彼女に隠された真実
これは、理子たちが唄の岬に向かっている頃のことである。
八条瑞穂。
彼女は本家から帰還命令で招集がかけられていた。
「帰ってこいって、一体なんでだろう・・・?」
彼女は仕方なく帰ることにするのだが、彼女にとっては理子と離れることが嫌だった。
「米斗がいるからいいかもしれないけど、正直心配な気が・・・」
彼が特別何かをする訳でもないのに、自分自身で理子といる理由を作ろうとしていた。
そんな時、後ろから声が聞こえた。
「そんなに心配するなら、帰らないでおく?」
楓葉だった。
「な・・・、そんなことないってば!」
「じゃあ、いいんじゃない? 安心して戻りなよ?」
結局は戻らなければならないのだが・・・。
「でも、なんであなたがいるのよ?」
瑞穂は楓葉が来たことに必要性を感じなかった。
「気になる?」
楓葉はそのまま瑞穂に返した。
「気になるも何も、あなたがついてくる理由が分からないわよ」
「そうなんだ・・・」
そして、楓葉は何も気にせずにこう言った。
「じゃあ・・・、もし、あなたのことが好きだった、と言ったらどうする?」
女の子に対して言う言葉なのか?
と思った瑞穂だった。
「あ、あのね・・・。わたしは女の子なのよ? 分かってる?」
「勘違いしないでよね・・・!」
そう言いつつも、楓葉は本気でもあった。
「で、でも、好きなのは本当よ、・・・友達としてはだけど」
「友達、ねぇ・・・」
瑞穂は『友達として』という言葉に引っかかりを感じていた。
「友達って思っているようだけど、わたしはあなたが大っ嫌いなの。わたしの何かを知っているようだけど、いつそれをばらされるかが怖いわね」
「あら、そうなんだ・・・。確かに、わたしは瑞穂の秘密を知っているわよ。だって、小さい頃からの仲じゃない?」
「楓葉・・・」
何もされていないのに、瑞穂は半泣きになっていた。
「あ、いや、あの・・・」
楓葉は瑞穂を泣き止ませる方法を探していた。
「まだ誰にも言っていないから安心しなさいって・・・」
「う、うん・・・」
瑞穂は泣き止んだが、楓葉に対する考えは変えなかった。
「わたしは、わたしの秘密を知っている楓葉を友達としては認めない! だって、そんな中で友情なんか生まれるわけがないから!」
そう言って、瑞穂はベアトリスへと向かった。
「わたしは本当の友達を陥れるようなことは絶対にしない。誰があなたの秘密を使って何かをするものですか!」
楓葉も瑞穂の後を追った。
***
ベアトリスに着いた瑞穂は真っ先に八条宮へと向かっていた。
だが、途中で追いついてきた楓葉に引き止められた。
「・・・何のつもり?」
楓葉は言った。
「わたしのことも知ってください。あなたが知られたくないことを知っている以上、わたしはそれ相応のことを知ってもらいたいと思っています」
楓葉は公平な立場にならなければ、何も変わらないと悟った。
「楓葉・・・」
瑞穂はそんな楓葉を少しは受け入れようとしていた。
「・・・分かった。でも、今はもう時間がないんだよね・・・」
理解してくれたことが伝わってきた。
「ありがとう・・・」
そして、瑞穂は八条宮へと急いだ。
楓葉は瑞穂にこう言い残した。
「わたし、表で待っています! あなたが納得することができるように祈っています!」
そして、楓葉は瑞穂を見届けた。
数時間後、瑞穂が八条宮から出てきた。
楓葉は入り口で待っていた。
「楓葉・・・。本当に待っていたんだ?」
瑞穂はあまり期待はしていなかった様子だった。
「待ってたよ。だって、約束したから」
瑞穂の後ろには、八条家当主の八条莉々子がいた。
「この子が九条家の御子・九条楓葉さんね?」
楓葉は名前を呼ばれたので、返事をした。
「あ、はい。そうです・・・」
莉々子は楓葉のことを瑞穂から話を聞いていたようで、行動が早かった。
「瑞穂のこと、気に掛けていてくれて嬉しいわ。わたしでも手を焼いたというのに、あなたはちゃんと見ていてくれたのね?」
「そ、それほどじゃありませんよ。ただ、瑞穂は元気があるけど、度が過ぎると何をしでかすか分かりませんが・・・」
