世界、再起動ス…
1班と2班が大図書館に集まっていたが、未だに3班が戻ってきていなかった。
だが、3班は戻ってきて音譜の詩を歌うことすら絶望的となっていた。
「ついに、できるのね?」
設計図と材料は揃った。
だが、残り10日のうちにできるわけがなかった。
「10日じゃ、無理よ・・・」
誰もが絶望に陥った中、ある少女が言った。
「2日・・・。2日待ってくれる?」
優花はとんでもないことを言い出した。
「2日!? 無理でしょ?」
理子が言っていることは正しかった。
「9番エリアに行ってくるわね。そこにいいものがあったはずよ」
他のみんなには何のことかが分からなかった。
「科鈴!」
「は、はい!」
「あんたも必要だから、ついてきなさい!」
「は、はぁ・・・」
優花は科鈴を9番エリアというところに連れて行ってしまった。
「・・・どうしようか?」
「そう言われてもねぇ・・・」
「今はない、よな・・・」
「ですよね・・・」
米斗、涼歌、朱禰、瑠梨、瑞穂の5人は何もできないまま、準備が整うのを待っていた。
***
一方、3班はまだバイダーにいたのであった。
どうやら、近道を探しているようだ。
「・・・ないわね」
「そうよね・・・」
あと9日だというのに、諦めていなかった。
「普通に帰ってももう遅いというのに、何をしたらいいのよ!?」
そう言って理子は壁に八つ当たりをした。
「ああ、もう、手に入れたらさっさと戻ればよかったわね!」
理子は同じ所を何度も蹴っていた。
「り、理子・・・!? はしたないわよ!」
「理子様!」
2人は理子を抑えようとするが、やめなかった。
「あーもう、落ちるわよ、大陸と一緒にね!」
理子の渾身の一蹴が壁に入った。
壁が壊れると共に、すごい音がした。
すると、空洞ができた。
「理子、あなた・・・!?」
誰もが塔を壊したと疑った。
「わ、わたしは知りませんわよっ!」
そんなことを言われても、目撃者が理子以外の2人全員なら、壁を壊したのが理子以外の誰かということが言えるわけがなかった。
「な、直せばいいんでしょ、直せば?」
「ちょっと待ってください!」
楓葉が理子を止めた。
「どうしたの?」
紀実は楓葉に訊いた。
「この先に道があるみたいなんです」
そう言われた紀実は空洞を確かめた。
すると、そこには昇降機があった。
「セクタ稼働部じゃないの?」
理子も確かめる。
適当な知識で昇降機を調べてみると、どうやら5番エリアの中層部につながっているようだった。
「これならいけそうね!」
「ええ、そうね」
「行きましょう! 時間がありませんよ!」
そして3人は昇降機に乗って6番エリアの中層部へと戻ることができたのであった・・・。
***
残り8日。
9番エリアに向かうと言って出かけていった優花と科鈴がクローレンに戻ってきた。
「待たせたわね」
優花と科鈴が乗ってきた機械を見た5人は未来の時代で作られたようなものだと驚いていた。
「これで、何ができるの?」
朱禰は機械のことがとても気になった。
それに優花は答えた。
「この機械は古代の高度文明で作られたみたいなのよ」
それを聞いた5人はもっと驚いた。
「こ、こんなのが!?」
「すごいですね、過去の人たちって・・・」
「すっごいし、大きいし!」
朱禰は、はしゃいでいた。
「こんなものがあるって・・・」
「これ、不思議な形をしているような気がする・・・」
瑠梨と瑞穂はただ呆然としていた。
「何ぼーっとしているのよ! 早く持ってきなさい!」
「な、何をですか!?」
当然、優花が急に言い出したので、何を持ってこればいいのかは分からなかった。
「あ、あの・・・。設計図と材料をここに持ってきてください」
