王となりし友…

離れ孤島。
ロードスと過去に呼ばれたその島は、今は神聖軍の本拠地となっている。
現在米斗が所属する神聖軍は飛行艇でそこへと向かっていた。
「現在の状況は?」
フェンディルは朝から動いていたようだ。
「相手は指揮系統が乱れてこちらを追えないようですね」
「それは分かっている。他の隊は御子様を丁寧に扱っているのか?」
「は、はい・・・。すみません・・・」
船に乗っている男は気を取り直した。
「ベアトリーチェは制圧、アルフィンは四条家による抵抗が激しい様子であります」
「他は?」
会話が交わされている間に米斗が入ってきた。
それに気づいたフェンディルは挨拶をした。
「起きたか、米斗」
「ああ」
「米斗、俺たちの拠点はもうすぐだ」
「ああ、分かった」
そう言って米斗は出て行った。
男は米斗の話し方が気になった。
「フェンディル様。あいつはあなた様に・・・」
「いや、大丈夫だ。あいつは友だから気にしないでくれ」
「はあ・・・」
男は渋々納得した。

***

2時間後、ロードス島に着いた。
そしてすぐに神聖軍本拠地に向かった。
米斗はすぐに皇太子の下へと呼ばれた。
「よく受け入れてくれたな。今でも感謝している」
フェンディルの言葉から始まった。
「俺はお前の期待のためにここに来たわけじゃないし、真の大陸は俺の夢でもあるのにも変わりはない」
「そうか・・・。だが、お前は結果的に御子を裏切ったのだぞ。罪悪感とかないのか?」
米斗ははっきりと答えた。
「ない。お前がやろうとしていることが結果的に正しいと判断したからな、今は」
冷酷な米斗にフェンディルは驚きを隠せなかった。
「フハハ。言ってくれるな、お前っていうやつは?」
彼は落ち着きを取り戻してこう言った。
「本気なのか?」
米斗は言った。
「本気、だとしたら?」
「非情だな、それは」
「ああ、非情だ」
2人は笑った。
「その本気、俺は本気としては認めてはやらんぞ?」
「ああ。それで結構だ!」

***

本部に来た神聖軍の隊員たちは次の戦いの準備をしていた。
次の戦いへの出発前にフェンディルは米斗に訊ねた。
「お前は何のために俺の所に来たのだ? それがどうしても気になった」
米斗は答えた。
「お前が呼んだ・・・、と言えば言い訳になる。なあに、どうすれば100年前の予言を止められるのかって・・・」
「それか・・・」
フェンディルも密かに同じことを思っていたような感じだった。
「お前は悪いやつだな。いいと思ったほうにしか付かないのかよ・・・」
そう彼は言って飛行艇に乗り込んだ。
米斗はこう言い捨てて飛行艇に乗り込んだ。
「悪者か。確かにそうかもな」

飛行艇は再び飛び立った。
米斗はすぐに操縦室に呼ばれた。
その後、フェンディルが皆にこう言った。
「皆の者! これから我らはベアトリーチェへと戻る!」
「本格的に始めるのですね?」
「ああ。時が来たのだ!」
兵たちは喜んだ。
「前もってクローレンの五条家には協力を得られたのだが、七条家は未だに抵抗を続けている」
そう言ったフェンディルは米斗の顔を見た。
事を察した米斗はそれを受け入れて答えた。
「それを俺が止めるんだな?」
「ああ。頼んだぞ」
それから話は続いた。
フェンディルが率いる本隊はそのままベアトリーチェへの本拠地移転を、米斗には少人数の兵が付いて七条家が今でも抵抗を続けているクローレンへと向かうことになった。
飛行艇はまずクローレンへ舵を切った。

