心無き心

大陸を歩いていた理子たちは、広い森を歩いて高く聳え立つ塔にたどり着くことにできた。
「ついに、やってきたわね・・・」
彼女らは涼歌の試練を受けてから、一度も集落に戻らなかった。
そのせいか、しっかりとした休息を取ってなく、疲れがちゃんと取れていなかった。
「そうだね」
見えた塔に向かって森を歩き続けてきたため、ろくな調査ができていなかった。
だが、総統を追ってみることを目的にしていたので、何かがあるとつかんだのであった。
「ここに総統がいるのですか?」
「さあね。どうやら、扉が閉じられているし・・・」
そう言って、優花は扉に近づこうとした。
すると、見えない壁があるかのように、彼女はそれにぶつかった。
「痛ったぁ・・・。もう、なんなのよ・・・!」
優花はひたすら見えない壁を叩いた。
だが、それはびくともしなかった。
「これじゃ、何やっても無理ね・・・」
優花はそう言いながらも、壁について調べてみた。
それを見た科鈴はこう提案した。
「あれは優花が何とかしてくれるかもしれません。そこで、今はしっかりと休みませんか?」
それを聞いた皆は、
「そうね・・・」
「森はジメジメしてて気持ち悪かったから、寝られなかったよ」
「そうだね。休める時に休んでおこう・・・」
といった感じでしっかり休息を取ることにした。

***

その夜――。
「ったく、なんであたしがこんなことをやっているのかしら・・・」
そうぶつぶつ言っている優花だったが、彼女は今のこれを嫌だとは思ってはいなかった。
「優花・・・」
いつの間にか、優花の後ろに科鈴が立っていた。
それに気づいた優花はこう言った。
「何・・・? というか、少しぐらい手伝うっていう気が出ないわけ?」
「い、いや・・・。そういうわけじゃなかったんだけど・・・」
「なら、どんなに叩いても、どんなに穴を開けようとしても、ダメな場合はどうする?」
少しでも気があるのなら手伝え。
優花から、そんな感じがした。
「爆弾とか、剣とか・・・?」
「爆弾、剣・・・。剣はダメだと思うけど、爆弾ならちょうど試してみたいものがここにあるわ・・・」
そう言って、優花は小さなカプセルみたいなのを取り出した。
むしろ例えて言えば、カメラのフィルムケースに得体の知れない(といえばひどいが)液体が入っている物だ。
「それが、そうなのですか?」
「ええ。衝撃を与えれば、ドッカンよ!」
「・・・」
科鈴は何となく心配になった。
「何よ、黙り込んじゃって?」
「う、ううん、そんなことないからさ・・・」
彼女の言葉に少々疑問を持ったが、いつものことで気にせずにいた。
そして、優花は見えない壁に爆弾を投げつけた。
爆弾は見えない壁にぶつかって爆発した。
だが、大きな爆音と共に出た煙が晴れた時にとんでもないことが起きた。
「す、すごい・・・」
「フフッ、成功だわ・・・。これなら大丈夫で・・・しょ?」
優花は何かに激突した。
「ちょ、ちょっと・・・」
「壊れていないの?」
「そんな・・・、あたしの爆弾の火力が足りなかったわけ?」
「それはないんじゃないのかな〜?」
その後も結局壁が壊せないまま、夜が明けていった。

