総統失脚
無事に地上での真の大陸創造の協力を得た3人は紀実に教えてもらった6番エリアでベアトリーチェへ帰ろうとしていた。
「ここが6番エリアですか。とても静かですね」
米斗がそう言うと、理子が答えた。
「当然よ。ベアトリーチェの民でも公共の街道である1番エリアしか知らないんだし」
「そうなんですか・・・」
理子は話を続けた。
「ベアトリーチェと地上を、全てではないけど直接繋がっている街道は1番、3番、5番の3つのエリア。他のは塔の中枢エリアにあるカタパルトエッジという所に繋がっているわよ」
それを聞いた米斗はある疑問を持った。
「それは分かりましたけど、せっかく直接繋がっている街道の3番と5番をどうして開放しないんでしょうか?」
話を聞いていた瑞穂が横槍を入れた。
「3番は三条家しか知らないから、他の人が開放したくてもできないんだよ。ちなみに、5番はクローレン直通ね。でも、5番はえらーい人しか出入りできないんだよ」
「そういうものか・・・」
「あと、5番エリアは官僚職の入国審査みたいなのがあるから、一般人が行き来できないようになっているのよ」
「直通は便利だけど、その分外部からの敵が侵入しやすいから、いろいろと厳しいってことか・・・」
「そういうこと」
そう話しているうちに3人はカタパルトエッジにたどり着いた。
「着いたわ。ここがそうね・・・」
そこはセクタの内部とはちょっと違う雰囲気を出していた。
「カタパルトエッジは塔の様々な場所へ向かうことができるわよ」
理子はここについて話し出した。
「ここには10の昇降機というものがあるらしいんだけど、大抵のことがない限り1つないし1つも使わないこともあるしってことになるわね」
そこで、米斗はたずねた。
「それで、ベアトリーチェに戻れる昇降機はどれなんですか?」
「ベアトリーチェに戻れるものって・・・どれだったっけ?」
彼女は一応場所を覚えていたのだが、一度も使ったことがなかったので、忘れてしまっていた。
「そ、そうなんですか・・・」
静まる場面。
そんな中、瑞穂があることを言った。
「ちなみに、ファンクラブの本部があるのは伍番機だよ」
2人はひいた。
「な、なんで?」
米斗が答えた。
「なんでって、俺たちはな・・・」
言いかけの米斗を理子が止めた。
「い、いいわ。何の解決策にもならないけど、そういうのなら・・・」
「やったぁ! ついに理子さまがファンクラブを訪れてくれるんだね?」
「いや、違うんだけど・・・」
2人は引き気味だったが、瑞穂は喜んで伍番機へと向かっていた。
2人は仕方がなく瑞穂の後をついていった。
だが、その後をつく1人の影を忘れてはならなかった。
***
伍番機は塔を下っていった。
「伍番機ってどこへ繋がっているんですか?」
「あー、思い出したわ。伍番機は八条宮が管理している旧都市に繋がっているわ」
「旧都市?」
「そう、旧都市」
理子はそう言って、瑞穂に説明を促した。
「あ、はい・・・」
「わたしより、管理している立場の方の瑞穂ならいいんじゃないかって思ったんだけど」
「あ、俺は誰でもいいので」
「あなたっていう人は・・・」
「なんか、いい感じがしない」
結局瑞穂が話すことにした。
「旧都市は今やスラムって呼ばれているの。でも、本当の名前はベアトリスという、伝説に名を残す女騎士からとったと言われているところなの」
「ベアトリス・・・」
「まぁ、昔の華やかだった頃とは違って、廃れちゃったけど・・・」
理子は付け加えをした。
「昔はベアトリスとベアトリーチェで戦争をしたことがあったって言われているわよ。それでベアトリスは負けて、都市としてはベアトリーチェが機能するようになったって言われているわ」
それが話された途端、瑞穂の様子がちょっと変わったような気がした。
「・・・」
それに気づいた米斗は、
「理子様・・・」
気を遣ったのだが、理子は気づいていなかった。
「今は収容所って感じなんだけど・・・」
「理子様!」
瑞穂は何も言わずにファンクラブ本部へと足を向けていた。
「分かったわ、ごめんね・・・」