科鈴がフォローを入れた。
それを聞いた瑠梨は急いで設計図を持ちに行った。
しかし、材料がどこにあるのかが分からなかった。
「ったく、鈍いわね・・・」
優花視点でついてこられる者など、いるわけがなかった。
「何のことかさっぱりね・・・」
「そう言えば、広場にラムダ板が大量に置かれていたような気がする・・・」
それを聞いた優花はニヤリとした。
「それよ、それ!」
2日前、クローレンの学生からラムダ板が積み上げられて置いてあるという情報が入っていた。
「何しているのよ? 早く持ってきなさいよ!」
優花が何故か指揮を執っていた。
彼女はどうやら、機械の調子を確かめるために動けないらしい。
「科鈴、あの人たちが大切なラムダ板を丁寧に扱うように言ってきなさい」
そう言って、彼女は科鈴にも材料運びをさせた。
「うぅ、分かったわよ・・・」
科鈴は急いで終わらせようと思い、てきぱきとこなした。
***
3時間後。
「ふぅ・・・、終わったな」
材料運びが終わり、優花以外はヘトヘトになっていた。
「重かったよぉ・・・」
「力仕事のことなんて聞いていなかったけど、楽しかったからいいや・・・」
朱禰自身が気づいていないだろうけど、他から見れば苦でもなかったというように見える。
優花は計画が進むごとに、ウキウキしていた。
それはなぜかって? 彼女は古代文明の遺産を作り上げることに憧れだったからだ。
「さあ、ベアルトリスへ行くわよ!」
先へ先へと進む優花に、6人は待ったをかけた。
「ちょ、ちょっと待ってください・・・」
「ま、まだ8日もあるんですよ?」
「そ、そうだよ・・・。のんびりいかないの?」
「さすがに早いかも・・・」
「ふえ〜、疲れたよぉ・・・」
「優花も休んだほうがいいよ?」
6人は既にクタクタだった。
その状況を見た優花はこう言った。
「・・・分かったわ」
しかし、彼女はこう付け加えた。
「でもね、中央宮を作り上げるのには3日はかかるわ。それを覚えておきなさい」
そう言った彼女はこの日だけ休むと言って五条宮に帰って行った。
「そ、それでは・・・、みなさんもお疲れ様でした!」
疲れている科鈴も優花の後を追って、五条宮へと帰って行った。
「さてと、どうしますかね?」
米斗たち5人も優花と科鈴の後についていくことにした。
「米斗の判断にお任せします」
「そ、そうか・・・」
先に向かっていた科鈴に急いで追いつき、米斗は声をかけた。
「科鈴!」
「あ、はい。・・・米斗さん、どうかしましたか?」
「あ、あのですね・・・」
米斗たちは、泊まる所がないことを伝えた。
「あ、すみませんでした!」
そう言って、彼女は優花の所に急いだ。
米斗たちはその後に続いた。
***
気が付けば、五条宮に着いていた。
科鈴は優花に、米斗たちのことを話した。
「ま、まぁ、いいんじゃない?」
「・・・もう、うちにそんな場所があると思う?」
優花は気が進まなかった。
「そもそも、研究対象としてならまだしも・・・」
優花は米斗たちがここに来たのは科鈴が連れて来たからだということは分かっていた。
「そうね・・・。科鈴が責任を取って見るのなら、いいけど?」
「ほ、本当ですか!?」
「ただし・・・」
「ただし?」
優花は科鈴にある条件を出した。
「あたしに押し付けず、七条宮に連れて行きなさい」
「え?」
「分からないの?」
「いえ・・・、ただ・・・」
科鈴は七条宮のことを気にしていた。
七条宮は存在しないことになっている。
それがなぜかは、後で分かるだろう。
「ん? 気にすることか?」
「ええ。気にしますよ、あれは・・・」
