世界の終わりを告げる鎮魂歌
大陸が沈むまで80日。
2人の少女は急いで理子たちに合流しようとしていた。
「あ、あのさ?」
楓葉は何か違うと感じていた。
「何?」
2人は大きな空洞の前にいた。
「ここ、どこなの? それに、伍番機とは違う方向だし・・・」
「ん? ああ、ここね」
瑞穂は平然としていた。
「ここ、8番エリア」
「え!?」
「大陸へ行けないから使われないんだけど、この中にはとっておきのものがあるんだ!」
とっておきのものって一体何なのだろうか?
「へぇ、そんなのがあるんだ?」
「うん。あるみたいなの・・・」
「みたい、って?」
「それは・・・、お母さんが乗ってきたもので、どんなものかちゃんと教えてもらっていなくて・・・」
「な、何よ?」
瑞穂は目の前に手段がある限り、他の事は考えないのだ。
「とにかく入ろうよ!」
こんな彼女を楓葉は一番知っていた。
「うん、分かったわ」
こうして2人は8番エリアに入った。
***
8番エリアには特別に格納庫という区画があった。
そこに2人が向かうのだが、そこには1つの大きな飛行機が置かれていた。
「わあ、こんなに大きいんだね!」
瑞穂が瑞穂なのか、とても感激していた。
「これが、莉々子様がおっしゃっていた飛行船?」
「多分、そう・・・」
あいまいだったが、楓葉はあえて見過ごした。
「じ、じゃあ、乗ってみようか?」
だが、瑞穂は何も知らなかった。
「動かし方が分からないのに乗るの?」
とぼけている彼女も彼女だ。
楓葉はなるべく見過ごすように心がけた。
「そ、そうなんだ・・・?」
瑞穂は本気で困っていた。様子を見れば、誰だって分かる。
「瑞穂?」
楓葉はだんだん心配になってきた。
「あ、いや・・・、わたし・・・」
「ん?」
「わたし、こういうの、怖くて全然だめなんだ・・・」
瑞穂は機械が苦手だった。
「あのさ、月詠みのあれ、機械だったんじゃ?」
「そうだよ。でも、あれはやっと慣れたから・・・」
「瑞穂・・・」
瑞穂は幼い頃に、塔のシステムに関わる大切な装置を間違って遊び道具にしてしまっていて壊してしまった記憶があった。
幸い、その装置は直ったのだが、瑞穂はそれから大切な機械が壊れることを恐れて機械を触ることすらできなくなっていた。
「わたしが触ると、すぐに壊れちゃう・・・」
そんなことはないが、彼女は壊れるのを恐れているから触るのもためらうのだ。
楓葉は瑞穂の手を取ってこう言った。
「大丈夫。機械だっていずれは壊れてしまうものよ。でも、瑞穂が悪いとか良いとかじゃなくて、ただ単にきっかけを与えてしまっているだけ」
「楓葉・・・」
「もう壊れたっていいわ。あなたとならどこにだって行ってあげるわ!」
楓葉は瑞穂の手を強く握っていた。
「あ、あはは・・・。一応やってみる」
そう言って、瑞穂は飛行機に乗り込んだ。
「何だろう、これ・・・」
乗った時、彼女は不思議な感覚に見舞われた。
「不思議・・・。これ、動かせそう・・・」
楓葉はその間に後ろに乗り込んでいた。
「いけるの?」
「うん」
どうして動かせるのかは分からなかったが、瑞穂は気にしなかった。
逆に楓葉は瑞穂のおとぼけかと思っていた。
「あ、ハッチ、開くのかな?」
「・・・」
楓葉は一応大丈夫だと思わせることを言った。
それを聞いた瑞穂は飛行機を始動させた。
「じゃ、いっくよぉー!」
そして、飛行機が動き出した。ハッチも勝手に開いた。
「OK! 瑞穂、行っちゃって!」
飛行機は空に飛んだ。
「いやっほー!」
瑞穂はとても興奮していた。
「んー、ここまで気持ち良いとは思わなかったわね」
楓葉は初めて乗る飛行機の空に感動していた。
「あ、瑞穂。理子様たち知らせないと・・・」
「ん、そうだね」
瑞穂はベアルトリスへと飛行機を飛ばした。
***
ベアルトリスには着いたものの、理子たちはいなかった。
「どこに行ったんだろう、理子さま?」
「紀実様もご一緒だというのに、いずこへ・・・?」
そんな困っている2人に一人の男が声をかけてきた。
