大陸創世の詩

唄の岬。
そこには大陸創世の音譜マグナ・カルタが封印されている。
その封印を解くためには、クリエイターという音譜に秘められている詩を歌えなくてはいけなかった。
だが、クリエイターの中にある詩を歌える者がいなくなった今、誰もマグナ・カルタに触れられることはなかった。
それでも、今は真の大陸のために必要だった。

理子、紀実、米斗、涼歌の4人はそこにやってきた。
「ここが、唄の岬・・・」
「ええ。この奥にマグナ・カルタがあるわ」
「でも、クリエイターがないと・・・」
「分かっているわ・・・」
唄の岬にはマグナ・カルタ以外にももう一つの役目があった。
空に大陸ができてからの話だが、歴代王家の墓としても存在していた。
大陸創世時の御子も眠っていると言う話もあるそうだが、あくまでも噂だと言われている。

歩いていると、涼歌が何かを見つけた。
「これって・・・?」
それに気づいた理子はこう言った。
「紅の御子ね・・・」
「あかのみこ、ですか?」
紅の御子とは、大陸創世の御子の一人だった。
彼女ら大陸創世の御子は王家と共に空に楽園を、というのを掲げていた。
「そうですか。あの伝説の御子なんだね・・・」
涼歌は壁に書かれていた文字を読んでみた。
「・・・神聖文字なの、これ?」
神聖文字によって書かれていた。
神聖文字は旧時代に栄えた文明の文字だ。
今では伝えられておらず、読めるものもいないはずだ。
「神聖文字。読めるはずがないわ・・・って、不思議なこともあるものね・・・」
そう言った理子にはなぜか読めるようだ。
「理子、読めるの?」
紀実にもなぜか読めるようだが、解読ができなかった。
「一体どういうことなんですか?」
米斗と涼歌には読めないのになぜ理子と紀実が読めるのかはまだ4人には分からなかった。
「S.D.200 紅の御子 ここに眠る・・・」
理子が読めるのはこの部分だけだった。
「つまりはここが紅の御子のお墓ってことですね」
「そう、みたいね・・・」
それが分かったら、すぐに4人はマグナ・カルタのところへと向かっていった。

***

「ここが・・・」
「創世の地・・・ね」
マグナ・カルタを見つけた。
だが、それは簡単には取り出せないようになっていた。
「ここに立ってクリエイターに書かれている詩を歌うのよ」
そう言って、紀実はクリエイターを取り出した。
「持っていたの!?」
「持ってたよ」
クリエイターを持っていたことに理子は驚いた。
「それなら、あの時に見せてくれればよかったのに・・・」
「これに秘められている力はわたしの家柄でしか分からないの。それで、これを見せただけでは何の意味もないしね・・・」
「ま、いいけどね・・・」
紀実はそう言って、クリエイターに書かれている内容を読んだ。
その時、彼女はいつもと違う感覚を感じた。
「これ・・・、歌えるかもしれない!」
紀実はクリエイターの詩を歌った。
「創世の序曲・・・。それがクリエイターに書かれた詩」
紀実は感じるがままに詩を歌い始めた。
辺りにこの大陸の創世の鼓動を感じられた。
「これが、詩なの・・・?」
理子には特に心に響いていた。
「これが・・・」
「音譜に書かれた詩なんですね・・・」
世界を動かす詩は人々に大きな感動を与えてきた。
過去にも使われたそうだが、その人々もこんな感動を得たのだろうと思う。

詩が終わった。
紀実はさっきよりもすっきりしているような感じだった。
「こんなにいい歌、初めてだわ・・・」
マグナ・カルタは取り出せるようになっていた。
理子はマグナ・カルタを手に取った。
「これが、大陸創世の詩なのね」
マグナ・カルタを手に入れた4人はすぐにベアルトリスへと戻ることにした。
「紀実・・・」
理子はあの時言っていたことが気になった。
「わたし、あそこに立ったら何故か歌えた。他の所ではまったく詩にならなかったのに・・・」
紀実でもどうしてだか分かっていなかった。
推測だが、涼歌はその理由を述べた。
「多分、音譜は然るべき場所でしか歌として成り立たないものがあるんだと思います」
それは納得のいくことだった。
「なるほどね・・・」
「涼歌ちゃんのいうこと、分かるような気がするわね・・・」
そして、紀実は自分にも何か力があるのかもしれない、と思ったのであった。

***

4人は一条宮へと戻ってきた。
そしてすぐに次の段階へと移った。
「次は・・・約束の地ね」
約束の地は中央宮の唄堂というところだ。
「でも、マグナ・カルタと約束の地だけではなく、マグナ・カルタを歌える御子2人が歌わなければならない・・・」
当然、マグナ・カルタは紅の御子と蒼の御子が歌って大陸を紡いだというからにはその2人でないと意味がないのだ。
「紅の御子と蒼の御子? 今にはそんな人はいないわよ・・・」
理子は困った。
「適当に歌ってみるわけにもいきませんしね・・・」
米斗はなんとなく適当なことを言ってみた。
それは当然だめだった。
「それはそうでしょう」
「無理言わないでよね・・・」
米斗はそのまま苦笑いをした。
「すみませんね・・・」
紅の御子と蒼の御子のことはひとまず考えることになった。

