知識を求めし少女たち…

ベアトリスにも『学都』と称されるものがあった。
その名は『クローレン』。
3人はそこへとたどりついた。
学問を学ぶなら、クローレン。という謳い文句もあって、そこには学校のような建物が多かった。
しかも、最新の都市形態を取り入れており、全てはそこに住む人のためにあるような街だった。
数多くの図書館、数多くの学校、そして、数多くの生徒たち・・・。
何も不満なく、しかも有意義に暮らしていた。

そんなところに、真の大地の復活を志に持つ3人がやってきた。

***

「にぎやかだね」
瑞穂ははしゃいでいた。
「ベアトリーチェにはここからやってきた人が多いんですよね?」
米斗が言った。
「ええ。総統はここの人々を官僚として、多くの人を迎え入れているわね」
理子は意外な状況に少し驚いていた。
「ここに、五条家の御子様がいらっしゃるんですね・・・」
「ええ。それと、五条家を守っている七条家もね」
「七条家もですか・・・」
米斗はあることをたずねてみた。
「そういえば、朱禰様や涼歌様には七条家みたいなお方はいませんでしたね」
「いますわよ」
「え?」
「朱禰には四条瑠梨という刀を受け継いだ御子が」
「そうでしたか」
「涼歌は聞いたことはないわね・・・。でも、涼歌はすでに結婚しているという噂があるんだけど、嘘だと言うことは分かっているわね」
「そんな噂を流した人がいたんですか・・・」
「おかしなことをする者がいるものなんだ、と思ったわ」
「そうですね」
はしゃいでいた瑞穂が急に何かを言った。
「むむむっ!? わたしと同じニオイがする・・・」
「へ?」
米斗と理子には訳が分からなかった。
「ファンクラブのやつか?」
米斗がそんなことを言ってみた。
しかし、瑞穂はそんな感じがしなかった。
「ファンクラブじゃないよ。ファンクラブなら別のニオイだもん」
米斗と理子はもう訳が分からなくなった。
「(別のニオイってどんなニオイだよ!?)」
そんな2人に対して、瑞穂の中では勝手に進んでいた。
「い・い・か・げ・んに! 隠れているんじゃないわよ!」
そう言って彼女は茂みに飛び込んだ。
「ちょ、ちょっと、やめ・・・っ」
誰かがいたようだ。
「う、うわわ、わわっ・・・」
声が聞こえていたのだが、全て瑞穂の声だった。
そして、茂みから瑞穂をつかんで出てきた女の子が現れた。
「寝ていただけなのに、何なのよこの子・・・」
彼女は理子を見た途端、態度が変わった。
「り、理子様っ! お、お久しぶりですっ!」
彼女はこの街とは合わず、古い時代に伝わった衣装と髪の結い方をしていた。
挨拶をしてきたので、理子は素直に返した。
「はい、ごきげんよう。・・・とは言っても、お久しぶりって?」
「あ、あの。1ヶ月前に騎士団と剣の稽古をしてました・・・」
それを聞くと、理子は納得した。
「ああ、あの子ね・・・」
「えっと、この子は?」
理子は彼女を紹介した。
「彼女が二条家に仕えている四条瑠梨さん。古き家系の一つで、その家系でしか伝えない刀の道を受け継いだ御子ですわ」
「ご紹介ありがとうございます、理子様。」
「えっと、俺は・・・」
米斗が話そうとしたが、瑠梨が理子にこういった。
「理子様ってお決めになられたんですね、盟約を」
瑠梨は米斗を見て言っていた。
理子は否定した。
「ち、違うわよ! 米斗はただの犬よ!」
「い、犬って・・・」
「文句ありませんわよね?」
理子は米斗を目で威嚇した。
「あ、ありませんっ!」
そんな米斗に瑠梨は理子にこういった。
「犬だなんてかわいそうですよ。わたしから見れば、そこの男は剣の腕が立つような感じがします・・・」
「俺は咲芽米斗だ!!」
瑠梨はあっさりとかわした。
「分かってるよ。米斗だって一度わたしと会ったことがあるはずですし」
だが、米斗はそんなことを覚えていなかった。
「・・・そんなことあったっけ?」
「何ですって!? わたしがあなたに、今度会った時に剣の打ち合いをするって言ったはずです!」
「そんなこと知らないけど、いいか・・・」
「もう、いいわよ・・・。今すぐやるわ」
「はぁ?」
米斗は剣の打ち合いをやる気なんかなかった。
「今すぐに優花の所に行くわよ!」
「お、おい、待てよ・・・」
瑠梨は米斗を引きずっていった。
「ちょ、ちょっと、瑠梨!」
理子はまだ気絶している瑞穂を抱えて瑠梨の後を追った。