「ちょっとぉ、わたしはそんなに・・・」
瑞穂にとっては嫌なことばかりだった。
「でも、瑞穂は元気であるのがいいんです。それと、一つのものに対して一直線に突き進んじゃうのもです」
「ええ、そうね。楓葉さんはよく分かっていますね」
「い、いえ、莉々子様ほどではありませんよ・・・」
瑞穂は楓葉が自分のことをよく見ていてくれている、何かに真剣な感じが伝わってきた。
「楓葉!」
瑞穂は思わず名前を呼んでしまった。
「え、な、何ですか?」
瑞穂は言った。
「今日は・・・もう遅いから、泊まって・・・」
「え、え? いいの、ですか?」
楓葉は莉々子を見た。
だが、彼女は何も言わなかった。
「み、瑞穂。あなた、大丈夫なの?」
「だ、大丈夫だよ。わ、わたしは楓葉のことを全然知らなかったから、この機会に知りたいの!」
何か特別な感情があったのかは分からなかったが、とにかく瑞穂は楓葉とゆっくり話がしたいようだった。
「分かりました。瑞穂、中を案内してくれますか?」
「う、うん・・・」
瑞穂と楓葉は八条宮へと入った。
莉々子はそれをただ見守っていた、何かが起こるのを知っているかのように・・・。
***
楓葉は枕が違うとなかなか寝付けなかった。
こうなることは彼女には予想できなかったし、かと言って枕を持ち歩く習性もなかった。
「しまったな・・・」
何度も試みたがどうしても寝付けなかった。
「不健康だけど、ちょっと気晴らしをしようかな・・・」
そう言って、彼女は外に出た。
外に出ると瑞穂が夜空を眺めていた。
彼女は楓葉に気づいたのか、こう言い出した。
「空はここでも見えるんです。下は死の雲海、上には神の御前ベアルトリス。皆はここは塔の中にあると思っているけど、いつでもこの空を見ようと思えば見れるんです・・・」
「そうなんだ・・・」
楓葉はそのまま瑞穂に近寄った。
「楓葉もこの空を見に来たの?」
「ううん。わたし、枕が違うと寝れないんだよね・・・」
「そうなんだ」
「瑞穂も寝れないとか?」
「いいや。今日はたまたまだよ」
瑞穂がたまたまというのはありえない、と思った楓葉は何かあるとにらんでいた。
「瑞穂。今日って何かあった?」
「んー。星詠みって分かる?」
「ほしよみ?」
瑞穂は星詠みについて説明を始めた。
「星詠みはここだけで行われるもの・・・。ベアルトリスは別名太陽の街と呼ばれ、ベアトリスは月の街と呼ばれていた時代があった・・・」
ベアトリスは塔にエネルギーを集めるために作られたエリアにある。
昔、星詠みの御子と呼ばれた彼女は一ヶ月ごとに訪れる満月の夜に星詠みというものを行っている。
星詠みというのは、未来を占うことが大きな目的となっていたが、今では塔のシステムとリンクする力を行使して塔のシステム状況を知るためのものとなっている。
「ここはソーラーパネルみたいなものだけど、ここは月からのエネルギーを得るためにあるものなの・・・」
「瑞穂には塔にリンクする力があるというの?」
当然今の八条家にはそんな力はなかった。
「あっても、必要ないから・・・」
「そう、なんだ・・・」
「星詠みはもう形だけ。それ以外はここのパネルが行ってくれるから・・・」
瑞穂の話によれば、星詠みの御子は人工的に作られたものだというらしい。
しかも、それは本人がどうやってその力を得たのかも知らされていなかった。
その方法は、生まれたばかりの御子に塔にリンクができるシステムが搭載されたナノチップを埋め込まれた、と瑞穂は聞かされたことを話した。
聞けば残酷かもしれないが、実際には手で埋め込んでいるので残酷なのだ。
「瑞穂はナノチップを埋め込まれていないの?」
「今は大丈夫。御子に秘められている霊力と足物にあるパネルエリアで塔にリンクできるから必要ないってお母さんが言ってた」
「そ、そうなんだ・・・」
そして、星詠みが始まった。
「・・・」
「ど、どうなの?」
「ごめん。ちょっと話しかけないで、集中しているから」
「ごめんなさい・・・」
そして、3分後。どうやら、星詠みは終わったようだった。
「楓葉・・・」
「ん? 何?」
瑞穂はあることを言った。