理子は謝ろうと瑞穂を追った。
米斗は何もつっこまずに2人の後を追った。
しかし、それを止める声が聞こえた。
「待ってください!」
それが次第に近くで聞こえた。
彼が振り返ると、その目線の先には楓葉がいた。
「よかった、そのまま黙っていなくてよかったよ」
「それなら、声を掛ければよかったのに・・・」
楓葉にはそれができない理由があった。
「米斗さん。あなただけに伝えたいことがあったから」
「俺だけに?」
「はい」
早速楓葉は話を始めた。
「紀実様から言付けを・・・」
***
「瑞穂!」
瑞穂は立ち止まった。
「・・・」
でも、返事がなかった。
「ごめん。別にあなたのことを悪く言ったわけじゃ・・・」
だが、瑞穂は怒るどころか逆に喜んでいた。
「ここが、理子さまファンクラブの本部だよ!」
建物は質素なつくりだったが、スラムにしては上々なものだった。
「なかなかなものね・・・」
「ベアトリーチェにある所よりはだめだけど、こっちの方が大きいんだよね」
「確か、ここって八条宮の近くよね?」
「そうですよ。それがどうかしましたか?」
「おかあさんはこのことをどう思っているの?」
「どうって・・・」
瑞穂は何の疑問も思ってなかった。
「そんなの、話しているわけないです」
それを聞いた理子はこう言った。
「大丈夫なの?」
「はい、大丈夫です。ばれなきゃいいのです」
理子は心配そうに言った。
「ばれたら、どうなるの?」
「それは・・・」
瑞穂は黙ってしまった。
「それは、何なの?」
「それは・・・」
彼女は「それは・・・」で何度も止まってしまう。
理子はいい加減聞き飽きたかのように怒鳴ってしまう。
「いい加減にしなさい! 何だって言うんですか。なんでもないのならちゃんと話して!」
理子の珍しい対応に彼女は怯えてしまった。
しかし、そうであっても彼女は口を開いた。
「あまり入り口の前でわたしばっかり話していると他のファンのみんなが怒っちゃうので・・・」
違う答えが返ってきた。
理子はずっと話していることに気が付き、今のことを後回しにした。
***
本部には大勢の人がいた。
瑞穂によれば、元は孤児院の建物をそのまま占領していたら建物の管理を任されていたついでにここをファンクラブ本部を設立したそうだ。
「へぇ、孤児院として扱っているからばれていないってことか・・・」
「うん」
それを聞いた理子は安心した。
「本当はある意味もあの意味も安心はできないんだけど・・・」
理子は瑞穂にやりたいことをやらせた。
その間にベアトリーチェへ戻る昇降機がどこにあるかを思い出すことにした。
だが、米斗がまだ来ていないことにしては誰もが軽く思っていた。
***
「みずほおねえちゃーん!」
孤児院の子供たちは瑞穂に駆け寄ってきた。
「あ、うんうん。2週間もいなくてごめんね」
口々に子供たちが言った。
「あそぼー!」
「おねえちゃん。前のやつ教えて!」
彼女は全てを受け入れた。
「はいはーい。分かったから、分かったから」
そう言って彼女は子供たちの相手をした。
そんなにぎやかそうな状況を見たのか、理子はあることをたずねた。
「まさかと思うけど、その子たちもファンクラブの会員なの?」
「ん? みんな、理子さまは大好きですよ?」
「あのー、さっきから話を・・・」
「ファンクラブにまでは巻き込んではいないよ。でも、好きで入っている人はいるかなって感じです」
「そう・・・」
今日は偶然集まりというものがなかったのか、正規のファンクラブ会員は来なかった。
***
米斗のことはもう気にもされていなかった。
あれから何日経っても思いつかなかった理子。
そこで、今更あることに思いたった。
「ねえ、塔の地図ってここにある?」
瑞穂は言った。
「えっと、探してみます」
そう言って探すと、1枚の大きな紙が出てきた。
「こんなに大きい地図があったんだ・・・」
「ここが多分カタパルトエッジだと思うんですけど・・・」
彼女は指で位置を示した。
そして、もう1枚地図を出し、ある場所を指してこう言った。
「ここが壱番機で、右へ順に追っていって、弐番、参番・・・っと」