***

米斗は兵と共にクローレンに降りた。
「2週間ぶりってところか・・・」
米斗は七条家のある東部へと向かっていた。
歩いていてもあの時の賑やかな街には見えなかった。
どうやら、学生たちは避難をしたようだ。
そんな風に思っている時だった。
「まだいたのか?」
米斗に一振りの剣が襲い掛かった。
「うわ・・・」
米斗はなんとか避けることができた。
そして、勢いのある声がかかった。
「裏切り者!!」
また一振り。
「う・・・」
米斗は相手の剣を剣で受け止めた。
米斗は相手をよく見た。
「このっ!」
相手は間合いを取った。
「七条科鈴か!」
「ええ! まさかあなたに続いて優花まで裏切るとは思いませんでしたよ」
彼女は優花までもが裏切ったことを八つ当たりかのようにして、何回も米斗に剣を振りかざした。既に包囲されていることに気づかないほどに。
「やあ! やあ! やあ!」
今回の攻撃を含めて、米斗は一度も彼女には攻撃をしていない。
「何のつもり? わたしたち御子と戦う覚悟があるから敵になったんじゃないの?」
彼女は体力の浪費だと判断し、攻撃をやめた。
「すまない。一対一がよかったよな?」
米斗の訳の分からない一言に科鈴は何かに対する警戒を始めた。
辺りを見回し始めた科鈴は包囲されていることに気づいた。
「くっ・・・、卑怯な!」
科鈴はそのまま足がすくんでしまった。
その後、七条家から降伏するという報せが来た。
これによって、クローレンは神聖軍が制圧し、支配下に置かれることになった。

「悪く思うなよ・・・」
「くっ・・・」
科鈴はそのまま開放されたが、優花のことはまだ嫌だと思っているようだった。
「何のつもりか分からないけど、今のあなたは完璧に犬よ。分かってる?」
「犬か・・・。今の俺でなくても犬には変わりなかったな」
「お前な・・・!」
米斗はそのまま科鈴のもとを去っていった。

***

神聖軍が本格的に動き始めてから2週間が経っていた。
ベアトリーチェに続いてクローレンが陥落し、アルフィンでは瑠梨が率いる四条家が未だに抵抗中であった。
涼歌のいるフォーレンは抵抗すらしていなかったが、フェンディルの意思なのか、攻撃さえも加えられていなかった。
紀実は戦いをやめるという形でフォートレスを素直に明け渡していた。
しかし、フェンディルはフォートレスには何かがあると読んでいたが、あえて今は見逃していた。
米斗のもとに飛行艇がおりてきた。
そしてすぐにフェンディルが向かってきてこう言った。
「ベアトリーチェは無事にものにできたのだが、少し気になることがあって、急いでお前に・・・」
「何だ?」
米斗がそう聞き返すと、彼はすぐに答えた。
「お前には今すぐにアルフィンへ向かってもらいたいのだが?」
米斗は快く引き受けた。
「分かった。それで?」
「もちろん、抵抗を鎮圧してくれればいい。ただし、今回はベアトリスからの抵抗も始まったからそちらに兵力を注ぎたい・・・」
「俺に単独で行けと? 構わないさ、それぐらい」
「す、すまないな・・・」
「待て。まだお前が謝るのは早い」
そう言った米斗に対して、フェンディルは「そうだな・・・」と言って微笑んだ。
そして米斗はアルフィンまで飛行艇に乗せてもらえることになった。

米斗は何のために戦っているのか。
今となっては本人にもそれが分からなくなろうとしていたのであった・・・。
だが、米斗がロードスへ向かっていたあの夜のことを思い出した。
「絶対に帰ってくるよね・・・か」
なぜ彼女が米斗が帰ってくるのかの心配をしたのだろうか。
「俺は何なんだ? 俺はただの真の大陸信仰者だ。それなのに今はそのために戦っているのか? いや、違う! 俺は・・・」
数々の独り言を並べたところで彼自身では解決策が出てくることはなかった。
「それでも俺は、戦うからここにいることを決めたんだ・・・」
彼自身の決心を折ることはできなかった。
なぜなら、既に自分が行ったことを取り消すことができなくなったからであった・・・。