「何を言う。あたしが責任を持って拾ってあげたじゃない」
「優花・・・!」
科鈴は腰にさしていた剣を優花に向けた。
剣を差し向けられた彼女は微動だにもしなかった。
「無駄よ。分かってる?」
「ええ。でもね、あなたの興味本位によって、わたしから全てがなくなったことは忘れないでよね・・・!」
科鈴は、優花に向けていた剣を収め、その場を去った。
「科鈴。あんたはもう、地獄を見ることはないわ・・・」
***
科鈴が話をつけてきたと思っていた米斗たちだった。
しかし、科鈴は優花の条件を受け入れるしかなく、七条宮へ向かうと言い出した。
「七条宮、ですか?」
「七条宮での事件は耳に入っていますよ」
「そうですか・・・」
米斗と朱禰には分からないことだった。
「と、とにかく、行きませんか?」
そうやって瑠梨がうながすが、科鈴にはその気もなかった。
彼女がなかなか行きたがらないことに気づいた涼歌はあることを聞いた。
「どうかしましたか?」
「え? あ、はい。何でしょうか?」
「行きたくないわけがあるようですね?」
「え、ええ・・・、まぁ・・・」
科鈴の目先には、待ちくたびれている朱禰と米斗が暴れそうになっているのを瑠梨が止めている状況が見えた。
すると、突然彼女はこんなことを言い出した。
「幽霊の館って知ってますか?」
「幽霊の館? 分かりませんけど、七条宮のことですよね」
「ええ。わたしたちは今からそこに向かうんです」
周りが急に静かになった。
「未練のある者たちが幽霊としてさまよい、そこにいる人から生気を奪うといわれているんです・・・」
「幽霊・・・ですか」
科鈴が言っていることは本当なのかどうかは分からないが、別に脅しをかけているわけではなかった。
「もう・・・、幽霊でもなんでもいいから、さっさと休もうよ!」
朱禰は宿探しを諦めた。
「あ、どこに行かれるのですか、朱禰様!?」
「この際、どこでもいいや。適当に・・・」
瑠梨は後を追うしかなかった。
「怖かったのかな?」
科鈴はすでにいない朱禰をからかってみた。
「違うと思います! 早く対処しなかったからいけないんです」
それに対して、涼歌は人を悪く言うなというかのように怒っていた。
「す、すみません・・・。とにかく、変なことを言ったのは謝ります。さあ、こちらへ・・・」
そう言って、科鈴は七条宮のある方向を示した。
それに従う米斗、涼歌、瑞穂の3人。
***
何事もなく、朝を迎えた。
いや、宮自体には過去に起きた出来事の状態のままになっていた。
しかし、4人は使うところだけを掃除して休むことにしていた。
「おっはよー、米斗!」
瑞穂は朝が得意というか、いつも早起きができてしまう特別な奴だ。
そんな彼女に布団ごと蹴られて起こされた米斗の目が覚めた。
「な、なんだ?」
布団ごと壁にぶつけられた彼には何が起こったのかが分からなかった。
米斗は起き上がり、周りを確かめた。
「み、瑞穂!?」
「やっほー」
米斗を起こした張本人からは罪悪感を感じない。
「やっほー、じゃない!」
すると突然、彼女は米斗の手を引っ張った。
「ちょっと付き合え」
彼には、強引に連れて行こうとするところとこの発言が、まるで脅迫をしているかのように感じた。
そう感じた彼は強い力で引っ張る彼女からは逃げられないと悟って、素直に従った。
引っ張りまわされた挙句に、目的の場所にすら着かなかった。
そう、彼女には元々目的地がなかったのである。
「な、なあ・・・。そろそろ、着かないのか?」
それを知らない米斗がついにたずねた。
「ん? わたしは米斗と一緒にお散歩したかっただけだよ?」
「散歩!? こんな時にか?」
残り7日となった今、のんびりとはしていられない状況だった。