***

翌日。
理子と紀実はアグリメントとデグリメントのことを知るために、クローレンへと向かうことにした。
「わざわざ行かなくても・・・」
理子が答えた。
「それはついでよ。紅の御子と蒼の御子のことを知りたいから行くのよ」
紀実が米斗と涼歌に気を遣うかのように言った。
「たまには、2人でどこかに出かけたりしてはどうかな?」
「そ、そんな・・・」
米斗は慌てた。
紀実は涼歌にこう言った。
「涼歌ちゃん。別に米斗に合わせようだなんて思わなくてもいいんだよ?」
「で、でも・・・」
「ん? ん?」
「うーん・・・。でも、いいんですか?」
米斗は勝手に自分のせいにされているのが気に食わなかった。
「きさ姉さん! 俺が何か悪いことでもしているというのですか!?」
彼女は答えた。
「そうね。涼歌ちゃんをあなたの勝手で縛っているわよ。それぐらい分かりなさいよね!」
「そんなの、いいんです! 気にしないでください」
涼歌は自分が縛られているというのは気にしていなかった。
だが、紀実は米斗の女性に対する態度や接し方がなっていないことに不満を持っていた。
「米斗! 大切なものを失いたくなれば、ちゃんと涼歌のことを見ていなさいよね!」
紀実はそう言って去って行った。
今日の紀実はいつもとは違った。
これでもいつもの優しい彼女なら、これも優しさなのだろうか?
今の米斗には分からなかった。
考えている米斗に理子は声を掛けた。
「米斗。分かっていると思うけど、きさ姉さんの両親のことが関わってきているのよ・・・」
そう言って、理子も去って行った。
「・・・」
無言の彼に涼歌は声を掛けた。
「気にしなくてもいいと思います。わたしはあなたが望むことをすれば、それでいいから・・・」
だが、今の彼にはいい様子には聞こえなかった。
「あ、あの・・・」
涼歌は声を掛け続けた。
「わたしは・・・」
5回ほどだろうか。言いかけた時に米斗はこう言った。
「・・・もういいよ。本当はどこかに行きたいんだろう?」
傷心状態の彼に彼女は珍しく喝を入れた。
「・・・あなたらしくないよ・・・」
「は?」
「あなたらしくありません!」
彼女が珍しく怒った。
そんな彼女に対して、彼はおかしく思った。
「な、何言ってるんだよ?」
彼女は答えた。
「米斗はあんな風に言われたぐらいでくじけるような人ではないはず!」
「俺はな、考えているんだよ・・・」
「何をなの? お二方が言ったことを気にしているのですか?」
「俺は、涼歌のことを・・・」
涼歌は溜め息をついてこう言った。
「ええ。なんとも思っていないわね! 分かるよ、わたしがいるのに、理子様や紀実様達と今でも一緒にいるんだしね・・・」
当然彼女にも不満はあった。
「わたしだけを見てくれない。それは、あなたの使命だから?」
「俺は御子様を・・・」
それを聞いて、涼歌は呆れた。
「・・・もう、いいじゃない、関わらなくてもね・・・」
「でも、俺は・・・」
米斗は一息置いてこう言った。
「俺の夢でもあるんだ。俺だけ抜けることなんて許されるはずがない・・・」
自分の夢をどうしても諦められずにいた。
でも、そんな彼に、彼女はこう言った。
「じゃあ、今だけ。今だけ休んでもいいと思うよ?」
それを聞いた彼は、
「・・・今でも、俺に何かできないかって思いたい。でも、今の俺は涼歌が好きなことでもしようかと思う・・・」
と落ち着いていた。
そして彼女は、
「ありがと。じゃあ、甘えちゃおうかな?」
とスッキリした感じだった。
そして、2人はフォーレンで数日を過ごすことにした。
そしてこれが、安楽の一時となったのであった。


〜その夜・・・。〜
(フォーレンに戻ってきた2人。)
(そこで涼歌は米斗にあることを言い出した。)
涼歌「もし、わたしがまたトリコロンへと落ちてしまったら、また助けてくれる?」
米斗「ああ。何度でもな」
涼歌「うん、ありがとう・・・」
米斗「どうしたんだよ、急に?」
涼歌「ううん。なんでもないよ」
米斗「それならいいんだけど・・・」
(そして、涼歌はトリコロンについて説明しだした。)
涼歌「トリコロンは心の闇が産む世界。そこは心の闇にとっては楽園だけど、裏を返せばさらに心を闇へと落とす世界なの・・・」
米斗「心の闇が産む世界・・・」
涼歌「精神世界は精神となった自分を曝け出すことによってさらに闇へと追い込む・・・」
米斗「俺にはよく分からないけど、聞けば邪悪な気がする・・・」
涼歌「精神世界は心が左右する。本当に楽園ならば、わたしはこの世界の方が・・・ううん、守ってくれる米斗がいる、ここがいいの・・・」
米斗「そうか・・・」
(2人はしばらく夜空を見上げていた。)
(そして、涼歌あることを言い出した。)
涼歌「あ、そうだ。米斗に似合う服、繕ってもらおうかな」
米斗「別にいい。俺にしてはどうでもいいことだ」
涼歌「ダメです! 三条家の当主であるわたしがそんなみっともない恰好のあなたの近くにいると、わたしが恥ずかしいのですっ!」
(そう言って、彼女は米斗に近寄った。)
米斗「な、何だよ!?」
涼歌「明日、採寸してもらいましょうか!」
米斗「はぁ?」
涼歌「そうだね、してもらいましょう!」
米斗「お、おいおい・・・」
(こうして、米斗を無視して明日の計画が立ってしまった。)
米斗「・・・分かったよ。俺が悪かった」
(何のためにいるのかを思い出した。)
(他の事は気にしなくてもいい。涼歌のことさえ気にしていれば・・・。)
(そう思った米斗だった・・・。)