真の大地に発ちし少女たち…
理子たち10人は、ベアトリスの伍番機、カタパルトエッジの参番機を経由してベアルトリスへとたどり着いた。
幸いにも、カタパルトエッジには損傷がなく、どの昇降機も使えるようになっていた。
当然地上との通路である、エリアにも損傷はなかった。
着いたのは良かった。しかし、宮家の宮殿がきれいに無くなっていた。
「こ、これは・・・!?」
そこにはまるで抜かれたような感じの穴が開いていた。
宮家で中央宮は塔のシステムの一つであることが分かったかもしれない。
「ディグリメントをわざわざ謁見の間に設置したのはちゃんとした理由があるかもね」
優花が推測を立てていた。
「な、何なの?」
みんなが気になった。
そして、彼女はこういった。
「ディグリメントは塔のシステムを操る。そこから、フェンディルは神の世界へ行った。神の世界へ行くには、どの手段を用いても中央宮が必要になってくるわけ・・・ね」
「そこから、何だって言うの?」
理子が追究した。
それに対して優花は答えた。
「多分、この大陸を作った人たちは神との戦争をしようとしていたんだと思う」
それを聞いた全員は驚いた。
「え?!」
「神さまと?」
「た、戦おうとしていたんですか?」
ここで、科鈴があることを言い出す。
「優花も知っているんですが、クローレンでは歴史として習うことなのです」
「ああ。確か、そんなことを習ったような気がするわね」
科鈴は神との戦いについて話した。
***
空の大地の創世、つまりは400年前のことであった。
空に大陸を作り、その支柱となる塔を作った科学者たちの存在は既に忘れられていた。
空の大陸ベアルトリスを統一した、一代目の王ベアル・ベアルトリスは、新たな力を得ようとして神の力を狙っていた。
科学者たちに民にも知られないように密かに中央宮で神の世界へ行く計画を練っていた。
それからやがて、中央宮がシャトルとなり、アグリメントとデグリメントは本来の目的を知らせず、ただ単に塔の非常操作システムと言って、それぞれを二条家と五条家に渡したという。
実際には塔の非常操作システムも含まれていた。
どうして、ここまで用意をして神の世界へと行こうとしていたのか。
どうして、2つのシステムを渡してしまったのか。
2つのシステムを渡さずにシステムを起動させれば、簡単に神の世界へ行けたというのに・・・。
それにはできない理由があった。
その時代には神の使いと呼ばれた9人の御子がいた。
彼女らは今のベアルトリスとは違い、彼女らが住む屋敷があった。
そして、御子たちも神の世界へ帰る、という名目で目的を知らされずに協力をしていた。
・・・話に穴が相手ばかりで悪いが、長くなるので少しだけ流そうか・・・。
神の世界へ行くには神の力と同等の力を持たなければいけないことが分かった。
神の使いである御子の一人、一条家の御子が神の力と同等の力を手に入れる儀式の対象となった。
歴史ではこれを『神降らし』と呼ばれていたそうだが、実際に神を降らせているわけではない。
あくまでも、塔に宿るエネルギーを得て、塔の加護を得ようというものだった。
塔には強大なエネルギーがあるそうだが、それを操るものがいなければ暴走して世界が滅ぶと言われていた。
だから、その力を神の世界へ行くために使うことによって、神の世界に張られているという結界を破るという寸法だったそうだ。
神降らしが終わり、御子と2つのシステムによる神の世界へ向かう計画が発動されようとしていた。
だが、神から攻撃が始められた。
神も見ていたのだろうか、地上からの行いを。
神との戦争が本格的になるうちに、守り神が張っていた結界は破られつつあった。
中には滅んだ守り神もいた。
人々は奮闘したが、神の力の前には勝つことが許されなかった。
元々、人々がいつかは空に発つことぐらい神々は知っていた。
だが、神もむやみに裁きを下せないのが世界の理というものだった。
地上での行動を見て、神に刃向かうとみた神々は裁きを下したのだ。
そして、地上から神の世界へ向かう手段がすべて排除された。
神の世界へ向かうシステムだったアグリメントとデグリメントには封印が施され、特定の人物でしか扱えないようにされたのであった・・・。
***
「つまりは、400年前に神との戦争があった、と」
「まぁ、そうなんだけど、フェンディルも多分神の力を手に入れるかもしれないってこと。だって、神の世界を支配すると言っていたし」
「そうねぇ・・・」
優花は説明が長い科鈴を退けた。
「もう、説明が長いわ、はっきり言わないわでいい加減終わらないのかしら?」