「そう、こんな時にこそ、落ち着かないとね」
「落ち着くって、さあ・・・」
「いいから、少しぐらい付き合ってよね。これでも、女の子だからねっ」
「男だろうが・・・」
叩き起こされて、強引に連れ回された挙句、さらには瑞穂からお話をしようっていう。
そんな状況で、米斗が不機嫌なのは誰にでも分かる。
そんなのをお構いなく、瑞穂は身の上話を始めた。
***
「わたしの家系ってさ、なぜか男が多いんだよね・・・」
「それがどうしたっていうんだ?」
米斗は聞きたくもない話を軽く聞き流した。
「分からないや。でも、おとーさんも、おじーちゃんも、そのまたおじーちゃんも、八条家の一族・・・」
「(だから、何だというんだ・・・)」
瑞穂の話は続いた。
「元々、八条家は一条家の親戚のようなものだった。でも、八条家はある時に女が生まれたことによって一条家とは分裂したの」
「あのさ、それと今がどうだっていうわけ?」
「独立したのはいいものの、その後八条家に『御子』となる女子は生まれることはなかった」
「珍しいこともあるものだな・・・」
普通でも、何百年も男ばかりである家系はどこにもないだろう。
「それをね、昔は『一条家の呪い』だとか言っていたけど、わたしは気にはしない」
「一応聞いてやるが、どうしてだ?」
瑞穂は答えた。
「呪いなんて有り得ないっしょ? どうせ、偶然だし」
彼女らしい答えだった。
「そ、そりゃ、そうだけど・・・」
「分かるでしょ。何百年も男ばっかりだと、いい加減正規の御子がずっといないわけよ。そして、御子として選ばれたのがわたしってわけ」
男なのに、女の御子として選ばれた彼女からは嫌な顔が感じられなかった。
「瑞穂・・・」
「暗い話とは思わなかったけど、変な話にしちゃった。あはは・・・」
こうして、瑞穂自身で話を終わらせた。
七条宮へ戻ろうと立ち上がる彼女はある決意をしていた。
「よし、わたしが本当の女の子になってやるよっ!」
「は?」
「んー、米斗は既に先約がいるし・・・。かと言って、女の子のわたしはりこさまとは一緒になれないし・・・」
急に変なことを言い出した彼女に対して、彼はこう言った。
「なる必要はないさ。女の子を本当に好きでいられるのは男の特権だ」
その名言じみた言葉に、瑞穂は心を打たれた。
「す、すごい・・・っ。かんどーしたよ、マジで」
彼女はさっき言ったことをもうやめてしまったようだ。
「(おいおい。コロコロと変わる奴だな・・・。ま、いいか・・・)」
瑞穂の過去は、彼女自身に何かを考えさせたのであろう。
だが、今は女の子だっていい、と彼女は思った。
そんな彼女は、米斗にこう言った。
「もし、わたしが本当に女の子だったら、米斗と結婚できたのかな?」
急に言われた米斗は噴いた。
「な、なんだよ、急に!?」
「もしもの話だよ。分かってる?」
「わかってるよ・・・。 もしも、か・・・」
そして、米斗はこう答えた。
「『NO』だな・・・」
「どうして?」
「涼歌が一番大切な存在だ。俺は全てを打ち明け、彼女も全てを打ち明けてくれた・・・」
それを聞いた瑞穂は・・・。
「お互いに想い合っているわけってことか・・・。ちょっと残念かも・・・」
彼女はもっと聞きたかったことがあったが、自分の『もしも』が現実であっても勝てないことを悟った。
「さてと、早くしないと心配されそうだな・・・」
「涼歌さまに?」
「・・・」
米斗は素直に頷いた。
「うふふ・・・。素直でよろしい」
「あのな・・・」
こうして、米斗と瑞穂の友情がさらに深まったのであった。
そして、2人は急いで七条宮へと戻った。
