空に浮かびし死世界

「――ここは、どこなんだ?」
誰かがそう言った。
しかし、その問いかけに答えるものはいなかった。
「――俺、いや、私は誰なんだ?」
辺りは静かだった。いや、何もなかった。
――そう、この世界は一つの思いによってできている。
今わからなくても、いずれは分かるだろう・・・。

***

大陸をひたすら捜索している6人の前に、ある小さな集落が見えた。
「集落?」
辺りが木ばっかりだった所から急に出てきたので、理子は少し驚いていた。
「うわーい! ご飯食べられる場所をさがそー!」
そう言って瑞穂は、一目散にお店を探した。
「ちょっと、待ちなさい!」
と理子が言った時には、既に瑞穂はいなかった。
「まったく、あの子は・・・」
「わたしが追ってきます」
そう言って、楓葉が瑞穂追跡を名乗り出た。
そして、すぐに後を追った。
「理子。今日はもう休んでいきましょう?」
「え? わたしは大丈夫よ?」
「多分、ちゃんと休めるのはこの集落だけだと思うから、今まで休めていなかった分をここで・・・と思ったんだけど?」
「・・・分かったわ」
こうして、近くにあった宿屋で一夜を過ごすことにしたのであった。

翌日。6人はこれからの行動を決めることにした。
理子が言った。
「・・・どこもかしこも森だと、つまらないものですわね」
優花が言った。
「確かに言えてるわ・・・。このまま森だけだとつまらないわ」
「じゃ、じゃあ、総統が言っていたところに行きませんか?」
「無茶言わないでよ!? 誰も入れないし、ここからだと遠いわよ」
「でも・・・」
しかし、森を捜索するしかなかった。
そもそも、6人がこの大陸にいる目的は、米斗と涼歌を救い出す方法を見つけ出すためである。
しかし、それが何なのかはまだ分かっていなかった。
その時である・・・。
「そ、外で・・・」
いつの間にか話し合いを抜け出していた瑞穂が外で何かを見つけたらしい。
「何を見つけたの?」
理子がそう言うと、彼女はこう答えた。
「何かの鍵みたいなんだけど・・・?」
瑞穂は理子にそれを渡した。
「・・・本当に鍵、ね」
誰にも使う目的が分からなかった鍵は、すぐに理子の服に納められた。
「とにかく、来た道を引き返さずに例の建物に向けて出発しましょうか・・・」
全員がそれに賛同し、例の建物に向けて出発することにした。

***

「どう、この世界の住み心地は?」
一人の少女がこっちに話しかけてきた。
「住み心地? 何もないのに、いいとも悪いとも言えない・・・」
「そうだよね・・・。でも、『鍵』は渡されたよ?」
「鍵?」
彼女は何かを知っているようだった。いや、知っているんだ・・・。
「わたしと一緒に、この世界を護ってくれる?」
彼女の突拍子のない一言に、彼は訳も分からず、『YES』と答えるしかなかった。
そして、同時に彼自身が思い出そうとしていたことまでも思い出した。
「ああ。それに、・・・だったんだ・・・」
何かを言いかけたのは確かだった。
でも、それが何故か言えていないことになっていた。
しかし、彼女には何を言ったのかが分かっていた。
「うん。そうです、わたしです・・・」
そう少女が言った時には、彼の姿はなかった。
「――試練が始まる。邪魔となる存在に対する試練をね・・・」
彼女はどこかへ向かうかのように消えた。

***

理子たち6人は、集落から北に出て、2,3時間歩いていた。
「森ばっかりだね・・・」
瑞穂はいい加減飽きたようだ。
それをなんとかしようとする楓葉が、瑞穂のそばにいる。
「も、もうすぐ、あたらしい集落とかがあるんじゃないの?」
それに対して、瑞穂は「そうなの?」で返した時だった。
「ここは・・・?」
突然、森が切り開かれたような感じになって、広い場所に出た。
そこで、一人の少女を見つけた。
「あ、あなたはまさか・・・!?」
6人には見覚えがあった。そう、少女は・・・。
「涼歌!?」
「ええ、そうね・・・。わたしは『一応』涼歌って呼ばれている存在ですね」
6人は『一応』という言葉に引っかかりを感じた。
「『一応』って、どういうことなの?」
優花が涼歌に問う。
彼女はすぐに答えた。
「わたしは涼歌が作り上げた存在。でも、わたしは涼歌であって、涼歌ではないのです・・・」
「それなら、何だと言うのよ?」
「別になんだっていいです。むしろ、今のわたしを涼歌だと思ってもらっても構いません」
訳が分からなかったが、とにかく、涼歌であることは間違いはなかった。
「涼歌様が見つかったのはいいけど、身体ってたしか、一条宮にありましたよね・・・?」
「言われてみれば、確かにそうね・・・」
ここで、何の前触れもなく、涼歌がこう言った。
「『試練の鍵』をわたしにください・・・」
「試練の鍵?」
「多分、瑞穂が拾ったやつだと思う」
「そうね・・・」
理子は服を探って鍵を取り出した。
そして、それを涼歌に渡した。
渡した途端、彼女はこう言い出した。
「この鍵をわたしの鍵穴に・・・」
「な、なんて子なの!?」
理子は勘違いしていることに他のみんなは気づいた。
「理子・・・、ちょっと落ち着いて・・・」
理子の動揺に、涼歌は首をかしげた。
「ここのことなのですが・・・」
紀実は彼女の胸の上辺りに鍵穴のようなものがあるのを確認した。
「あ、あら、そんなところに・・・」
理子は落ち着きを取り戻した。
「理子。わたしがこの役目を受け持つから・・・」
紀実はそう言って、理子から鍵を取り上げた。
「ここにこうして・・・」
紀実は鍵穴に鍵を差して鍵を回した。
すると、森だった辺りは元々暗かったのがさらに暗くなった。
「この暗闇の中、一番奥にいるとても強い魔物を倒してください・・・」
何の目的かは分からなかったが、瑞穂がある疑問を持った。
「涼歌様じゃ倒せないの?」
「無理でした・・・。だから、代わりに倒してください・・・」
そして彼女は、それっきりで倒して来いということしか言わなくなった。
「しょうがないわね。どんな魔物かは分からないけど、倒しにいきましょう・・・」
「でも、真っ暗だわ。みんな、一緒に歩きましょう。はぐれないようにね!」
紀実はとても気を利かせてくれた。