***

向かった先は五条宮だった。当然だろうか?
「ゆうかちゃーん!」
「その名で呼ぶのはやめろ!」
「いいじゃん」
「あのね・・・」
年下の優花はこれでも、若くして御子である。
『学都』の御子は都市を統括している長みたいなもので、皆からは『委員長』などと呼ばれている。
「もう・・・。瑠梨ってば・・・」
「早いです。というか、俺は引っ張られまくってへとへとです・・・」
そんなのをよそに、瑠梨は話を始めた。
「ねえねえ、コロッセオを貸切にしたいんだけど!」
急な話に優花も驚いた。
「何? また、誰かと決闘なの?」
「そーだよ」
優花は言った。
「あのねぇ。もうあなたに勝てる人なんていないんだからね・・・」
「ここにいるよ」
「誰よ?」
瑠梨は米斗を指差した。
優花は米斗を見た。
「?」
米斗を見た彼女はこう言った。
「興味あるわね・・・」
それを聞いた瑠梨は喜んだ。
「でしょでしょ! だからさ・・・」
優花はグッドサインを出した。
「いいわよ!」
「うふふ・・・」
そんな2人に米斗は・・・。
「お、おい・・・」
優花が言った。
「あんたみたいな男、なんか珍しいもん。もっと知りたいし」
「はあ? そんなんでOK出されちゃ困る・・・」
「何言っているの。あなたは御子には逆らえないでしょ」
「そういうことじゃないけど・・・」
米斗は仕方なく何かを言うのをやめた。
「じゃあ、レッツゴー!」
米斗は瑠梨にまた引っ張られた。
「うわああああぁぁぁぁ・・・」
「米斗!」
「な、何なんです?」
気を取り戻した瑞穂が言った。
そんなことを知らずに理子は瑞穂を担いで後を追った。
「な、何なんですかぁぁぁぁ!」

瑠梨による成り行きでコロッセオという場所に連れて行かれた。
もう3人には訳の分からないまま話が続いていた。
「いい? 1対1でギブアップか戦闘不能になるまで勝敗は決まらないわ」
「じゃあ、ギブアップ」
「だめ! 米斗は戦うの、わたしの代わりに」
瑞穂が割り込んだ。
「はぁ? なんで、お前のためにたたかわねぇといけないんだよ?」
「ふふっ、瑞穂ってば、いくらわたしに勝てないからって米斗を応援するだなんてねぇ・・・」
「な、何よ・・・」
「いいよ」
米斗はもうあきれていた。
「あのさ、もういいか?」
「お、やるんだね?」
「いや、やめたい」
「だから、だめだって言っているでしょ!」
瑠梨は米斗に攻撃を仕掛けた。
「・・・」
米斗は攻撃を剣で受け止めていた。
「な・・・っ」
米斗は怒っていた。
「だから、ふざけるんじゃねえよ!」 彼は彼女の剣を弾いた。
「やる気はねえ。ただ、これがただの遊びだったらやめておけ・・・」
他の人は驚いていた。
「・・・」
「・・・」
「米斗・・・」
「あはっ・・・」
米斗は剣をしまった。
そして、こう言った。
「・・・瑠梨様はこういうのを楽しんでやっているのですか?」
瑠梨は言った。
「いえ・・・。そういうわけじゃないんです・・・」
「それなら、おふざけが過ぎますよ」
「米斗さんがそういうのなら・・・」
瑠梨はおとなしく引き下がった。
こうして、決闘が終わったのであった。