「中央宮が欠けたことによって、この塔に異常が発生しているってどういうことなのかな?」
「えっ? わたしに分かりませんよ・・・」
「うーん・・・」
「というか、塔のパーツがなくなったんだから、通常の状態より異常に感じるのは当然でしょ?」
「そ、そう・・・かな」
「そうよ」
瑞穂は別に馬鹿というわけではない。
でも、中央宮がなくなってはいけない本当の理由を、今から知ることになる。
「瑞穂、終わったようね?」
「はい」
やってきた莉々子はこう言った。
「・・・大地が落ちるわね・・・」
それを聞いた2人は驚いた。
「え!?」
「なんですって!?」
彼女はこう述べた。
「中央宮だったパーツは大地と塔のエネルギーを供給する場所なの」
「じゃ、じゃあ、そこが無くなったら・・・?」
「そう。大地を浮かせるエネルギーがどんどん無くなっていって、最終的には死の雲海に落ちるわよ」
それを聞いた2人はさらに怖くなった。
「そ、それじゃ・・・!」
「い、急いで知らせたほうがいいですね!」
「ええ。でも、少しぐらいは持たせられるわね・・・」
2人は「少し」という言葉に疑問を持った。
「少し、ですか?」
「中央宮が消えてからどれぐらい経つ?」
「1週間、でしょうか・・・?」
「それなら・・・」
2人も「それなら・・・?」と返した。
「残された期限はあと80日・・・と思ったほうがいいわよ」
「80日・・・」
「ということは、80日以内に真の大地を見つけないと・・・」
莉々子ははっきりとこう言った。
「そうね。落ちるわよ」
話を聞いているうちに、楓葉は余計に眠れなくなってしまった。
「はぁ・・・、余計に眠れなくなっちゃいました」
「ごめんなさいね。でも、脅しているわけじゃないわ」
「分かっていますよ・・・」
そんな楓葉に瑞穂は珍しく他人に気を遣うことを言った。
「楓葉!」
「な、何!?」
「わ、わたしが、一緒にいてあげるわ! そうすれば、怖くないから!」
「あ、いや・・・。わたし、そんなに子供かな?」
これでも、瑞穂は自分の言っていることが恥ずかしいことだと思っていた。
「そういうことじゃないんだ! わたしは、楓葉のことが・・・」
「え・・・?」
瑞穂は不思議なことを言い出した。
「……よ」
「え?」
「好き、なのっ!」
それを聞いた楓葉は驚いた。
「あ、あのね、瑞穂・・・」
「わたしは本気だ! 楓葉はわたしを女じゃないってこと知ってるんでしょ?」
「それは、知っているけど・・・」
楓葉にとって瑞穂は友達でしかなかったのに、突然告白されて心の準備すらできていなかった。
「瑞穂、ごめん。わたし、まだ、だめなの・・・」
瑞穂はそうなるかのように平然としていた。
「そっか・・・。わたし、ちゃんと考えていなかったね」
彼女はそう言って照れた。
「えへへ。人の気持ちすら考えたことのないわたしなんか、受け入れられるわけがないよね?」
楓葉は彼女を傷つけてしまったのではないかと思った。
「違うわ、瑞穂」
「え?」
「あなたを傷つけてしまったのかもしれない。でも、わたしにはまだ早いんだよね・・・」
もとより、瑞穂が傷ついているわけがなかった。
彼女は笑っていた。
「あー、朝になっちゃったな・・・。今すぐにでもこの世界の危機を伝えにいく?」
「・・・そうだね、瑞穂!」
彼女らの仲は想像以上に変わっていた。
しかし、ここからどうなっていくかは彼女ら次第なのである。
「瑞穂!」
「ん?」
「この世界が救えたら、あなたの気持ちをちゃんと受け止められるかもしれない」
そして、楓葉は一息置いてこう言った。
「その時まではあなたから離れないし、ちゃんとあなたもわたしの手を離さないでよね!」
「うん!」
そう言って瑞穂は楓葉の手を取った。
「あ、あの、そういうことじゃなくて・・・」
「例え、でしょ? でも、離さないよ、わたしもね」
2人は無意識に相談し合える仲になった。
これからはたくさんの困難が2人の前に立ちはだかるだろう。
だが、それを2人は手を取り合って越えていくに違いない。
そう、運命が導いたあの2人のように・・・。