「そ、そんなつもりは・・・」
「もういいわ。わたしが言うわ」
優花は結論を言った。
「まぁ、科鈴の説明を長々と聞いてくれたから分かっているでしょうけど、ここにあったものは神の世界へ行くもので、神の力は強大なものってこと・・・でいいんでしょ?」
「あ、はぁ・・・」
理子が言った。
「中央宮がなくなった理由は分かったわ。それに、町に被害がなかったことは幸いだったわね」
だが、みんなが飛ばされた理由は分かっていなかった。
それについてを朱禰がたずねた。
「それはそれでいいと思うけど、わたしたちが飛ばされたのってどういうわけ? 町に被害がなかったのに、おかしいとは思わない?」
その意見にはみんなは納得した。
「確かに、言われてみれば・・・」
「そうですね・・・」
しばらく沈黙。
そして、優花があることを言った。
「吹き飛ばされたんじゃなくてここまで逃げてきた、という推測はない?」
だが、それだけでみんなが納得するわけがなかった。
「それではおかしいわ。だって、みんな違う所にいたのでしょう?」
「そうですが・・・」
「町に被害がなく、どうして八条宮にいたのか・・・」
ここで瑠梨があることに気づいた。
「穴、開いてますよね?」
理子は穴を見てから言った。
「ええ、開いているわね・・・」
優花が信じられない、と思っていた。
「そんな・・・。だって、これはコンセントの穴のようにプラグがささっていない状態なのよ?」
「それは・・・」
「何も分かっていないのに、適当なことを言わないで!」
訳が分からなくなってきた優花はもう落ち着いてはいられなくなっていた。
科鈴が言った。
「フェンディルがディグリメントで何をしたかは、まずはアグリメントとデグリメントの仕組みをさらに知るべきだと思う」
それには興奮状態の優花が黙ってはいなかった。
「あなたね、単なるシステム操作の機械なのよ? それ以上に何があるって・・・」
優花は落ち着きを取り戻し、突然口で笑った。
「科鈴。あんたもたまにはいいことを言うわね! さすが、あたしの下にいるだけだわ」
「あ、あはは・・・」
科鈴は初めて認められたような気がした。
そして、このことはひとまず先送りされることになった。
「あたしと科鈴でアグリメントとデグリメント、そしてディグリメントについてもっと調べてみるわ」
「ということで、わたしたちはクローレン大図書館へ行くから、あなたたちとはここまでね」
そう言って、優花と科鈴はクローレンへと戻った。
***
その後、8人は理子のもう一つの目的である、一条宮が安全であるかどうかを確かめることがあった。
「さて、次は・・・」
「理子様のおとーさんのとこ、だね」
「そうね・・・」
そして、一条宮へと向かった。
どうやら、一条宮にも影響がなかった。
「お父様、ご無事ですか!?」
「あ、ああ・・・」
何かがあったのか、と中央宮で起きた出来事に気づいていないのか?
「え、中央宮が!?」
話を聞いてみると、中央宮が消えたのは街中でも話題になっていたらしい。
「あ、あの、真之介様・・・?」
米斗が何かを言い出そうとしていた。
声を掛けられた彼は米斗を見て返事をした。
「久しぶりだな、米斗君」
「あ、はい。お久しぶりです」
米斗は話題に移した。
「その・・・、俺たちは中央宮にいたんですけど・・・」
そう言い出して、彼は中央宮での出来事からここまでのいきさつを話した。
「・・・そうか。確かに理子には外部のことをほとんど任せているが、私は知らなさすぎていたのだな・・・」
「お父様・・・」
「そうだな・・・」
そして、真之介はあることを言い出した。
「よし、理子よ。これから、お前が当主となるに相応しいかを試そうか」
「え? え?」
何の脈絡もなく言い出したことなので、当然みんなには分からなかった。
「なぜ、そうなるのですか?」
だが、彼は貫き通した。
「他の人の意見を受け入れるつもりはない」
「あ、あの、お父様?」
彼は話を戻した。
「お前ならわたしを越えることができる。わたしはこのベアルトリスしか知らずに育ってきた」
「わたしにはまだ民を救える力なんか・・・」
「今はそれだけではこの世界は生きていけれないだろうな」
彼は分かっているよな、という感じで理子を見た。
「えっと・・・」
「簡単なことだ。お前自身で目的を見つけて、それを達成していくだけだ。そうすれば、いずれは本当の目的が分かってくるだろう」
「わたしには・・・」
理子は考え込んだ。
その間に米斗が質問をした。
「俺はもう、理子様とは・・・」
「何故だい?」
考え込んでいた理子が言った。