「おぉ、瑞穂か・・・」
一条家当主の真之介だった。
「あ、真之介様!」
彼は瑞穂たちが知りたいことをすぐに言ってくれた。
「理子ならクローレンに向かうと言っていたぞ?」
「クローレン、ですね!」
そう言って、瑞穂はすぐに飛行機に乗り込んだ。
「あ、ちょっとま・・・」
楓葉は瑞穂の代わりに謝った。
「す、すみません!」
「だから、ちょっと待てと言っているだろ!」
真之介は楓葉を引き止めた。
「あ、はい・・・」
「何か急いでいるようだが、何かあったのか?」
「はい・・・」
そして楓葉は起きようとしていることを話した。
「・・・そんなことが・・・」
「あ、あの、まだ先だと思っていますが、これでも日が迫ってきているんですけど・・・」
「分かった、こちらでも考えておこう。今動ける当主を皆呼ばねばな・・・」
そして、真之介は急いで準備をした。
「あ、そうだ」
「はい?」
彼は最後にこう言った。
「理子にこれを渡しておいてくれ・・・」
そう言って彼は箱を楓葉に渡した。
彼女はあえて中身の詮索はしなかった。
「・・・分かりました。しっかりと渡しておきます」
「頼んだぞ!」
そして楓葉は瑞穂に急かされて飛行機に乗った。
***
クローレンに着いた。
2人は早速理子たちを探した。
町の人から話が聞けたので聞いてみた。
それによれば、大図書館へ向かったそうだ。
そして2人は急いで大図書館へと向かった、ということになる。
「理子さまぁー!」
「ちょっと、こういう場所は静かにしなきゃだめなんだってば・・・」
「あ、ごめん・・・」
図書館では静かに、というのが常識になっているのは暗黙となっているが、何故そうなのかはあえておいておこう。
奥まで進んでみると、本が山積みにされた机があった。
そこではある調べ物をしていて、それに関する本ばかりが積まれていた。
「理子さま、いるのかな?」
瑞穂は理子を見つけられなくてちょっと焦っていた。
「ここだけさっきとは違う雰囲気だから、多分ここじゃないの?」
「そうなのかな?」
瑞穂は前を見ずに余所見をしながら話していた。
そんなことは知らずに、瑞穂の前からも本をたくさん積んで一生懸命運んでいた人が向かってきていた。
「瑞穂!」
「え?」
時既に遅し。楓葉が注意を促したのだが、瑞穂も相手もぶつかりあってしまった。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
積み上げられた本は床に散らばり、瑞穂も相手も後ろに転んでしまった。
「だ、大丈夫?」
楓葉はすぐさま散らばった本を集めようとした。
「ごめんなさい。手伝いますから」
楓葉は瑞穂にも手伝うように言って手伝わせた。
気が付いた相手も急いで散らばった本を片付けようとした。
「す、すみません。前が見えなかったので・・・」
「こちらこそ、わたしがもっと早くに注意を促せれれば・・・」
楓葉はそう言って集めた本を返した。
「そ、そうでしたか・・・」
彼女はそれを受け取り、すぐにどこかへ向かおうとしていた。
「これ、忘れてる・・・」
瑞穂は彼女に集めた本を返した。
「あ、ありがとう・・・」
彼女の顔を見た瑞穂はあることに気づいた。
「あれ? もしかして、科鈴?」
その通りだった。
「み、瑞穂さんでしたか・・・」
科鈴は何か訳ありとみて、2人をすぐに理子のところへ連れて行った。
***
山積みの本の机に、さらに積んだ本を乗せると、科鈴は理子と紀実に瑞穂と楓葉が来ていることを話した。
それを聞いた彼女らはすぐに確かめに行った。
「瑞穂! どうしたの?」
「楓葉・・・。何かあったの?」
瑞穂は答えた。
「あと79日で大陸が沈むの!」
「え?」
理子と紀実は驚いた。
「もう、真の大陸どころじゃないです」
「そうね・・・。でも、あともうちょっとで紅の御子と蒼の御子のことが分かると言うのに・・・」
話を聞いていた優花が割り込んできた。
「真の大陸の前に、まずは中央宮を取り戻す必要もあるわね」
「じ、じゃあ・・・?」
