見守るもの、支えるもの
塔の最上階へとやってきた。
そこは辺りが真っ白で、何もないような幻覚を起こさせるような場所だった。
「みんな、いるよね?」
理子が他の御子に声を掛けた。
「ええ」
他からは様々な返事で返ってきた。
みんなを確認できたし、ちゃんといる。
「よし・・・」
その後、理子は目の先にあるものを見つけた。
そして、それを指差して、みんなに知らせた。
「あれは、何かしら?」
「行ってみましょうか・・・」
理子たちはそれに向かって歩いた。
そして、理子たちが近づくと・・・。
ゴー・・・。
と、こんなような機械音がし始めた。
「これって・・・?」
優花が興味を示し始めた。
「待って! むやみに近づかない方が・・・」
理子が止めようとしたが、優花は機械の方へ向かって行った。
そして優花が機械に近づくと、ある一瞬の出来事が起きた。
「わあっ!?」
「な、何?」
「う・・・っ」
優花を含め、近くにいた全員が吹き飛ばされていた。
「何か、強い力を感じました」
楓葉がそういうと、科鈴と瑞穂も同じように言った。
「確かに何かの力によってこうなりましたね」
「そーだよ。なんか、やっぱり、魔法って感じ?」
彼女らの話を聞いた優花はこう答えた。
「魔法・・・ね・・・。でも、あたしたちが使えるような感じのものではなかったわね」
それを聞いていたのか、どこからか分からないが、ある声が聞こえた。
「今受けたのは主の心の痛み。我が主の心に不要に入らないでいただきたい・・・」
「米斗!?」
米斗が出てきて、彼は『主の心』の前に立った。
彼だと皆が分かると、すぐに楓葉がこう言った。
「あの、あなたはあの時に助けてくれた・・・のよね?」
彼はこう答えた。
「あの森のことか・・・」
「そうだよ!」
「確かに助けたのかもしれない。だが、あれも主の意思だ」
「?」
楓葉は米斗が涼歌の意思で動いていたことに疑問を持った。
「あの・・・。あなたには意思がないのですか?」
そして、彼はこう答えた。
「そのようなもの、この世界には必要ない・・・」
そう言うと、彼は剣を御子たちに差し向けた。
「やる気・・・ですか・・・」
楓葉、科鈴、瑞穂の3人も構えを行った。
だが、それを止める人が現れた。
「やめるんだ!」
奥の方から誰かがやってきた。
「あ、あなたは・・・!?」
「米斗!」
もう一人現れた。が、今度の彼は何かが違うようだった。
「あなた、どういうことなの?」
「どうもこうもって、そいつは俺じゃないんだ」
「へ?」
6人は困惑した。
「ちょっと、ねぇ・・・」
「どういうこと? あなたも米斗で、コイツも米斗じゃないの?」
「心の対立・・・?」
そんな彼女らに彼はこう答えた。
「そいつは涼歌が作り出している幻だ。それに、俺は涼歌によって助け出されたんだ」
「一体どういうこと?」
「言った通りのことです」
そう言うと米斗は、幻影を討った。
そしてその後、誰かが現れた。
「戻ってきたんだね?」
今度は涼歌の姿をした人だった。
「まったく、何人も偽者を作り出して・・・」
「あ、あの・・・」
他の6人は全く話についていけれていなかった。
「よくも、ここまで涼歌の心をもてあそんでくれたものですね」
だが、米斗はそれに気づいていなかった。
そこで、理子が怒ってこう言った。
「米斗! あなた、この状況をどういうことか話してもらえるかしら?」
「す、すみませんでした・・・」
米斗は理子たちにこれまでのことを詳しく話した。
「なるほど・・・」
「それで、あそこに見えるやつに涼歌の命が眠っているのです」
「でも、不思議なものよね・・・。だって、塔に意識を取り込まれたのに、どうしてこんな大陸が出来上がるのかしら?」
「多分、塔のエネルギーを汲み上げて構築させるように詩ができていたのかもしれないわ」
「そうなのね・・・」
そして7人は、目の前の状況をどうしようか考えた。
「涼歌。もう終わりにしよう? これ以上他のみんなに、自分の心を押し付けるのはやめよ?」
だが、彼女はやめようとはしなかった。