***

何を持ってしても壊れることのなかった見えない壁に、6人はどうすればいいのかを再び考えていた。
「普通に壊せない以上、きっと解除するためには何かをする必要があるんじゃないのかと思う」
理子がそう言うと、優花はふてくされながらこう言った。
「それしかないでしょ? あたしが何をやってもだめだったんだし・・・」
理子たちが困っているのを聞いたのかのように、一人の少女が彼女らに近寄ってきた。
彼女に気が付いた理子は驚きを隠せなかった。
「す、涼歌!?」
それを聞いた他の5人も彼女を見た。
「あらあらぁ・・・」
「本当に涼歌様なのですか?」
彼女はこう答えた。
「いいえ。本物のわたしはこの塔の中にいるわよ」
そして彼女はこう付け加えた。
「一生懸命塔に入ろうとしているようだけど、あなたたちは絶対には入れないわよ?」
「どうして?」
楓葉が質問し、涼歌がこう答えた。
「簡単なこと。わたしが望むものしか入ることができないから」
「望むもの? ということは、あたしたちは望まれていないわけ?」
「ええ、もちろん」
「ふーん・・・。そう・・・」
優花は納得した。
そして、涼歌がこう言った。
「どうしても通りたいの? まぁ、通してあげないことはないんだけどね・・・」
すると、彼女は理子の目の前に瞬間移動した。
「な・・・っ!?」
「あなたが米斗の自由を縛りつけていた人ね?」
「どういうことよ?」
「そう・・・、分からないんだ? 分からないほど米斗に自由を与えなかったのね・・・」
急に何を言っているのか、と理子は思った。
「何ですって? わたしは本当にそんなことをしていませんわよ!」
「幼い頃からずっと一緒にいて、それなのにわたしより米斗の気持ちが分からないんだ?」
「そ、そんなことはないわよ!」
「そうかな? 理子が米斗のこと好きだっていうの、わたしには分かったよ。でもね、あなたのその性格のせいでわたしを選んだんだよ?」
それを聞いて、理子が黙っているわけがなかった。
「よ、よくもまぁ、みんなの前で言ってくれたわね!! あなた、これからどうなってもいい覚悟をしてなさいよ?」
「あ、性格の問題じゃなかったわ・・・」
「そういうことじゃないわよ!」
理子は携えていた剣を鞘から抜いて、涼歌に斬りかかろうとした。
「ちょっと、理子!?」
「りこさまぁ〜!」
それに気づいた紀実と瑞穂が止めに入ろうとした。
だが、彼女はそれを退けた。
「理子! 落ち着いて!」
「そうですよぉ!」
「黙ってて! この子、よくも恥ずかしいことを公然で話してくれたわね〜!」
理子は涼歌に斬りかかったが、彼女の攻撃は一切当たらなかった。
「うぅ〜。許すものか、許すものか、許すものかぁぁ〜〜!」
理子にはもう涼歌しか見えなかった。
その時、涼歌は理子の背後についた。
「米斗はわたしだけのもの。あなたにまた想いがいっちゃうのは嫌だから・・・」
「な・・・」
そして、彼女はどこかに隠し持っていた剣で理子を貫いた。
「理子!」
「りこさま!」
突き刺さった剣が抜かれると、理子はその場に倒れた。
「本気か・・・」
死を予見した優花がそう言った。
「優花様。あなた様がそう思うのでしたら・・・」
「ええ、そうね・・・」
「やめなよ、優花・・・」
科鈴がギリギリのところで優花を止めた。
だが涼歌は、はっきりとこう言った。
「わたしは、どうすれば人が死ぬのかを知っています。だから、やろうと思えば全員殺せますよ」
「ふーん・・・。誰が死んだって?」
剣で貫かれたはずの理子が立ち上がった。
「な、何ですって!?」
「理子! 大丈夫なの?」
「りこさまっ!」
ふらつきながらも立ち続けている彼女を支えようと、紀実と瑞穂が手を差し伸べる。
だが、彼女は2人の手をつかもうとはしなかった。
「大丈夫。なんとか、急所は免れたようだからね・・・」
そんなはずはない、と涼歌は驚いていた。
「な、なんで・・・!?」
疑問に思う彼女に、理子はこう答えた。
「あなたにはないものを持っているから、っていう感じでしょうね・・・」
「そう・・・。『今の』わたしにもないもの、ね・・・」
理子はそうだと答えた。
それを聞いた涼歌は何かをし始めた。
それは怪しげにも見えたが、理子は止めに入ろうとした全員を止めた。
「待って・・・」
5人はそれに従った。
そして、少しすると、涼歌はこう言った。
「理子の言うことが分かった気がする。わたしにないもの。それで、本当のわたしに気づかせてあげてください・・・」
そう言って、涼歌は消えた。
「何かをしていたようだけど、どうなったの?」
調べてみると、見えない壁が消えていた。
「よし、入れそうね!」
「でも、理子は深い傷を負っているはず。このままで行けないわよ・・・」
「そうですっ! 剣であるわたしも行かせませんよっ!」
「わ、わかったから・・・ね・・・」
そう言いかけて、理子は疲れたかのようにそのまま倒れた。
「・・・まったく、相変わらず無茶をするんだから・・・」
紀実は他の4人と共に応急処置を始めた。
そして、それを終えて理子が気を取り戻したと同時に、既に塔の中へと入ろうとしていたのであった。