全てに絶望せし少女たち…

結局、朱禰はアルフィンに残ることになった。
一応理子は話をしたのだが、興味がなかった様子。
でも、これだけは聞けた。
「どうしてもって言うんだったらまた話してよ!」
興味がなかったはずなのに、何が言いたいのか・・・。

そうは思いつつも、3人は三条宮のある都市『フォーレン』へと向かっていた。
もちろん、街道は渡らないと行くことができない。
「安全とはいえ、こういうのがないと不安って不便だよね・・・」
米斗が言った。 理子が答えを返す。
「そうね。でも、この地もまだまだ未開だそうよ」
そして、彼女は笑いながらこう言った。
「米斗、死んでもいいんだったら街道の外渡ってもいいんだよ?」
「や、何てことを言うんですか・・・。命は惜しいぐらいですよ」
「ふふっ。冗談だってば」
そんなことを言っていると、前を歩いていた瑞穂が急に止まった。
そして、こう言った。
「あそこに人がいる?」
「何言っているの? ここは街道なんだし、人の行き来があってもいいじゃない」
「違います。あんな遠い所に・・・」
よく見てみると、街道とはそんなに外れてはいないが何かをしようとしている姿まではとらえられた。
「まずいな・・・」
とっさに米斗が駆け出した。
「待ちなさい!」
理子が止めに入ったが、既に遅かった。
「米斗、どうかしたのかな?」

***

「待て! やめるんだ!!」
少女は何かを見ていた。
「街道はの外は危ないんだって」
「・・・」
「穴? でかいな・・・」
米斗はまさかと思った。
「落ちる気じゃないよな?」
そう聞くと、彼女はそのまま飛び降りていった。
「待てって言っただろ!」
米斗はとっさに彼女の腕をつかんだ。
腕をつかまれた彼女はこう言った。
「止めないでください!」
「何故だ?」
「いいんです。わたしはこの下に用事があるの!」
「・・・」
黙ってしまった米斗に彼女はこう言い返した。
「なんで赤の他人であるわたしを助けたのですか?」
「・・・死ぬ気、だったんだろ?」
「え・・・」
「こうなるって思ってたさ。たとえ直感だったとしても、俺はこうやって死んだ馬鹿を見たことがあるんだ」
「何のことか分からない」
米斗は彼女を引き上げることにした。
「それを聞こうって言うのか? 俺にどうして助けたのかを聞いておいて」
「はい・・・」
「そう簡単に話せないんだけど、俺が住んでいたところにこんな穴があった」
「はぁ・・・」
「聞いたって分からないんだし、言わなくてもいいかな」
「言ってください!」
「え?」
「いいから!」
米斗は仕方がなく言った。
「この穴は、後で知ったんだけど、ベアトリスの内部って言われているそうなんだ」
それを聞いた彼女はこう言った。 「実際の名はセクタと言いますよ。セクタは大陸と大陸を繋いで、この大陸の中心にある塔からエネルギーを供給しているのです。」
彼女の話は続いた。
「街道はセクタの上をはしっていて、セクタの付近はとても安全ということからや、街道の外つまりはセクタの一部、いわゆる稼働部はエネルギーの通路ということから、街道の外は危険ということなんです」
話を聞いて唖然としていた。
「やけに詳しいな・・・」
彼女は言った。
「セクタにさえ降りれれば・・・」
「死ぬことは考えるな! どうして死のうなどと考えているんだ?」
「それは・・・」
理子と瑞穂が来た。
理子が言った。
「はぁ、はぁ。何で急に飛び出すのよ?」
「すみません・・・」
瑞穂が言った。
「あ、遅れちゃった」
「というか、俺、しばらくしてから引き上げたんだし・・・。ま、いいか」