***
戻ると、朝食の用意ができた、と涼歌待っていた。
そういえば、落ち着いて食事をしたことは米斗たちにとっては30日以上なかったことであった。
それを済ませた4人はクローレンへと向かった。
中央広場では優花が待ちくたびれたかのように怒った顔をしていた。
朱禰と瑠梨も一緒だった。
「あっ! やっと来たね」
「来ましたか・・・」
「遅いわよ!」
優花は科鈴を叱った。
「あ、はい! すみません!」
「まぁ、いいわ。あたしも今来たばっかりだし」
それは当然嘘である。
それを知っていたかのように、科鈴たちは優花を「嘘だろ〜?」というような眼差しで見つめた。
「な、何よ? 素直に認めなさいよ・・・」
弱気になった優花を見るのは初めてだった。
「あはは・・・」
「な、何よ、科鈴?」
「分かってたよ。何時間も待っていたんでしょ?」
「もう・・・。それが分かっていたのなら、もっと早く来なさいよね? 時間がないんだから!」
「はいはい。分かってますって・・・」
そう言って、科鈴は優花を近くにあった乗り物に押し込んだ。
「あ、もう・・・」
無理やり押し込んだ後、科鈴はこう言った。
「わたしたちは先に行っています。あ、5番エリアには通行許可を出しておきますので、ベアルトリスにはそこから向かってもらっても構いませんよ」
そして、乗り物は空に飛んでそのままベアルトリスへと向かって行った。
それを見送った5人はそれぞれでベアルトリスに向かう方法を探した。
「5番エリアが使えるのなら、そこから行った方が早いよね」
「そうだな・・・。それじゃあ、全員そこから向かおうか」
だが、瑞穂はドラゴンフライで向かうと言い出した。
「この飛行機で追いつけるし、置いておく場所もないし・・・」
「わ、わかった。遅れるなよ」
そう言って、米斗たちは5番エリアに向かった。
それを見送った瑞穂は・・・。
「さてと・・・」
瑞穂は3班の帰りを待っていた。
しかし、残り7日となった今は帰ってくるのだろうか?
***
一方、3班は・・・。
「あと7日。あの昇降機のおかげで間に合いそうね?」
理子によって、偶然見つけ出された昇降機によって、中層部の下辺りまでやってきていた。
「でも、時間がかかるよ、上るのも」
今度は昇降機で上りまくる。
1フロアずつしか上ることができなかった。
「空洞よりマシだと思うんだけど?」
「そうだけど、面倒じゃない?」
「でも、急げるんですよ、これでも」
そして、30分かかった。
やっと入り口に戻ってきた3人は残り期限が少ないことから、九番機に乗って、直接ベアルトリスへと向かうことにした。
「九、三と乗り継いで、ベアルトリスへ行くわ!」
「でも、カウントストップが歌える御子を探さなくていいの?」
「ええ。絶対にこの危機にはみんな集まるはずだから、探す必要もないと思うの」
「・・・そこまでいうのなら分かったわ・・・」
ベアルトリスへ直接向かおうしていた理子と紀実に対して楓葉はこう言った。
「・・・すみません。わたしは一旦クローレンに戻ります」
「どうして?」
「きっと、待っていると思うんです、あの子が・・・」
「あの子?」
紀実は敢えて行かせることにした。
彼女は理子を止めて、頷きで行くように言った。
それを受け止めた楓葉は一人で先に九番機に乗り込んだ。
「それじゃ、行ってきます!」
九番機は楓葉を乗せて昇っていった。
「大丈夫なの?」
「ん? あの子、わたしたちより上を行っているわよ?」
「な、何がよ?」
「うふふ。ひ・み・つ♪」
「な、何ですって!?」
紀実には分かっていた、楓葉は瑞穂のことをよく知っているのを・・・。
そして、2人は降りてきた九番機に乗って、カタパルトエッジへと向かった。