「米斗を推薦してくれたのは嬉しかったけど、米斗自身が道を選んだわ・・・」
彼女がそう言うと、涼歌が言った。
「あ、あの、初めまして・・・!」
突然の挨拶でも、真之介は何かを感じ取った。
「ふむ、君が米斗君の・・・」
「は、はい」
「涼歌、無理をしなくても・・・」
彼女が出てきたせいか、それとも、それ以外の理由だったのか、彼はあることを言った。
「ふっ・・・。君を咲芽家で初めて見てからずっと見てきたのだが、さすが男だな。」
「?」
「涼歌殿は御子でもあり三条家の当主でもあるのだが、その先にある道にどんなことがあるかは分かっているかね?」
「それは・・・」
「すぐに答えられないのなら、俺は勘違いしたのか?」
何が言いたいのかはさっぱり分からなかった。
「俺は、涼歌のことが好きだから! 俺は涼歌の全てを受け入れてみせる!」
「米斗・・・」
米斗は熱心に話した。
だが、真之介はあることを言った。
「お前はおまえ自身が言ったことは嘘ではないと言い切れるな?」
「はい!」
「私には分かる、お前は自分のことはちゃんと貫き通すことを」
米斗はただ話を聞いていた。
「理子! 米斗!」
「は、はい!」
そして、2人にある一言が告げられた。
「お前たちなら、今よりいい未来が作れる! まずは己の信念を貫いてみよ」
「己の信念・・・」
「わたしにはまだ見つけられていない・・・」
さすがに人生の経験の差を見せつけられた。
「やりたいと思っていることでも、叶えたいことでもまずはやってみないと分からない。もし、道を間違えたのなら一番の友に相談するといい」
「今の俺たちは真の大地の創世の夢がある・・・」
「わたしは、まだ自分の目的を見つけられていない。でも、それを見つけるのがわたしが今やること」
「・・・そうか。答えは自分自身にしか分からないからな。よく覚えておきなさい」
そして、後のことは明日決めることにした。
その夜、理子はあることが気になった。
「大陸創世のマグナ・カルタ・・・」
それを聞いた紀実が言った。
「わたし、それの在処を知っていますよ?」
「本当なの!?」
「ええ。でも、ある仕掛けがあって・・・」
マグナ・カルタがある場所は唄の岬という大陸の端にある岬だった。
そこには唄姫と呼ばれる美しい歌声とキーとなる歌が唄える御子でないと音譜を得ることができないという。
「唄姫・・・?」
「ええ。そうよ」
「きさ姉さんなら、大丈夫なんじゃない? きさ姉さんは歌が上手だし?」
「でも、わたしでは唄姫にはなれないの・・・」
「え?」
2人は困った。
話を聞いていたのか、米斗が2人に声を掛けた。
「どうして唄姫になれないんですか?」
彼女は答えた。
「キーとなる歌が反応しなかったのよ・・・」
「歌が、反応しない?」
「そう。その歌も音譜だったの・・・」
「マグナ・カルタを容易に手に入れられないようにしたんだね・・・」
紀実は話を続けた。
「その音譜はクリエイターって言われていて、元々は六条家の御子しか扱えないものなんだけど・・・」
理子が言った。
「今の六条家の御子である、きさ姉さんが使えないんだったら・・・?」
「そう。クリエイターを扱える人はもういないわ・・・」
紀実はそう言ってため息をついた。
ここで、米斗はあることを言った。
「音譜って、それに書かれているものが解読できればいいんですよね?」
「そうだね。でも、音譜によって使用されている文字が違うのが厄介よね・・・」
「音譜によって使われている文字が違うのは、音譜を託された家でしか使えないようにしたため」
「そういうのって、意外に不便ですよね」
「ええ。確かに米斗の言うとおりだね」
米斗は話を戻した。
「それでさ、クリエイターがきさ姉さんしか扱えないのなら、それを解読してくれないかなって思って・・・」
これに対して紀実は言った。
「いい考えだけど、音譜は解読できる者にしか意味がないのよ?」
「そう、なんですか・・・」
やはり、紀実がクリエイターを扱えない以上、マグナ・カルタは手に入れられないのだった。
だが、米斗には考えがあって意見を出していた。
***
彼にとってはかけがえのない人となった涼歌。
彼女も歌が上手だった。
彼女の歌は紀実に劣らない感じだったことを、彼は覚えていた。
ベアルトリスに発つ前夜のことであった。
米斗は珍しく寝付けずにいた。
環境が違ったのか、何か気になることがあったのかは定かではなかったが、彼は外の空気でも吸おうかと思っていた。
廊下に沿って歩いた彼は聴いたことのある歌を、誰かが歌っているのに気が付いた。
