斗「元々男だったんだろ、お前も」
瑞穂「いやだなぁ、『瑞穂』って名前で呼んでよ」
米斗「なんかいやだから、断る!」
(米斗、即答。)
瑞穂「もう・・・。ま、いいや・・・」
米斗「・・・で、今のお2人は?」
瑞穂「なんか、御子にしか通じない話だとか・・・」
米斗「そう、なんだ・・・」
瑞穂「あ〜。さては、おかしなことを・・・?」
米斗「誰がだ! それに、今の俺はそんなことを考えている暇なんてないからな」
瑞穂「ほぅ、よく言えましたね・・・」
米斗「なんだよ・・・」
瑞穂「なんでもないよー」
(瑞穂はさっさと寝た。)
米斗「なんだかなぁ・・・」
(よく分からないまま終わったが、結局朱禰はアルフィンに残ることになり、大陸のことはなかったことになったのであった・・・。)