「じゃあ、参番機であるここからベアトリーチェに戻れるわ」
「思い出せたんですね!?」
「ええ」
それを聞いた瑞穂は、
「今日はさすがに子供たちの世話係をしなければならないので、今日は手伝ってもらって、明日にしてもらえませんか?」
と珍しく使う口調に合わせてお願いをしてきた。
理子はそれを快く受け入れた。
「分かったわ、明日でも間に合いますから手伝いましょう」
そう言って理子は瑞穂からやることを聞いてそれをこなした。
***
翌日になった。
彼女らはベアトリーチェを目指すためにカタパルトエッジにある参番機へと向かっていた。
まずは戻るために伍番機へと乗った。
そして、瑞穂がこう言い出した。
「参番機はここを出てすぐ右です。左から回ってもいいのですが、遠回りになるよ」
「ええ。分かったわ」
「カタパルトエッジにはたくさんの昇降機があるために分かりやすいところに何番機かが書かれているそうです。もし、迷ってしまったらそれを目安に探すのも一つということです」
「そうね・・・。でも、どこに書いてあるのかしら?」
「ごめんなさい。わたしにも分からないです」
「そう・・・」
伍番機はカタパルトエッジへと到着した。
「よし、次は参番機ね」
2人は参番機を目指した。
「ここって塔の周りを囲んでいる構造になっているのね。それで、迷った時には一周していることもあるっていうわけなんだ・・・」
「意外に複雑じゃないんだけど迷うと訳が分からなくなりそうですね」
そんなことをいいつつ、2人は近回りをしていたはずなのになかなか参番機にたどり着けずにいた。
それに気づいた理子はあるものを見つけて気づいた。
「き、九番機!?」
それを聞いた瑞穂は驚いた。
「あらら。早速間違えたのでしょうかね?」
「瑞穂。あなたがちゃんと見ていなかったからでしょ?」
「うぅ、わたしだって知りませんよぉ・・・」
2人は来た道を引き返した。
壱番機・・・。
弐番機・・・。
参番機・・・ここだ。
「ここでいいのよね」
「ええ。昇降機の上に『参』と書かれたプレートがありますから・・・」
こうして2人は参番機に乗ることができた。
しかし、2人はまだ宮家で起きていることなど知る由もなかった。
***
それは、理子と瑞穂が参番機に乗ろうとしていた時と同じ時刻のことであった。
宮家のとある場所でのこと。
そこには米斗がいた。
だが、米斗の他にも誰かがいた。
米斗が言った。
「本当にやる気なのか?」
男は答えた。
「ああ。お前なら分かってくれるだろうと思うのだがな」
「俺はお前が何のためにやるのかが分からないんだ・・・」
「そうか・・・。お前はまた俺の期待を裏切るんだな・・・」
俺の期待?
そんなことは米斗には分からなかった。
「何のことだよ、お前の期待って?」
「今更忘れたとは言わせんぞ! 俺はずっと貴様が言ってくれたことを覚えているんだ!」
「な、何なんだよ?」
彼は怒った。
「もういい! 貴様がどれだけ教会の犬に成り下がったかが分かったよ!」
彼は机を叩いてこう言い、そのまま部屋から出ようとした。
出る前に彼はこういい残した。
「明日の総統の公演説の時に私達は動く。その時にまではお前の答えを聞かせてもらおう。」
米斗は頷いた。
「お前がすることはただ一つ。私達に協力するならば私の盾となり、剣となれ! そうでなければこの私に剣を向けろ」
彼は続けてこう言った。
「お前だけには言っておこう。わたしは総統の背後をつく・・・と。」
彼はそのまま部屋を出て行った。
ここは総統の目が届く場所だというのに堂々と入ってこられたのが不思議なくらいだ。
米斗は部屋の外を見回したが、男はいなかった。
そのまま、米斗は黙って部屋を出た。
***
理子と瑞穂は宮家に戻ってきた。
「早速総統に報告しないと・・・」
理子は謁見の間へと急いだ。
瑞穂はこの間は自由となる。
待ち合わせは長廊下となった。
10分経過。
瑞穂は待つのが得意ではなかった。
「なんかないかな・・・」
辺りをうろついていた。
そこに米斗がやってきた。
それに気がついた瑞穂はこう言った。