もちろん、紀実ではないことは分かっていた。
「歌、上手いんだね?」
彼は思わず近寄り声を掛けていた。
それに気づいた彼女はこう言った。
「はい。わたしの取り柄っていったところかな?」
「そ、そんなことないですよ。涼歌にはいっぱいいいところあるって!」
「あ、ありがとう・・・」
歌が上手なこと。それは、涼歌の名前の由来でもあった。
というか、親が唯一の救いの手を差し伸べたものだともいわれている。
「・・・俺がよく知っている人で、きさ姉さんも歌が上手なんだよ」
「そうなんですか」
「今さっきの歌、きさ姉さんが好きな歌でさ・・・」
米斗は紀実のことを話し始めた。
普通は女の子の前で女の子のことを言えば、何かと勘違いされやすいのだが、彼女は普通に聞いていた。
「・・・そのお方はとても素晴らしいお方だとお聞きしていますよ」
「そうですよね、あはは」
話は歌のことに戻った。
「・・・わたし、まだその人みたいに上手じゃないかもしれないけど、聞いてくれますか?」
「ええ。もちろん」
「“♪空に羽ばたく青い小鳥”でしたよね?」
「あ、はい」
涼歌は母親にはメロディーを教えてもらっていただけで、歌詞は知らなかった。
歌詞は米斗に教えてもらって、すぐに覚えようとしていた。
曲名は歌いだしでもある、『空に羽ばたく青い小鳥』だ。
***
理子と紀実は未だにクリエイターのことで話していた。
最終的には、マグナ・カルタは諦めるしかないのかと思っていた。
だが、ここで米斗はあることを言い出した。
「涼歌・・・。彼女ならきっと・・・」
突然言い出した彼に彼女らは言った。
「え?」
「ちょっと待って。クリエイターはわたしじゃないとどうにもならないってさっき言ったはずよ?」
彼は説明した。
彼女を推したのはただ単に歌が上手だから、と。
「そんなんじゃ、何にも解決にならないわね」
理子は米斗の発言に呆れていた。
「米斗君。わたしの言ったことを理解していないの?」
「いえ、ちゃんと理解しています。しかし、解読は試す価値があると思いますよ?」
「それはそれでいいと思います。しかし、涼歌さんにできたとしたら、わたしは・・・」
紀実は珍しく怒っていた。
「分かるかな? わたしにも御子としての力があるのに・・・。あなたはそれをただの位としか見ていない!」
「ちょ、ちょっと、紀実・・・!?」
「米斗君は涼歌さんといることで分かっていると思っていた。でも、あなたを甘く見ていたんだね・・・」
「お、俺は・・・」
紀実が言った。
「わたしは、普段はプライドとかを気にしないけど、今はあなたにはとってもむかついている。どうしてだか分かるよね?」
「きさ姉さん・・・、すみません。でも、俺はきさ姉さんがすぐに諦めるような人じゃないと思っています」
理子も米斗に同情した。
「そうね。その時がだめだったけど、今だから大丈夫って言う時があるわよ」
「米斗君、いえ、米斗。そして、理子・・・」
紀実に落ち着きが戻った。
「そうね。諦めちゃだめだよね」
米斗と理子は頷いた。
「今までこういう状況だった人が何人もいて、それを救っているというのにわたしって・・・」
紀実は自分を思い直していた。
「わたし、行くよ。唄の岬に」
「紀実・・・」
彼女は珍しく人から助けを受けた。
昔はこうだったんだ、と思いを受け止めて。
***
翌日。
1番エリアでそれぞれの目的を果たすために行動を開始しようとしていた。
理子と紀実、そして米斗と涼歌はマグナ・カルタの入手のために唄の岬へ向かう。
朱禰と瑠梨は朱禰の判断によって二条宮へ戻るらしい。
残った2人である、瑞穂と楓葉は・・・?
「理子様。瑞穂と楓葉はどうするのでしょうか?」
「そ、そうね・・・」
紀実が割り込んだ。
「瑞穂ちゃんは八条宮から、帰ってくるように言われてるって慌てていたね。楓葉は瑞穂ちゃんに話があるって言って瑞穂に同行するって言っていたわ」
「そうなんですか・・・」
4人以外は既に出発していた。
理子は米斗がついてくることにある疑問を持っていた。
「もういいのよ、米斗。あなたには涼歌がいるんだし・・・」
米斗は答えた。
「大丈夫です。涼歌と話してこうなりましたから」
涼歌は頷いていた。
「うーん・・・。米斗、連れ回すようなことはしないほうがいいわよ」
涼歌が言った。
「大丈夫です。わたし、みんなの役に立ちたいのです。米斗はもっと助けたい・・・」
彼女の決心はもう見させてもらった。
「分かったわ」
「涼歌ちゃん。君の力を信じているよ」
「はいっ!」
こうして、皆はそれぞれの道へと歩き出した。真の大陸創世のために・・・。
第2章 完