***
残り6日。
カーペントリオと優花に名づけられた機械は中央宮の土台を完成させようとしていた。
「誰か、カウントストップを歌って欲しいんだけど、今はないわよね?」
そこに、タイミングよく3班が帰ってきた。
「理子様、ちょうどよかったです」
名前を呼ばれた理子が言った。
「米斗、涼歌、朱禰、瑠梨・・・だけね」
理子は直感的にこの4人の中で、カウントストップを歌うことができそうな御子がいないことが見えた。
「瑞穂は?」
理子は、今ここにはいない瑞穂がどこにいるかを尋ねた。
聞かれた瑠梨は答えた。
「瑞穂はまだクローレンにいるのですが・・・?」
「え・・・?」
そんな間、楓葉は6番エリアを経由して、急いでクローレンへと向かっていた。。
「瑞穂、きっと待っているんだろうなぁ・・・」
楓葉はこう思った。
きっと、わたしを待っているんだろう、と。
クローレンに着くと、すぐさまに瑞穂を探した。
「みーずーほー!」
瑞穂を見つけた楓葉は、すぐに彼女の元へ駆け寄った。
「あ、楓葉・・・」
「本当に待っているとは思わなかったわよ・・・」
だが、瑞穂にリアクションはなかった。
それが気になった楓葉はこう聞いた。
「瑞穂、何かあったの?」
瑞穂は答えた。
「楓葉だけなの?」
「なっ・・・」
楓葉は言葉を詰まらせた。
「りこさまは?」
「瑞穂、あなたは残り6日だというのに、ずっと待っていたわけ?」
「うん、そうだけど?」
「理子様と紀実様はすでにベアルトリスに向かわれたわ」
「そう・・・なんだ・・・」
楓葉は期待外れな瑞穂に対して、怒りを感じた。
「瑞穂!」
「な、何!?」
すぐに本心を打ち明けた。
「わたしを・・・、わたしを待っているのかと思ったのに・・・、あなたって言う人は・・・っ!」
「楓葉・・・」
「約束したでしょ、まったく・・・」
「うん・・・」
瑞穂は、実は嘘をついていたのだが、あまりにも本当のことすぎて楓葉は泣き出してしまっていた。
それを見た瑞穂は彼女に嘘だと伝えて、ドラゴンフライに乗せた。
「さてと、わたしたちも急いで行こうか!」
「うん、そうだね」
そして、2人はドラゴンフライをベアルトリスへと向けた。
***
カウントストップが歌えるのは瑞穂だという期待を持ったまま、中央宮建設の計画は止まっていた。
そんな状況を知らない瑞穂と楓葉はベアルトリスへと戻ってきた。
「瑞穂! 何をしていたのよ!?」
理子が駆け寄ってきた。
「あ、あれ・・・?」
瑞穂は中央宮がまだできていないことに気が付いた。
「み、瑞穂さん・・・、これ・・・」
瑠梨から、カウントストップを突然渡された瑞穂は訳が分からなくなっていた。
「これが、カウントストップ? でも、なんでわたしに?」
瑞穂はそれを受け取った途端、不思議なものを見たかのように驚いた。
「あ、あれ? 何か、文字が・・・」
驚いている瑞穂に、紀実は落ち着くように声を掛けた。
「瑞穂さん。書かれていることが歌の歌詞だよ」
「そ、そうなんだ・・・」
瑞穂に落ち着きが戻ったものの、そこに優花が割り込んだ。
「早くしなさいよね! 早くしないと、本当に大陸が落ちるわよ?」
「わ、分かりましたっ!」
瑞穂は不思議な力を感じたまま、その場でカウントストップに書かれた詩を歌った。
「・・・カウントストップに刻まれし詩、次元の止史曲、歌いますっ!」
そう言い始めた瑞穂は、カウントストップに刻まれた歌詞を歌った。
すると、ベアルトリス、いや、塔が揺れ始めた。
「ちょっと、瑞穂!」
しかし、どこかが崩れるといった被害がなかった。
よほど弱い揺れなのか、それとも・・・?