***

少女は米斗に助けられてからは落ちるのをやめた。
彼女は3人と共にフォーレンへと向かっていた。

フォーレンに着くと、彼女がこう言った。
「一条・・・理子様、ですよね?」
「そうですけど?」
「よかったです。理子様が真の大陸がどうのこうのっておっしゃっていましたから、いつかは来ると思いまして・・・」
訳の分からないまま、彼女の話は続いた。
「詳しいお話は三条宮でお聞きするとしまして・・・。とにかく、まずは三条宮へとご案内します」
理子が少女を止めた。
「待ってくださいな。まず、あなたが何者かを聞きたいものね?」
もちろん、米斗や瑞穂も気になっていた。
そして、少女は言った。
「わたしですか・・・。わたしは三条家の当主三条涼歌と申します」
それを聞いた瞬間、米斗はさっきまでの口調を改めようとしていた。
瑞穂は動じてもいない様子。
理子は納得していた。
「聞いたことがありますわね。幼くして当主になった家系があるって」
「三条家の御子様、なんですね」
「し、失礼しました。先の無礼を・・・」
「どうしたの、米斗?」
「相手は御子様だぞ。分かっているのか?」
「分かっているよ。驚くことでもないと思っただけ」
「そうか・・・」
3人のやりとりに涼歌は怒りもすらしなかった。
「いいんですよ。大丈夫です、今までどおりでも」
「待ちなさい。御子はそんなんじゃ・・・」
理子の発言に対して彼女はこう言った。
「わたし、御子だの当主だのなんてどうでもいいんです・・・」
それを聞いた理子は黙っていなかった。
「ちょっと、それならどうしてあなたは御子に選ばれたの? 当主になったのよ!?」
彼女はこう言った。
「勝手に決められたんです。わたしには関係ありません・・・」
「何言っているのよ!」
興奮している理子を米斗と瑞穂が抑えた。
「落ち着いてください!」
「りこさまってば!」
「あの子は本当にやる気があるの・・・?」
「理子様。話ぐらいは聞いてくださるそうなので、ついていきましょうよ」
「・・・そうね」
そして、理子は落ち着きを取り戻して、涼歌の所へ向かった。

***

部屋の外からでも分かる。
とても静かな感覚が、とても話し合っている感じがしていなかった。
米斗はどうせ分からないだろう、とは思いつつも、近くにいる瑞穂に話しかけた。
「なぁ・・・」
「ん? 何?」
「理子様と涼歌様、全然話が進んでいないって感じなんだけど?」
「あぁ、わたしにも分かるっすよ。少しぐらい話し声も聞こえてもいいのに、それすら聞こえない」
「なんだ、分かっていたのか」
「うぅ、わたしでも分かるよぉ・・・」
そう話しているうちに、米斗側にあった扉が強く開かれた。
そこから理子が姿を現した。
「涼歌、なんか消極的よね・・・」
どうにかしようとしているのを分かっていて、米斗は聞いた。
「何がです?」
「涼歌は一応話は聞いてくれてはいたものの、『ご自由に』や『お任せします』としか言わないのよ」
「一応受け入れているのでは?」
「でしょうけど・・・。なんか、わたしが思った以上に全国呼びかけは厳しいものなのかな?」
そんな彼女に当然励ましを入れる。
「大丈夫ですよ。朱禰様も大丈夫でしたし、話を聞くと、涼歌様も受け入れてくださったのでしょう?」
だが、それは彼女を余計に苦しめた。
「わたしはただ受け入れるだけじゃなくて、みんなで取り組みたいのよ!!」
「・・・っ」
彼女の勢いに米斗が勝てるわけもなかった。
「・・・ですね。これからはちゃんとやりましょうか」
「りこさまの理想をかなえるのがファンクラブの役割ですっ!」
「あ、ありがとう・・・二人とも・・・。これなら頑張れるわ(ファンクラブって言うのが余分だけど)」
3人は頷いた。