あれから、五条宮に招かれた3人プラス瑠梨の4人。
そこで、優花は米斗の強さを評価した。
「すごいものです。本当なら米斗様のことをもっと知りたいのですが・・・」
米斗は空返事をした。
「は、はぁ・・・」
「そこでなのですが、理子様にお願いが・・・」
そう言うと、優花は理子にある話を持ちかけた。
「・・・でね、・・・ということなんですが・・・」
「・・・よ、・・・・さないんだから!」
「そこをなんとかっ!」
「嫌よ!」
そこに米斗が割り込んだ。
「何を言っているんです?」
理子が答えた。
「米斗はわたしのものよ!」
優花が言った。
「わたしはただ、知りたいだけ! 物にしようとは考えていない!」
「同じことよ!」
「いいえ、違います!」
そんな中に誰かがやってきた。
「優花。なにやってい・・・って、何ですかこれは!?」
その声を聞いた優花は動きを止めて、彼女の所へ向かった。
「アレは終わったの?」
彼女は答えた。
「終わりました」
「そう・・・。ご苦労様」
御子室からどこかへ行っていた瑠梨が戻ってきた。
そして、ある人を見て彼女はこう言うのだった。
「あ、科鈴じゃん!」
その声を聞いたその子は瑠梨がいる方を振り向いた。
「あ、瑠梨さん・・・」
瑠梨を見た彼女は表情が変わった。
そして、こう言った。
「瑠璃さんのせいで、毎日毎日町の被害を修復しているのに、当の本人ときたら・・・。それと、優花も・・・」
瑠梨と優花が返答した。
「科鈴がいるからわたしは安心できるんですよ」
「わたしはやることがあるし・・・。それに、科鈴は一番信頼できますわ」
「あのね・・・」
科鈴は呆れていた。
そんな内輪の中から外されていた3人はこの状況をただただ見ていただけだった。
「わたしたち、どうなるんでしょうかね?」
「お、俺に言われてもなぁ・・・」
「わたしも知らない」
そして、話が終わった。
3人に気づいた科鈴は3人に対して自己紹介をしてくれた。
「あ、わたしは七条家の御子、七条科鈴と申します。以後よろしくお願いいたします」
律儀に対して、3人はきちんと返した。
「あ、はい・・・」
頃合いかと思っていたのか、一瞬優花の表情が変わったのを米斗は見ていた。

「さて、理子様」
優花が大きないすに座って話を切り出してきた。
「今回は真の大地についてお話に参られたのですよね?」
理子は「はい」と答えた。
「ベアトリーチェには多くの同胞がお世話になってますわ。なので、できる限りはご協力させてもらう、という方向でお願いします」
「あ、ありがとう・・・」
あっさりとOKをもらうことができたようにみえた。
「でも、わたしのお願いを聞いてもらえませんか?」
「・・・分かったわ。おっしゃってみなさい?」
優花は要望を述べた・・・。
それを聞いた理子は快く受け入れた。
「分かりました。後日、支援金を1回分だけいつもの2割り増しにしておきますわ」
「ありがとうございます!」
こうして、ついに交渉が成功した、という実感を得られた。
「いえ、こちらこそ・・・」
しかし、科鈴はちょっと違っていた。
「その、真の大陸のことについてなのですが・・・。わたしにはまだ受け入れがたい点がありますので・・・」
理子は答えた。
「分かったわ。別に今すぐに決めろとは言いませんわ」
「はい。ちゃんと考えますので・・・」
こうして、本来の目的が終わった。
そして、今日は五条宮に泊まることになった。
科鈴が事前に部屋を空けてくれていたのか、瑠梨を含めた4人を招待した。
理子と瑞穂、米斗と瑠梨というそれぞれ2人という組み合わせて部屋が決まった。
部屋に入った途端、瑠梨はこう言った。
「・・・変なことはしませんよね?」
米斗は即答した。
「しないから安心してください」
瑠梨は心配になりそうながらも、信じてみることにした。
「・・・信じるわ」

***

その夜。
米斗は珍しくこの先のことを考えていた。
残っているのは、六条宮・・・。あとは九条宮・・・?
九条家は六条家に仕えていることも理子から話を聞いて知った。
真の大陸は何なのか、本当に実現できるものなのか・・・。
米斗はそう考えつつ、部屋の窓から外を見つめていた瑠梨を見つけた。
彼は思わず近づいて声をかけてしまう。
「瑠梨様・・・」
思わず呼んでしまった。
瑠梨は振り返った。
「あ、米斗・・・」
瑠梨は近くにあったいすに座った。
そして、彼女は米斗にもいすに座るように言った。
それに従って米斗は素直に座った。
米斗がいすに座ると瑠梨から話しかけてきた。
「今日ぐらいのこんな時間に話せないかなって思っていた・・・」
彼女はこれが好機かのように話し出した。
「米斗は、<強さ>って何なのか分かる?」
米斗は考えた末にこう答えた。
「<強さ>・・・。一律には答えられないものです。しかし、それを見出すのが俺たち<剣を持っている者>の使命だと思うのです・・・」
彼女は少し納得したような感じで言っていた。 「そうなんだ・・・」
米斗は付け加えた。
「でも、俺は本当に自分が進んでいる道が合っているのかが分かっていない」
「米斗。それは誰にも分からないわ。でも、進んでいる道が間違っているって思ったらやめればいい、正しいと思ったらそのまま進めばいい。それしかないわ」
「そう・・・ですね・・・」
瑠梨に少し笑顔が見えた。
「ふふっ」
「何なんです?」
「米斗なら、どんなことをやっても間違いはないと思うわ。これなら、朱禰様にいい知らせができそう」
「そうですか・・・。それはなにより」
瑠梨は立った。
「それと、米斗とは同じ剣の流派を感じる。だから、同志として、友として、これからは共に戦おう!」
そう言って瑠梨は寝た。
「瑠梨様・・・」
米斗も強さとは何かを改めて考えたのであった。

