無様世界 その1

「鍵によって扉は開かれた。しかし、この世界の本当の姿を知らない人たちが、何も知らずに扉を開けていく・・・」
試練を突破した理子たちに対して、彼女はそう言った。
「次々と開けていく者たちは、わたしを知ろうとするものなのか? それとも、わたしを利用しようとするものなのか?」
彼女はこの大陸の意味を知る者。彼女はこの大陸の全てとも言ってもいい。
「・・・一緒に護ろうって言ってくれたよね?」
彼女はどこかにいる誰かに言った。
「その言葉に俺は『はい』と答えた」
「それなのに、どうしてわたしの邪魔をしたの?」
「邪魔?」
その時を指しているのは、

――楓葉は声を聞いた。
『進めざるは光の道。ここは主の闇の心が在りし場所』
「な、何!?」
すると、楓葉の目の前に、ある影が見えた。
「この世界は涼歌の世界。今の彼女は君たちを追い出そうとしているのだ・・・」
「それが、何だって言うのですか!」
「このまま進んでも魔物はいない。だから引き返せ。引き返せば生き延びることができよう。しかし、このまま進むのであれば、この永遠の闇に包まれて死の道に歩むであろう・・・」
男はそう言って、脅しているように感じた。
しかし、楓葉は微動だにもしなかった。
「引き返せと? わたしたちは、この先を進まなければいけない気がするんです。だから、ここで引き返せば、絶対にその何かが見えなくなると思うんです!」
「・・・そうか」
彼はそう言って、楓葉に腕輪を渡した。
「・・・何ですか、これ?」
「紅の御子の腕輪だ」
「待って。わたしはそんなんじゃ・・・」
「分かっているんだ。でも、紅の御子が・・・、紅の御子の末裔が・・・、どこにいるのかが分からないのだ・・・」
すると、影の彼はだんだん消えようとしていた。
「・・・時間か・・・。蒼の御子の剣よ、紅の御子に・・・頼んだ・・・」
「待ってください!?」
だが、思ったより消えるのが早かった。
楓葉は、渡された腕輪を見てこう言った。
「紅の御子の腕輪・・・。あの人、何かを知っているようだったけど、わたしも不思議と紅の御子が誰なのかを知っていたような気がする・・・」
楓葉は進む決心のまま、先へ進んだ。
「きっと、この腕輪が護ってくれるよね・・・?」
楓葉は自分の主である紀実よりも、腕輪を渡さなければならない使命から、理子を想いつづけていた。
すると、楓葉が理子を想っていたせいか、腕輪が突然光りだした。
それに気づいた楓葉は、なんとなく腕輪を上に掲げてみた。
「(この世界が明るくなればいいのに・・・)」
腕輪を上に掲げると、青い空が広がった――。

となっているところだ。
彼は言った。
「君の悲しみが全てを封じた。彼女たちの全てを・・・」
「黙って! あなたはわたしを護っているだけでいいの!」
彼女は彼をただの言いなりにしようとしていた。
そして、そのために彼女は、彼にあることを言い出した。
「ねぇ、いいことを教えてあげる」
「・・・?」
そして、彼女はこう言った。
「わたしは大陸。そして、『涼歌』という名の個体。あなたも大陸だけど、わたしじゃない。そして、『米斗』という名の個体」
「・・・薄々気づいていた」
「えっ?」
彼は言った。
「ここに来た時には何もかも忘れていたと思っていた。でも、涼歌の顔を思い出したら、全てを思い出せたんだ」
「わたしのことをまだ『涼歌』と呼ぶ者がいたか・・・」
「そう・・・、ここは『涼歌』なのだな・・・」
涼歌は全てを思い出した米斗を脅威に感じた。
「・・・出て行って。あなたに『米斗』を返すから・・・」
「ま、待ってくれ! そうしたら、涼歌は?」
「わたしはいいの。この世界を、この新しい大陸を一人でも育ててみようと思ったから」
「涼歌!?」
彼女はもう、過去の涼歌ではなくなっていた。
だが、この時、彼女の性格に微妙なブレを感じた。
「・・・どうしても、わたしに会いたくなったら、『涼歌』を見守っていて・・・。そうしてくれると、安心できるかも」
「・・・」
「あと、わたしがわたしじゃなくなったら、『涼歌』に声をかけてあげて」
「・・・何がなんだか分からない」
彼の訳の分からないまま話が進んだ。
だが、今の『彼女』は彼が知っている『彼女』だった。
「できれば、三条宮の『唄を歌う部屋』がいいな・・・」
「何を言っているんだ!?」
「早くして!今ならあなたは逃げることができるの。あなたを大陸に巻き込みたくはないから・・・」
彼女は察知していた、彼さえ無事であれば自分を救えるであろうと。
米斗は涼歌の願いを受け入れた。
「・・・」
彼は頷いた。
「ありがとう。これが一生で一番大きなお願いかな・・・」
彼女はそう言って、米斗をどこかに飛ばした。
「(あとは、わたしでなんとかする。だから、米斗には見守って欲しいの、帰ってきて変わったわたしの姿を・・・)」
その後、今の涼歌を見た者は誰もいなかった。
いや、見たとしても、それは涼歌ではない、全く別のものであった。