「中央宮が失われたことによって他の塔のシステムが大陸との共有エネルギーを送らなくなることは前から知っていたわよ」
「そ、そうなんだ・・・」
瑞穂と楓葉は彼女をやっぱりすごいと思った。
しかし、疑問が残る。
「でも、どうやって中央宮を戻すの?」
優花は言った。
「『戻す』? いいや、『作る』のよ!」
となんか嬉しそうに言った。
それを聞いた5人は驚いた。
「優花! それ、本気で言っているの!?」
当然の答えが返ってきた。
「ええ、当然よ」
「でも、作るってどうやってですか?」
彼女は簡単に言った。
「塔の外側と内側の構造をきちんと調べさせてくれれば・・・」
塔の材質を知ることができれば、優花は作れると言い張った。
だが、それ以外にすがる当ては5人の誰にも無かった。
「・・・分かったわ」
「それしかないわよね・・・」
「何か楽しそう」
「それ以外にはなさそうですし、ここは優花さんに賛成します」
「優花は言い出すと降りないからなぁ・・・」
ということで、6人は中央宮を取り戻すことにした。
***
中央宮を取り戻すには次のものが必要だそうだ。
1.塔の構造を知ること
2.中央宮の構造とその設計図の情報を入手し、実現させること
3.カウントストップという音譜を探して歌える御子に歌わせること
「塔の外部の材質を知るには、わたしが乗ってきた飛行機が使えるかな?」
瑞穂がそういうと、楓葉はこう言った。
「それなら・・・。あの飛行機は2人乗りですし、塔の構造は瑞穂と優花さんに任せておきませんか?」
理子が仕切った。
「分かったわ。それは瑞穂と優花に任せることにして、あとは、中央宮の設計図の入手とカウントストップの入手ね・・・」
紀実が言った。
「でも、カウントストップってどういったものかな?」
それを優花が説明した。
「カウントストップというのは、簡単に言えば、塔のシステムを一時停止させるものね」
「でも、塔の機能を停止させたら・・・?」
「大陸が落ちるんじゃないかって? 心配無用。そこはちゃんと塔だって考えるわよ」
「そうですか・・・」
カウントストップは大陸とのエネルギー供給が絶たれる時を一時的に延長させるもので、ストップとは言っても止められるわけではなかった。
そしてまた、紀実がカウントストップの在処を聞いた。
「ところで、カウントストップはどこにあるの?」
優花は答えた。
「えっと・・・、たしか・・・」
そう言いながら、カウントストップの資料を探しに行った。
1分後、彼女は一冊の本を持って戻ってきた。
「ここ、書かれていることが正しければ、バイダーの最深部にあるそうよ」
「バイダー?」
それを聞いた瑞穂は言った。
「ばいだーっていうのを、塔の下層部にあるのを聞いたことがある・・・」
優花は本を見直して、それが正しいことを証明した。
「確かにそうみたいね。でも、死の雲海すれすれの場所だから、危険といえば危険ね・・・」
だが、そこに行かない限りはカウントストップを手に入れることができないのだ。
それを踏まえて、紀実、理子、楓葉がバイダーに向かうことになった。
「いいわね? 3人だからって何があるか分からないわよ」
「分かっているわよ、理子」
「お二人に何かがあれば、わたしが全身全霊を持って守り抜いて見せます!」
紀実は久々に頼もしい楓葉を見た。
「無茶だけはだめよ。一応わたしたちも身を守ることだってできますから」
「はい、分かりました」
残るは中央宮の設計図の入手となった。
「わたし・・・しか、いませんよね?」
残っているのは科鈴だけだった。
「科鈴。あんたが一番重要なんだから、一番頑張って欲しいわね・・・」
「当然よ。優花よりわたしの方がすごいってところをみせてやるわ!」
「ふふっ。言ったわね・・・。その分期待させてもらうわ」
「ええ。望むところです!」
塔の調査をする組を、仮に1班、他をそれぞれ、設計図を見つける組を仮に2班、カウントストップの捜索する組を3班とした。
そして、役が決まったところで、それぞれが動き始めた。