結局今日は話が進まないまま日が経とうとしていた。
――その夜のことである。

***

きれいに片付いている部屋。
灯りはなく、外からの月の光がちょっと小さな窓から注ぎ込まれている。
そして、少女。涼歌。

(なぜかとはまで言わなくてもわかるだろうけど)米斗はその部屋にいた。
「な、何なんです?」
その答えが返ってこず、米斗さん、と何かと言おうとする涼歌。
「わたし、あのまま落ちなくてよかったです」
「何故ですか?」
「米斗さんが言っていたとおり、まだ生きなければならない気がします」
訳の分からないまま、話が続いた。
「助けて欲しいとは思っていなかったんでしょ?」
「間違っていたんです、やっぱり」
涼歌は一度はためらいつつも、話し出した。
「・・・理子様の話は嫌でした。でも、話を聞いたらもう逃げられなくなっちゃいました」
「どうしてですか?」
と米斗は聞いてみた。
彼女は答えた。
「この世界には絶望していたんです。その絶望から救われるのなら、わたしはやってみようとは思いました。」
その言葉とは裏腹に本当の気持ちを伝えた。
「でも、どの世界でもわたしが思ってしまうことは叶ってしまうのです・・・」
「ぜ、全然分かりません・・・」
「ごめんなさい・・・。言うならば、どんなに新しい世界ができたとしても、そこでも必ずその世界もここのようになってしまう、ということなんです」
「はぁ・・・」
どう解釈しても分からない。
つまりは、『争い』ということから始まり、『偽りの平和』や『作り物の世界』というのがある・・・。
そういうことなのだろうか。
「理子様の考えには反対しようとは思っていません。しかし、理子様が新しい世界を創ったとしても、皆が同じならば皆がそれを我が物にすると思います」
「涼歌様は大地はみんなで作るということを分かっていらっしゃるのですね?」
涼歌は米斗の発言に修正を入れて言った。
「大地はみんなで作る、それは正しいですけど、結局は一人で作るのです。分かりますよね?」
「涼歌様の話を聞けばそこは分かります。しかし、俺たちは一人じゃ何もできません。何事も誰かによって助けられたり、支えられたりしていることをご理解ください」
涼歌は少し静かになった。
「あの・・・?」
「あ、いえ・・・。確かに、そうですね。わたしはずっと“一人”だったから・・・」
「あ、あの・・・。だから・・・」
「気にしないでください。今は両親が決めた役割を果たすだけです」
彼女はそういうと、米斗を部屋から出した。
その時にこう言った。
「わたしのことは涼歌で構いません。まだわたしには『様』は重いですから・・・」

こうして、彼女との話が終わった。
彼女はただ話がしたかっただけなのか・・・。
彼女は何のために呼んだのか・・・。
彼女は一体何をしたかったのだろうか・・・。
それを今の米斗に分かるわけがなかった。
そして、涼歌との出会いが米斗を大きく変えることすら、誰にも分かるわけがなかった。
もちろん、涼歌自身にも・・・。

***

翌日。
涼歌は三条宮に残ることになった。
「・・・じゃあ、分かっていてああおっしゃったのですか?」
「ええ、すみません、ご無礼を・・・」
「いいのよ。やっぱり難しいって分かったから」
「わ、わたしからもできるだけ住民から話してみます。もし、必要なものがあれば言ってください。頑張りますから!」
「す、涼歌様・・・」
昨日とは全然違う彼女に瑞穂は少し驚いていた。
「昨日と全然違うね、涼歌様って・・・」
「そうだな・・・(正直、あれだけでここまで変わるものなのか?)」
「ん? 何か言った?」
「ただ、そうだなって言っただけだぞ。聞こえなかったのか?」
瑞穂は首を振った。
その会話の最中に、いつの間にか理子に置いてけぼりを食らっていた。
「何をしているのですか! 次へ行きますわよ!」
「は、はいっ!」
瑞穂は急いで追いつこうとした。
だが、米斗は涼歌に振り向いていた。
そんな米斗に涼歌は言った。
「行かないのですか?」
米斗は否定した。
「いえ、行きますけど・・・」
「わたしのことですか・・・。それなら、いつでもいらしてください。今度はちゃんとした話をしますから・・・」
「は、はぁ・・・」
「気になることがあるのでしたら、これを・・・」
涼歌は通信機のようなものを出した。
「これは・・・」
「ベアトリーチェにも似たようなものがあるとお聞きしました。でも、これは対になっているもう一つとしか通信ができないんです」
「あ、いや・・・。こういうの、慣れていないというか、使ったことがないんです」
「それなら・・・」
通信機(通信機のようなもの の略称で)に戸惑う米斗に涼歌は教えようとしていたのだが、そんな時間があるわけもなかった。
「米斗! 何やっているのよ! 置いてくぞー!(そんなことができるわけがないけどね)」
「す、すまない。今行く・・・」
そんな米斗の服のポケットに涼歌はこっそり何かを入れていた。
「落ち着いたら、上着の右ポケットに・・・。って届いたのでしょうか?」
米斗の姿は涼歌からはもう見えなくなっていた。