「詩の影響ですよ。理子様」
「そう、なんだ・・・」
瑞穂が詩を歌い続けることによって、徐々に塔の揺れが収まってきた。
「塔が、塔の機能が止まっているのね・・・」
詩が終わると、辺りはとても静かになった。
「終わったのね、詩が・・・」
「はい」
安心したのか、瑞穂はその場に倒れこんだ。
そして、それを受け止めたのは楓葉だった。
「・・・おやすみ、瑞穂」
詩が終わって、辺りがとても静かの中、真之介がやってきた。
「使ったのか、あれを・・・」
どうやら、真之介はカウントストップのことを知っていたようだ。
「お父様!?」
理子が無事なのを確認し、周辺を見回した。
そして彼は、楓葉の傍らで眠っている瑞穂を見てこう言った。
「・・・歌ったのは瑞穂なのか?」
理子は答えた。
「そうです、お父様」
すると、真之介は瑞穂の所へ駆け寄った。
楓葉は、彼が慌てているように見えた。
そして、その疑問を持ちつつ、こう尋ねた。
「どうかなされましたか?」
彼はこう言った。
「どうして歌わせたのかは分かる。だが、カウントストップは塔の機能を停止させる代わりに歌った御子の魂が塔の中へと吸い込まれるんだぞ!」
それを聞いて、一番驚いたのは楓葉だった。
「えっ!? そんな・・・」
「私は本当のことを言っているのだ」
そう言って、彼はクローレンの御子である優花を探した。
「クローレンの御子よ」
「何でしょうか、一条家の当主様」
「そなたは、カウントストップのことを知らなかったというのかね?」
「ま、まさか、こうなるだなんて思っていませんでした・・・」
それを聞いた真之介は激怒した。
「あのな・・・、クローレン大図書館の資料にあったはずだぞ。分からなかったのか?」
「い、いえ・・・。一応わたくしはこれでも大図書館の本全てには目を通してあります」
それでも、カウントストップについては、塔の機能を一時停止させる緊急用の音譜だとしか書かれていなかったそうだ。
「何故だ・・・。なぜ隠すのだ・・・」
どうして真之介がカウントストップのことについて知っているのかは分からなかったが、彼は瑞穂を救い出す方法を教えてくれた。
「2日だ。2日以内に『月詠みの丘』に瑞穂を連れて行って、そこで塔の起動用のカウントストップに書かれた詩を歌うんだ」
今のカウントストップの使用目的は、安全に中央宮に塔のエネルギーを送って、塔と大陸のエネルギーの供給を行わせるためにある。
しかし、瑞穂を救うためにカウントストップを歌うとなると、中央宮はいつでも建て直すことはできるのだが、塔と大陸のエネルギー供給がうまくできなくなるのかもしれないのだ。
理子は考えた。
「優花!」
「あ、はい」
「2日以内に中央宮を建て直せる?」
「・・・すみませんが、わたしの見込みだと、丸5日はかかります」
それを聞いた理子は絶望した。
「難しい・・・のね。瑞穂も助けたいのに・・・」
そんな理子に、すぐさまに優花がある提案をした。
「元のエネルギー共有ができる状態にはならないのかもしれませんが、一つだけ手があります」
「・・・何なの? 言ってみなさい!」
「2日後にカウントストップで塔を起動してください」
優花は、カウントストップの機能によって、魂が塔と融合しかけている瑞穂を救い出せるリミットギリギリまで粘ることによって、カウントストップによって止められたリミットを最大限に引き伸ばそうというのだ。
「・・・分かったわ。でも、足並みはそろえたいものね・・・?」
「いえ、必要ありません。2日過ぎないように瑞穂を助けてやってくれない?」
「でも、それだと・・・」
「あたしを誰だと思っているのですか? どんなことが起きたって、対処してやりますよ!」
「そ、そう・・・」
理子は、優花の自信に期待することにした。
***
あとは、瑞穂を『月詠みの丘』まで連れて行って、塔の起動用のカウントストップに書かれた詩を歌うだけなのだが・・・。
実は瑞穂以外に誰が歌えるのかが分からなかった。
「わたしが行く!」