***
1班は飛行機の前にいた。
「これが・・・。うーんっ! なんか、久々に興味をそそるものが現れたわね・・・」
「一応普通の飛行機だと思うんだけど?」
「違うわっ! これは・・・!」
優花は瑞穂と楓葉が乗ってきた飛行機に興味が湧いて、目的どころではなくなった。
優花から聞けば、その飛行機は異国の古代文明の遺産であるようで、結構昔からあるものだとか・・・。当然といえば当然だが・・・。
「思い出したわ! この飛行機は・・・」
「ちょ、ちょっと・・・」
瑞穂は優花のペースにはついていけれなかった。
「ドラゴンフライ・・・、そう、トンボよ、トンボ!」
優花は勝手にはしゃいでいた。
瑞穂はいい加減嫌になった。
「早く行こうよ!」
だが、優花は止まらなかった。
「もうちょっとだけ! お願い!」
そう言って強引に優花は事を進めた。
この時の優花を止められる人はもういなかった。
それを悟った瑞穂はただただ見ているだけだった。
「(まだ期限はあるし、急がなくてもいいよね・・・?)」
そうやって瑞穂は自分を落ち着かせた。
***
3班はバイダーまでの行き方を考えていた。
まずは、カタパルトエッジの昇降機に乗ることを理子が言った。
「カタパルトエッジにある9台の昇降機。まだそこからバイダーに行けるかは分かっていないけど、ひとまずそこにかけてみない?」
それに対して、紀実が言った。
「そうね・・・。瑞穂さんが行き方を知っていれば話は早いんですが・・・」
「瑞穂は優花さんと一緒に、もう出かけたんじゃない?」
「かもしれないわね・・・(微妙なところだと思うけど・・・)」
しらみつぶしは無駄が多いのだが、今はその手を使うしかなかった3人は、ひとまずカタパルトエッジに向かうことにした。
「6番エリアに、まずは行きましょう・・・」
そう言い出したのは理子だった。
その意見には皆賛成だった。
「確かに、直接行ける所で一番近いのはそこよね・・・」
「そうですね。6番エリアは安全ルートだと思います」
そうと決まったら、3人はすぐに6番エリアに向かった。
***
他のみんなが大図書館を出た後、科鈴は資料集めをしていた。
「・・・みなさん、頑張っているんでしょうね・・・」
実は、科鈴は大図書館の本がどれだけあるのかを知らなかった。
本当は大図書館の本を全て知り尽くした優花が最適だったのだが、彼女は瑞穂と共に塔を調べに行ってしまったのだ。
「・・・調べつくしていないから、みなさんが帰ってくるまでに間に合いそうにはありませんね・・・」
そう思った科鈴はある考えに至った。
「人手を増やそうかな・・・」
彼女はそう思って、大図書館を後にした。
そう、彼女は二条家と三条家などといった、世界の現状を知らないところに向かったのだった。
この時、残された期限は、あと77日となっていた・・・。
***
楓葉はあるものを預かっていることを思い出した。
「理子様。真之介様からこれを預かりました」
理子はそれを受け取って箱を開けてみた。
「これは・・・!」
中身は一条家に代々伝わる銀の短剣だった。
「これは当主である証のはず・・・。どうしてこれをわたしに・・・?」
それは真之介本人にしか分からなかった。
「理子は当主として認められたのよ、きっと」
理子は蓋をして懐にしまった。
「お父様・・・。相応しい時にまた開くことにしておきます」
彼女はまだ自分が当主に相応しいとは思っていなかった。
「そっか・・・。その時のために、今は頑張ろうよ」
紀実の優しい声掛けに、理子は落ち着いていられた。
「そうね。楓葉、届けてくれてありがとうね」
「いえ、当然のことをしたまでです」
そして、3人は6番エリアを渡り続けるのであった。
***
時が1週間経った。
科鈴は協力を仰ぐために、二条宮に着いたばかりだった。
1班はあの時のやつと優花の飛行機操作指南によって、やっと飛行機が飛び始めたばかりだった。
3班はバイダーの場所を、カタパルトエッジで探していた。
3日経てば状況が変わっているのだろうか?