「今までどこに行っていたのよ? 心配したよ」
「そうか。心配してくれたのか」
「したよ、当然」
「そうか・・・」
米斗は何か言おうとしていた。
「ん? どうしたの?」
「いや、なんでもない」
瑞穂は米斗の表情を伺った。
「なんか変なんだよねぇ・・・」
「何だよ・・・?」
彼女はまだ表情を伺っていた。
それに懲りた米斗は仕方なくあることを話した。
「皇太子フェンディル・ベアルトリス・・・」
「へ?」
「神聖軍が皇太子と手を組んだ・・・」
瑞穂にはさっぱり分からなかった。
神聖軍とは、今の総統の政治から民を解放しようと動いている組織のことである。
そこが総統が追い出した王家の子息と手を組んだとなれば、やることが正義に等しいとなることだろう。
「こーたいし?」
「瑞穂も御子であるのならば、聞いたことがあると思ったんですけど・・・」
「わたしには分かんないよ・・・」
米斗はそうですか、と答えた。
その時に理子が戻ってきた。
「米斗! どこに行ってたのよ!?」
「すみません・・・」
「勝手にどこか行くだなんて、考えていませんでしたよ」
「すみません・・・」
喜びが絶えなかった。
話が落ち着いたところで、理子があることを言った。
「明日は総統の公演説が行われるわ。明日はわたしは総統の近くで演説を聞くことになるから、米斗か瑞穂のどちらかに周辺の護衛を頼みたいの。」
「護衛、ですか?」
「護衛、なの?」
米斗と瑞穂は同時に言った。
理子が答えた。
「ええ。でも、どっちもわたしにとっては必要なんだけど総統は一人で十分だ、と言い張るのよ」
米斗がそれに肯いた。
「確かにそうですよね」
それを聞いた理子は驚いた。
「え? なんか、演説の時に何かが起きるような口ぶりよね?」
気づかれそうになった米斗は何とかごまかした。
「い、いえ。護衛は多い方がいいですね、と思っただけです」
「そう・・・だよね」
***
翌日。そして、演説の時。
演説の席では総統の場所の横に理子が座っていた。
護衛はどうやら瑞穂がしているようだ。
そして、米斗はどこにいるのだろうか・・・?
「米斗、どこにいったのよ?」
実は朝から米斗の姿がなかった。
演説が始まる前までは理子と共に探していたのだが、結局見つからなかった。
「またいなくなるだなんて、何なのよ、米斗は・・・」
理子も不安になっていた。
そんな中でも予定は変わらなかった。
人々は総統が来たことに気づいたのか、歓声が湧き上がっていた。
そんな人々に貫禄ある歩きを見せる総統。
そして、総統の演説が始まった。
「よくぞ、聞きに参られたものたちよ。感謝するぞ」
この言葉から始まり、すぐに内容へとうつった。
「ベアルトリスの民よ、よく聞くがいい! 我らはこれから真の大地創成の準備に取り掛かることになった! そのためには皆には『マグナ・カルタ』という音譜(スカー)を探してもらいたいと思う。もちろん、我らも探すつもりだ」
・・・とか話していた時のことだった。
誰かが総統を背後から襲った。
理子は何も考えずにこう言った。
「し、神聖軍!?」
それとほぼ同時に総統は神聖軍の男に斬りつけられた。
「我らの先達が創りあげた大地を消すなど、神々が与えてくださったものを消すのに値する。よって、貴様らは神に逆らったことを意味する!」
男はフェンディル皇太子だった。
「フェンディル皇太子、だと・・・?」
総統はフェンディル皇太子の何かを知っているかのようにつぶやいた。
フェンディルは理子の方を見た。
「ふっ・・・。一条理子と言ったか?」
「そ、そうよ・・・」
「お前ら一族と総統ブロンクスに我らは宮家を追われたのだ。分かっているだろうな?」
理子には訳が分からなかった。
「わ、わたしは分かりませんわよ」
「・・・。よく思えば、俺もお前もとても幼かったな・・・」
彼は落ち着いて言いなおした。
「俺が言ったことは事実だ。それぐらいは覚えておけ・・・」
そして、彼は総統が立っていた演説台を乗っ取った。
「私はベアルトリスの宮家の王子、フェンディル・ベアルトリスである! 我らは神に逆らう暴挙を行わんとする総統と御子たちを止める聖戦を行っている!」