***

翌朝。
米斗、理子、瑞穂の3人は次の場所へ、瑠梨はアルフィン方面へと向かった。
「米斗にちょっと・・・」
別れ際に瑠梨が米斗をたずねてきた。
米斗は答えた。
「何ですか?」
瑠梨は言った。
「米斗は今進んでいる道を後悔したことがありますか?」
「え?」
「昨日の夜、あなたは自分が正しいと思った道は全て正しいと言ったので・・・」
米斗は悩んだ。
「俺はまだ、これでも『主君』を持たない身であります。でも、今の道ははっきり言ってまだ正しいとは言い切れない。後悔するかもしれません・・・」
瑠梨は微笑んでこう言った。
「あなたにはまだ希望がある。あなたにはまだ可能性もある。そして、あなたには・・・信じる心がある」
「それは一体・・・?」
「あなたにはあなたを求めている人がいるということ。もちろん、わたしにもわたしを求める人がいるから頑張れるし、諦めずにもいられるし」
「俺を求める人、か・・・」
「あなたはまだ急がなくてもいい。あなたにはまだ機会がいくつでもあるから・・・」
「瑠梨様・・・」
瑠梨は米斗に別れの挨拶を告げて去って行った。
そして、米斗の後ろからいつもの声が聞こえてきた。
「米斗! 早く来なさいよね!?」
「わ、分かりました!」
こうして、3人は次の場所へと向かった・・・。

<強さ>には様々なものがある。
力、心、言葉・・・。
どこの世界にもありふれたものが全てとなってしまうのだが、全てが正しいわけではないだろう。
力は『勝つこと』が強さ・・・。
心は『知ること』や『想い』・・・。
言葉は『気持ち』や『理解』・・・。
全てを得ることが理想。いや、それは無理。
一つは、全てを持ち得なくとも<強さ>はそれぞれあるからだ。
もう一つは、人はそれぞれのやり方で<強さ>を分かっているはずだからだ。
彼は思っただろう、「自分はあの人と共になら・・・」と。


〜ちょっと番外・・・っすか!?〜
(ここは本編とは関係ない内容であります。なので、本編と照らし合わせても無駄です。)
(ちなみに、本編とは関係ないといったのだが、一応五条宮にいるという設定です・・・。)
瑠梨「米斗! ちょっといいかな・・・?」
(とある学都にある学園。そして今はその学園の放課後。)
米斗「な、何だよ!?」
(言い遅れたが、米斗と瑠梨は幼馴染みという設定であります・・・。)
瑠梨「放課後にこんな所に呼び出してごめんね」
(話は、この日に瑠梨が米斗のロッカーに手紙をしのばせたことからここまで発展した。)
米斗「・・・申し訳なく思うのならするなよ・・・」
瑠梨「違うの。本当に話があってさ・・・」
米斗「じゃあ、何だよ?」
瑠梨「いや・・・、えっと、その・・・」
米斗「・・・」
(米斗はその場を去ろうとした。)
瑠梨「ま、待ってください!」
(瑠梨は米斗を引き止めたのだが・・・。)
瑠梨「あ、いえ・・・。えっと、その・・・」
米斗「・・・」
(米斗はまたその場を去ろうとした。)
瑠梨「待ってよ!」
米斗「一体、何なんだよ! このまま何回も引きとめようというのか?」
瑠梨「ご、ごめん。今度はちゃんと言うから」
米斗「分かった」
瑠梨「わ、わたし・・・、わたし、米斗のことが・・・」
米斗「な、何だよ?」
瑠梨「米斗のことが好きです! 昔から好きでした!」
米斗「な・・・っ!?」
(米斗は詰まった。)
米斗「何を言ってやがる?」
瑠梨「分かってるよ、わたしが変だってことは。でも、米斗がダメって言ったら諦めるから・・・」
(米斗はその場を立ち去ろうとした。)
瑠梨「待って!」
(瑠梨が引き止めようとするが、米斗は止まらなかった。)
(そして、米斗はこう言い残した。)
米斗「・・・悪くはない。でも、俺にはまだよく分からないんだ、ごめんな・・・」
瑠梨「米斗・・・」
(返事はOKなのかどうかは分からなかったが、この後の二人には何も影響がなかったようだった・・・。)