科鈴は朱禰と瑠梨に協力を求めることができ、次は涼歌と米斗がいる三条宮へと向かっていた。
ちなみに、朱禰と瑠梨は2班として同行している。
1班は塔の下層部の外壁を調べていた。
飛行機の限界ギリギリを3分飛んでは上にある大陸に下り、その3分後には再び下層部に下りては、またその3分後には大陸に戻ってはを繰り返して、効率が悪くて作業が全く捗らなかった。
3班は瑞穂に合流するために大陸へ戻ることにして、来た道を引き返していた。
どの班も作業が進んでいるとはいえなかったが、ちゃくちゃくと手がかりなどを得ようと努力を始めていた。
そしてまた、1週間が経とうとしていた・・・。
その時の残された期日は、あと2ヶ月となっていた・・・。
***
3班は1班の瑞穂にバイダーの場所を聞くために、1班と合流しようとしていた。
来た道を戻っていると、偶然大陸の調査の合間だった1班を見つけた。
早速3班は瑞穂にバイダーの場所を聞いた。
「バイダーってどこにあるか知ってるの?」
理子は単刀直入に言った。
瑞穂はこう答えた。
「九番機で行けると思うよ」
何故だか知らないが、瑞穂はバイダーの行き方を知っていた。
「九番機ね・・・」
「九番機って、確か空洞だったと思うけど?」
瑞穂はこう言った。
「空洞・・・、8番エリアの中層だったかな、そこは・・・?」
「8番エリアなの、あそこ!?」
楓葉は驚いていた。
「8番エリアって、わたしたちが飛行機に乗った場所・・・」
「そうだよ。でも、そこは上層。まだ中層があれば下層だってある」
「じゃあ、8番エリアを下っていけばいいのね?」
「そうだと思うよ」
それを聞いた3人は早速九番機へと向かった。
「ありがと、瑞穂!」
「瑞穂も役に立つ時はあるものね・・・」
「瑞穂さん。場所を教えてくれてありがとうね」
そう言って3人は去って行った。
「どうかした?」
ドラゴンフライの調子を確認していた優花が尋ねてきた。
「ううん、ただ、3班にバイダーへの行き方を教えていただけ」
「何っ!? どうしてあんたがそんなことを知っているわけ?」
「うーん・・・。分からないけど、なんとなく知っていることを話しただけだよ」
それを聞いた優花はどうしようもないと思った。
「そう・・・。さて、次、行くわよ!」
そして、再び1班は塔の外壁へと飛び立ったのであった。
***
3日後。
3班は九番機に乗り、6番エリアの中層にやってきていた。
空気が薄いと感じられたが、問題の無い範囲だった。
「ここからどんどん下っていくのね・・・」
3人は道を探した。
探すと、昇降機を見つけた。
「ここから下りていくのね・・・」
3人は昇降機に乗った。
昇降機は大きな空洞に下りた。
そこをどんどん歩いていくのだが、何も無い静かな所だった。
「ここってどんどん下りていくんですね・・・」
長い空洞で歩き疲れてきた。
「少しずつ、休みを入れていきませんか?」
紀実がそう提案した。
理子と楓葉はそれを受け入れて、一定のペースで休憩と歩きを繰り返した。
それを繰り返すうちに3日が経っていた。
やっと広い所に出たのだが、まだバイダーではなかった。
「ここって、九番機と同じ所じゃ・・・?」
そう思った3人は昇降機を探した。
だが、今度は昇降機ではなかった。
「ここに縦に続く穴があるわね・・・。ついでに、それを上り下りするはしごもあるわよ」
紀実ははしごを見つけた。
そこは一人ずつ下りていくしかなかった。
「見える先が真っ暗ですね・・・」
それでもそこを降りていくしかなかった。
「それにしても、どうしてここだけはしごなのかしらね?」
「塔の下層部はあまり行き来する所じゃないからだと思う」