それを聞いた理子は焦った。
「ちょっと、待ちなさい! わたしたちはみんな本当の大地に立ちたいと思っているはずだわ。それなのにあなたはこのままでいいと思っているのですか?」
「何を言うのです? あなたたちは今でも神に逆らっているというのに・・・」
この会話がマイクのスイッチが入っているのを知ってやったものなのか、知らずにやったものなのかは定かではないが、人々には不安が漂っていた。
「ベアルトリスの民よ。今こそ立ち上がるのだ! 神に逆らう総統と御子共を討て!」
彼はこう言って演説台から下りた。
理子の怒りは既に頂点に達していた。
そして、腰にさしていた剣を持ってフェンディルに斬りかかろうとした。
しかし、その手前で誰かが止めた。
「な・・・っ。なぜ、あなたなの!?」
「理子様。これ以上どう足掻いてもここではあなたの負けです」
その男は理子の剣を弾いた。
見覚えのある姿だった。
全身が黒で統一されている。
理子はこう言った。
「米斗・・・、どうして?」
フェンディルは米斗を引かせた。
「ふっ・・・、よくやってくれたな」
米斗は無言のまま去っていった。
理子は必死に米斗を止めようとする。
「待ちなさい! 待ちなさいってば・・・!」
「無駄みたいだね。米斗は俺のことを分かってくれたようだな」
危機察知に遅れた瑞穂がやってきた。
「りこさま・・・って、これは一体?」
「な、何やっていたのよ?」
「ご、ごめんなさい!」
「瑞穂。ここは危険だわ。あなただけでも逃げなさい!」
御子が狙われる以上、瑞穂も御子であるから狙われる対象となる。
「でも、りこさまが・・・」
フェンディルは剣を納めた。
「理子もさっさと逃げるがいい。だが、今度は逃がさんぞ!」
「・・・わたし、今度は負けませんから!」
理子の捨て台詞とともに、演説広場から人影はなくなっていた。
こうして、総統は負傷したままどこかに行方をくらました。
そして、残された御子達は神聖軍に一番に狙われる対象となったのだが、逃げることも隠れることもせずに、中では投降し、中には抵抗するものがいた。
そして、米斗はフェンディル皇太子とともに神聖軍の本部がある『離れ孤島』と呼ばれる所へと向かっていた・・・。
〜その夜・・・。〜
(離れ孤島に向けて移動中の飛行船。)
(そこの米斗の部屋である音が鳴っていた。)
ピピピ・・・。
(その音を聞いた米斗は目を覚まし、それを取った。)
米斗「何なんだ?」
「あの、それは分かっていて言っているんだよね?」
(こっちもトランシーバーなら相手もトランシーバーしかなかった。)
米斗「・・・涼歌、なのか?」
涼歌「うん、そうだよ」
米斗「なんか、変わったな?」
涼歌「そうでしょうか? 米斗さんの話し方に合わせているだけです。それと、わたしのことを涼歌って読んでくださったんですね」
米斗「あ、いや・・・。それは・・・」
涼歌「それはともかく、米斗さんは今どこにいるんですか?」
米斗「今は神聖軍の飛行艇だけど?」
涼歌「・・・」
米斗「・・・?」
(黙り込んでしまった涼歌におかしく思った米斗。)
(何かを悟られないようにごまかす涼歌。)
涼歌「いえ、なんでもありません・・・」
米斗「そ、そうか・・・」
(米斗は通信を切ろうとしたが、涼歌は何かを言った。)
涼歌「ちょっと待ってください!」
米斗「な、何ですか?」
涼歌「絶対、帰って・・・来るよね?」
米斗「え?」
涼歌「絶対に、帰ってきてよね!」
(これからどうなるか分からない米斗だったが、帰ってこられると思って自信あって答えた。)
米斗「ああ、きっとな・・・」
(米斗はトランシーバーごしで涼歌の笑顔を感じたような気がした。)
涼歌「・・・待っています。それと、わたしは、あなたの行動が明るい未来であることを信じていますから・・・」
(そして、通信が切れた。)
米斗「待っています、か・・・。俺は守るものを間違えたつもりはないけどな・・・」
(米斗はこれから起きるどんなことにでも自分が行ったこととして責任を取ることを心に決めたのであった・・・。)