***

理子は自分の戸惑いつつも、今のやり方が間違っているわけではないことを知った。
瑞穂は理子をもっと支えようと努力することを決めた。
だけど、米斗にはまだ理子達と共にこのまま歩んでもいいのか、と少しの揺らぎを感じつつあった。
でも、それはほんの一瞬。
でも、それは米斗が選ぶこと。
正解の道はないかもしれない。
いや、正解の道は米斗がこれから選ぶのだ・・・。


〜その後・・・。〜
(夜というものは落ち着くものだ・・・。)
(米斗は“気になること”を聞いてみようと思った。)
米斗「これか・・・」
(取り出した通信機を眺めていた。)
米斗「結局使い方が分からないんじゃ使えねぇし・・・」
(米斗は涼歌のある一言を思い出した。)
米斗「上着の右ポケット・・・、あった、これか」
(ただの紙切れ一枚だっただが、よく見ると何かしらの説明のような物が書かれていた。)
(米斗はすぐにそれを通信機の使い方が記されているものだと理解した。)
米斗「@右にあるボタンを押す・・・っと」
(右側にあった赤色のボタンを押した。)
(すると、大きな何かの音がした。)
米斗「ちょ、ちょっと待てよ!」
(大音量の発信音だった。)
(その音のせいで瑞穂が起きてしまった。)
瑞穂「何の音なの?」
米斗「さ、さあね・・・」
瑞穂「・・・ま、いいや・・・」
(瑞穂は寝た。)
米斗「ふぅ、すぐに寝てくれてよかった・・・」
通信機「は、はい。誰でしょうか? あ、いえ、米斗さんですか?」
(相手が通信を受け取った。)
(もちろん、声は涼歌だった。)
米斗「あー・・・。おい・・・」
(米斗の声は相手に届いていないみたいで、何度もマイクテストのようなことをしていた。)
(そんな状況を察したのか、涼歌は言った。)
涼歌「あの、右側の黄色のボタンを押しながら話していますか?」
(米斗はすぐにボタンを見つけて言った。)
米斗「どうも、ありがとうございます・・・」
涼歌「いきなり発信スイッチを入れてしまったのですね」
米斗「ええ、まあ・・・」
(本来の目的どころじゃなくなった。)
米斗「お、音が大きいですね・・・」
涼歌「音量が多いんでしたら、左側にある『音量 大▽小』の隣にあるもので調整してください」
(米斗は音量を小へ回した。音がちょうどいい大きさになった。)
米斗「ふぅ・・・。何とかなりましたよ」
(もう説明書の意味がなかった。)
涼歌「渡した日にかけてくるとは思いませんでしたよ」
(涼歌はそう言うと、通信機のことを話し出した。)
(通信機は『トランシーバー』という異国の古代文明の遺産をベアトリスの技術により改良されたものであった。)
(これはベアトリーチェにある『Dフォン』というものの原型になったらしく、今は全国の誰とでも話せる所から、使われなくなったそうだ。)
涼歌「えっと、何かご用事でおかけになったんですよね、そういえば」
米斗「そ、そうだった・・・。」
(米斗は用件を伝えた。)
涼歌「・・・そうでしたか」
米斗「今度でもいいってなっちゃうんですよね・・・?」
涼歌「大丈夫です。わたしは自分を捨てたりはしませんよ!」
(続けて、涼歌がこう言った。)
涼歌「もし、よければでいいんですけど、米斗さんと剣の関係がある人がいなければ、今度でいいので答えをお願いできますか?」
米斗「お、俺が涼歌の!?」
(正直焦った。)
涼歌「あ、いえ。ご迷惑なら・・・」
米斗「一応、考えておきます・・・」
(通信機越しで涼歌が喜んでいるようにも感じられた。)
(そして、彼女は通信終了の方法を教えて通信を終わらせた。)
米斗「俺が涼歌の・・・、って何を考えているんだ、俺は!」
(こうして、この夜が終わったのであった・・・。)