理子はそれで納得した。
だが、とにかくはしごを下りるしかなかった。
順番は、楓葉、紀実、理子となった。
はしごを下りると、また空洞だった。
「え? まだなの・・・!?」
「それでも行くしかないでしょ?」
「ええ、分かっていますけど・・・」
3人はひたすら歩いた。
今度は休憩の間隔を短くした。
そして今度は2日で歩いたのであった。
抜けた先には1基の昇降機があった。
「これに乗るんだね・・・」
「でも、さっきのところがはしごだったのが気になったわね・・・」
「もう、気にしている暇は無いと思うわよ・・・」
理子はもう、さっさとバイダーに着いてほしいと願うばかりだった。
この時に残された期日は、あと40日となっていた。
このままではカウントアップを入手しても、戻る時間がないという計算になるのだが・・・。
***
2班は目的を果たし、大図書館へと戻っていた。
「設計図か・・・」
「これだけ本が多いと、確かに一人じゃ大変ですよね」
米斗はこういう中での探し物は得意ではなかった。
涼歌はどうやら、本の大きさに驚いていた。
「こういうのって探すのが難しいから、適当にやるわ」
「あ、朱禰様、ちょっと・・・」
一応やる気があるようだった。
「ご、ごめんなさい。でも、世界の危機なんです・・・」
そうやって説得する科鈴。
「世界の危機と言われてもなぁ・・・」
「ほんと、そんな感じがしないんだよね」
米斗と朱禰がなんとも思っていなかった。
「あ、あの・・・」
協力してくれたことを疑う科鈴だった。
「ま、探すよ」
「できる限りはやるさ」
「あ、ありがとう・・・」
数時間後。
どれが中央宮の設計図かが分からなかったので、設計図という設計図を取り出して、近くの机に山積みにされていった。
「ふぅ・・・。これだけ集めたのに、機械の設計図ばかり・・・」
20冊読み飛ばしても中央宮の設計図は見つからなかった。
「20冊追加です、科鈴様」
「え、ええ・・・」
科鈴は読んだ本を隅に寄せた。
「まだある?」
「さすがに、今の追加で全部です・・・」
「そう・・・。60冊か・・・」
彼女は米斗たちにも見てもらうように言った。
そして、1時間後・・・。
「見つけました!」
最後の1冊を読んでいた科鈴が中央宮の設計図を見つけた。
「これを、書き写して・・・」
だが、書き写すことに疑問を持った者がいた。
「どうして、書き写す必要があるのですか?」
米斗だった。
科鈴はこう答えた。
「新しく書き直すのです。こうも古くては読みづらいですし」
「そうか・・・」
文字が薄れていたり穴が開いていたりなどで古くなった設計図を書き直す、という作業が残っていたことは、到底思っていなかったのであった。
「あうぅ。まだあるの?」
「朱禰様、あともう少しだけ頑張りましょうよ」
元々へたれこんでいた朱禰はもっとへたれこんでしまった。
「ったく、やるしかないのか・・・」
「が、頑張りましょうよ。ファイトです!」
「嫌だって言うわけがないだろ」
これから2班は、この作業が、いちばん時間がかかった。
***
「チタンと亜鉛の合板1枚に、混合ネジが20本ぐらい・・・?」
1班は外壁の構造をやっと解明できたところだった。
「ふぅ・・・。これで、外は終わりだね」
「そうね・・・。でも、まだ内部があるわよ」
「そうなんだよね・・・」
「実は、外より中の方が危険だって言うのは知ってる?」
優花は瑞穂に脅しをかけてみた。
「間違って、エネルギーセクタに入るとやばいもんね・・・」
彼女には全く通じていなかった。
「何言ってんのよ? そこに入るんだよ、あたしたちは」
「そうなんだ・・・って、セクタは今立っている大陸の地下にしかないんじゃ!?」