楓葉は行くと言って、諦めることはなかった。
「理子。わたしも行くね?」
紀実も同行すると言い出した。
「構わないわよ、楓葉がいいというのならね?」
そう言って、理子は楓葉を見た。
視線に気づいた楓葉はこう言った。
「あ、はい?」
話は聞いていなかったようだ。
「楓葉。行きたかったら行っていいよ。でもね、わたしもついていくからね?」
「分かりました、紀実様」
そして、楓葉は瑞穂を抱えて、紀実と共に月詠みの丘に向かって行った。
「さてと・・・、こっちはさっさと始めさせてもらうわね?」
落ち着いたところで、優花が作業を始めた。
「ええ。始めていいわよ」
理子はそれを承諾して、現状を見守った。
「科鈴。さっさと始めるわよ!」
ぼーっとしていた科鈴は優花に声を掛けられて驚いた。
「あ、は、はいっ!」
そして2人はカーペントリオに乗り込んだ。
***
楓葉は伍番機に乗って、不思議なことを思っていた。
それは、彼女自身にも分からないことだった。
「紀実様・・・」
ふと、紀実に声を掛けてしまった。
「ん、何?」
楓葉は何も考えずにこう言った。
「わたしが、女の子のことを好きでいたらどうしますか?」
「えっ・・・。う、ううん・・・」
「ご、ごめんなさい! わたし、何言ってるんだろう・・・」
一時は困惑した紀実だったが、考えた末にこう答えた。
「い、いいかな、別に・・・。あ、あのね、楓葉がそれでもいいのなら・・・いいんだけどね・・・」
「そう、ですか・・・」
彼女はまた、何も考えずにこう続けた。
「瑞穂って、女の子だよね?」
「そうだね」
「わたし・・・、瑞穂のこと、好きなんだ!」
「あ、あらあら・・・」
楓葉の暴露に驚く紀実。
しかし、紀実はそれについて問う。
「わたしを守ってくれているからかな。わたしも楓葉をちゃんと守ってあげたい・・・」
「はい?」
「楓葉はどうして、瑞穂のことが好きなのかな?」
「瑞穂はこれでも、わたしのことを守ってくれているんですよ・・・?」
「楓葉?」
楓葉は瑞穂との秘密は話さなかったが、好きだということだけは話した。
「・・・人それぞれだね。でも、何か隠していない?」
「い、いえ。そんなことはありませんよ」
「そう・・・。でも、いずれは分かりそうね?」
「ちょ、ちょっと・・・。わたしは・・・っ」
紀実は突然、楓葉を胸に寄せた。
「あ、あの・・・」
困惑する楓葉。
それに対して、彼女はこう言った。
「何も言わなくたって、隠したって、わたしには分かっちゃいますよ」
「紀実様・・・」
そして、楓葉は話し出した。
「瑞穂は・・・、男なんだって・・・」
「あらあら・・・」
楓葉は約束を破ってしまったことを後悔した。
「(ごめんっ、瑞穂!)」
楓葉は瑞穂の服を脱がせて、証拠を見せた。
「・・・本当みたいね」
紀実は意外に興味を持った。
それに気づいたのか、楓葉は紀実を止めた。
「だめぇ!」
「あ・・・、ごめん」
そして、伍番機はベアトリスへと着いた。
「行きましょうか・・・」
「ええ・・・」
楓葉は脱がした瑞穂の服を元通りにして瑞穂を抱えた。
そして、彼女は月詠みの丘で瑞穂のために詩を歌うのであった。
これは次の話に回すとしよう・・・。
***
優花が予想していた通り、中央宮の完成に要した日数は5日だった。
しかも、優花と科鈴は休まずにカーペントリオを操作していた。
「ついに・・・、ついに、できたわっ!」
「お疲れ様。優花、科鈴」
「ええ。あとは任せたわ・・・」
「あとは約束の地でマグナ・カルタを歌うだけですね・・・」
そう言って、優花と科鈴の2人はその場で座り込んだ。
「ええ。2人の分まで頑張るから・・・」
「いえ、あたしはただ、こういうのが好きだっただけだからよ」
「ふふっ。理子様、わたしたちに気を遣う必要はありません。さあ、すぐに行ってください!」
「・・・分かったわ」
そして、理子たちはすぐに中央宮に入っていった。
だが、このマグナ・カルタがこの世界を終わりに導くことは、誰もが知る由もなかった・・・。