辺りが完全に暗くなり、近くに人がいるのかも分からなくなってしまった。
「理子様、紀実様、優花様、科鈴、瑞穂!」
6人がそれぞれで呼びかけてみるが、聞こえていないようだ。
「な、なんか、変よね・・・」
声を掻き消す暗闇は、皆に不安をよぎらせる。
「何よ・・・。こんなのは初めてじゃないような気がするわね」
優花はこの状況を、過去の経験にあったように感じた。
6人が不安の中、全員とにかく先へ進むことにした。
「・・・きゃぁっ!? なんか、急に冷たい風が後ろから・・・。って、驚きすぎかな・・・」
その時に、楓葉は声を聞いた。
『進めざるは光の道。ここは主の闇の心が在りし場所』
「な、何!?」
すると、楓葉の目の前に、ある影が見えた。
「この世界は涼歌の世界。今の彼女は君たちを追い出そうとしているのだ・・・」
「それが、何だって言うのですか!」
「このまま進んでも魔物はいない。だから引き返せ。引き返せば生き延びることができよう。しかし、このまま進むのであれば、この永遠の闇に包まれて死の道に歩むであろう・・・」
男はそう言って、脅しているように感じた。
しかし、楓葉は微動だにもしなかった。
「引き返せと? わたしたちは、この先を進まなければいけない気がするんです。だから、ここで引き返せば、絶対にその何かが見えなくなると思うんです!」
「・・・そうか」
彼はそう言って、楓葉に腕輪を渡した。
「・・・何ですか、これ?」
「紅の御子の腕輪だ」
「待って。わたしはそんなんじゃ・・・」
「分かっているんだ。でも、紅の御子が・・・、紅の御子の末裔が・・・、どこにいるのかが分からないのだ・・・」
すると、影の彼はだんだん消えようとしていた。
「・・・時間か・・・。蒼の御子の剣よ、紅の御子に・・・頼んだ・・・」
「待ってください!?」
だが、思ったより消えるのが早かった。
楓葉は、渡された腕輪を見てこう言った。
「紅の御子の腕輪・・・。あの人、何かを知っているようだったけど、わたしも不思議と紅の御子が誰なのかを知っていたような気がする・・・」
楓葉は進む決心のまま、先へ進んだ。
「きっと、この腕輪が護ってくれるよね・・・?」
楓葉は自分の主である紀実よりも、腕輪を渡さなければならない使命から、理子を想いつづけていた。
すると、楓葉が理子を想っていたせいか、腕輪が突然光りだした。
それに気づいた楓葉は、なんとなく腕輪を上に掲げてみた。
「(この世界が明るくなればいいのに・・・)」
腕輪を上に掲げると、青い空が広がった。
そして、辺りに木々が見え始めた。そう、元の森に戻ったのだ。
「やった! これで、安心して先に進めるよ」
そして、楓葉は辺りに人がいないことに気づき、皆との合流を図った。

***

辺りに森が見え始めた頃、散り散りになっていた皆は無事に合流できた。
「みんな、無事だったんだね・・・」
紀実が一番心配していたようだ。
「ええ。いつの間にかばらばらにされちゃっていたけど、誰かが明るくしてくれたおかげで安心して歩けたわ」
「全くだわ・・・。いつの間にかこの森から別の空間に飛ばされていたとは思わなかったわよ!」
優花は過去に、家に長い間閉じ込められた経験があり、彼女自身はそれを家じゃないどこかの場所だと思い込んでいたらしい。
「ちょっと、怖かったかも・・・」
「怖かったよね・・・。で、楓葉は?」
突然振られた楓葉は少し慌てた。
「え、わたしですか? わたしは・・・」
彼女は考えながら、男からもらった腕輪を理子へ渡しに行った。
「この腕輪がここに戻してくれたって言えばいいのかな・・・、なんてね」
腕輪を受け取った理子はこう言った。
「これって、一体?」
「紅の御子の腕輪だそうです。わたしの目に現れた人が理子様にと・・・」
楓葉はついでに、声を聞かなかったかと訊ねた。
だが、他の御子には声も聞こえなかったし、男の影も見なかったという。
「・・・そうですか」
「心の隙を狙った幻覚や幻聴ではないの?」
紀実がそう聞いたのだが、楓葉は幻覚であれば腕輪は受け取っていないはずだと言った。
「そう、よね・・・」
紀実はそれで納得した。
「まぁ、いいわ・・・。これをくれた人なら、助けてくれる人だと思うから・・・」
理子はとにかく、森の奥にいる魔物を倒すように言った。
「これで、どれだけ散らばっても大丈夫だと思うから、いくつかの組になって探していきましょう!」
「はいっ!」
そして、無事に目標を達成したのは言うまでもなかったのであった。