「あーはは。そうよ」
「ぶー・・・」
変なところで騙された瑞穂は逆に機嫌が悪くなった。
「ごめんごめん。謝るからさ、この通り」
「・・・で、どこの内部に行くの?」
「一番広い所は、カタパルトエッジかしらね・・・」
ということで、2人はカタパルトエッジに向かうことにした。
「さて、これからがもうひとつの本番よ!」
優花はさらに気合いが入った。
***
大陸が落ちるまで、残り30日となった。
3班は8番エリアを果てまで下って、バイダーでカウントアップを手に入れようとしていた。
「暑いわ・・・」
「ここが、死の雲海のエリア・・・」
「ここにエネルギーが集まっているんですね・・・」
「ええ。そのようですね・・・」
中央宮がない今、塔全体を安定させていたエネルギーは、根元であるバイダーに溜まっていっていた。
「さっきまでで疲れているっていうのに、ここの暑さまでに参ると、本当にばてそう・・・」
「ええ。早く最深部にたどり着かないとね・・・」
3人は道という道を歩いた。
歩いていると、とても暑くて近寄りたくない場所があった。
「こ、この先を、行くっていうのですか!?」
楓葉は正直焦っていた。
「さすがに、無理だわ・・・」
理子も諦めていた。
「・・・うまくエネルギーを循環させるか、解放させるかができれば・・・」
紀実がそう言った。
とりあえず、紀実の言ったことをそのまま受け入れるしかなかった。
「・・・分かったわ、探してみましょう」
3人はそれらしきものを辺りで探した。
すると、パイプにハンドルがついていることに気が付いた。
「これ・・・?」
理子は後先考えずにそれを回した。
すると、どこからか分からなかったが、風が吹いてきた感じがした。
「風?」
「うーん・・・。とりあえず、さっきの所へ戻ってみよう」
そして3人は強烈な熱風が吹いていた場所へと向かった。
そこはもう、暑くはなかった。
「・・・もう大丈夫ね」
安心した3人はその先を進んだ。
進んでみると、広い場所に出た。
一番奥には、唄の岬でもあったような封印があった。
「歌がなければ、これは取り出せないかもしれないわね・・・」
ここまで来て、またふりだしに戻るのは嫌だった。
ということで、3人は辺りを調べて方法を見つけ出すことにした。
「見つからないわね・・・」
理子が調べている辺りには手がかりらしきものはなかった。
「わたしのところもです・・・」
紀実も同じだった。
だが、仕掛けは実に簡単なものだった。
「これ、ここを押せば開くようです・・・」
楓葉は音譜が封印されていた土台のボタンを押していた。
すると、音譜が取り出せるようになった。
「あらら・・・」
「そんなに簡単だったのね・・・」
理子と紀実はどっと疲れが生じた。
楓葉はさっさと音譜カウントストップを取り出した。
「さあ、残りの期限も迫ってきています。早く行きましょう!」
ここで理子が止めた。
「ちょっと待ちなさい。あなた、来た道を戻るつもり?」
「そ、それしかないですよ?」
「それこそ間に合わないわよ」
「で、では、どうすれば・・・?」
いい方法なんか、思いつくわけがなかった。
果たして3人は無事に戻ってこられるのだろうか!?
***
未だに目的が果たせていない。
しかも、一番重要なカウントストップの入手に時間がかかっている・・・。
2班はほぼ完了といったところだが、1班は少々進行に遅れがあるのも事実。
果たして間に合うのか?
はたまた、このまま大陸が落ちるのを見届けることになってしまうのか?
それは、今はまだ分からないのであった・・・。
そして、次の時には、残された期日はあと10日となっていた・・・。