「米斗・・・。あなたがそう言うなんて、信じられないよ・・・」
そこで、米斗は説得を始めた。
「涼歌が犯してきた罪…、涼歌が悩んできたこと…、俺はそんなお前でも全てを受け入れられる。だから、ここにいるんだ!」
「米斗・・・」
「さあ、こっちに・・・」
だが、2人の間を割り込んだものがいた。
「きゃっ!?」
「なっ!?」
そして、その者はこう言った。
「ここが、我ら神に逆らいし者たち人間が創り出したものか・・・」
「あ、あなたは誰?」
「それに、今、『神』って・・・!」
彼女は言った。
「そう。わたしは世界の意思である『神』だ」
その時、米斗は涼歌が彼女に捕まっているのに気が付いた。
「待て・・・。神か何だろうか知らないが、涼歌をどうする気だ?」
「この者は涼歌というのか・・・。この者には裁きを受けてもらおうか」
「やめろ! この大陸は俺達が望んで創ったものじゃないんだ!」
「だが、地上に飽きたら今度は空か・・・。そして、その次は世界・・・。どんどん大きくなって、お前達がどんどん脅威を増やしていくのが分からんのか?」
彼女に対して、米斗はこう言った。
「そんなもの、知ったこっちゃない」
「・・・そうか・・・」
そう言うと彼女は、涼歌を連れて飛び去った。
そして、その際にこう言い残した。
「わたしの名は永久(とわ)を司る神ミーテネシア。大陸を望む人間共に最後のチャンスをやろう」
「何なんだ!?」
「この世界に聳え立つ塔の最上階まで登ってみせよ。それがお前達にできる唯一の抵抗だ」
そして、ミーテネシアは去って行ったのであった。
だが、まだ終わってはいなかった。
「だけど、まだ、ここに涼歌の魂が・・・」
米斗は回りながら浮かんでいる球体に手を触れた。
すると、球体から小さな光が出てきて、彼はそれを受け取った。
「小さい・・・。早く三条宮へ戻らないと・・・」
魂を受け取った米斗は、一足先に塔を去った。
「待って・・・!」
「ちょっと、待ちなさい!」
後を追おうとしたが、すぐに見失ってしまった。
「もう、何なのよ・・・」
「とっても必死だったわね」
「米斗ったら・・・」
塔の機能が止まったのか、突然大陸全体が落ちているような感じを6人は感じた。
「・・・ねえ、ヤバイと思うんだけど?」
「確かに、これは急がないと・・・」
「死の雲海に落ちるわね」
「何ですって!」
彼女らは急いで脱出しようとした。
だが、塔から出ると、通ってきた森や集落が既に消えていた。
「ど、どうするんですか!?」
「ドラゴンフライが・・・、無くなったの?」
6人は途方に暮れていた。
だが、向こうからあるものが飛んできた。
「あ、あれって!?」
「と、飛んでいたの?」
米斗がドラゴンフライを操作して、6人の元へやってきた。
「米斗・・・」
「さあ、早く乗らないと、死にますよ?」
「ええ!」
「でも、6人乗りだから、1人乗れないよ?」
そう言われると、米斗はドラゴンフライから下りた。
「ちょっと!?」
「あんたが死ぬ気なの? つまらない男ね・・・」
彼を心配する6人だったが、米斗は何にも動じずにいた。
「・・・行きましょう。米斗君には何か手があるんだと思うのよ」
「でも・・・」
「そもそも、どうやって米斗がここに来たのかが分からないわ・・・」
「安心してください。あ、涼歌は、俺が三条宮に移しておいたので。脱出できたら、そこでお会いしましょう」
そう言って彼は、強引に6人をドラゴンフライに乗せた。
「米斗、本当に大丈夫?」
「ええ。大丈夫です。後で追いかけます・・・、いえ、先に待ってますから」
落ちていく大陸に一人残していくのが心配だったが、彼は脱出を急かした。
そして、ドラゴンフライは空に飛び立った。
***
落ちていく大陸に一人で残る米斗。
「そろそろ、夢から醒めそうなのだが・・・」
米斗は死の雲海に落ちていく大陸でただただ時間が経つのを待っていた。
「本当はあの人たちに知られないまま戻りたかったのだが、ドラゴンフライという飛行機を何故か落としたくはなかったから、それを救ってしまった」
そして、夢から醒める時間がやってきた。
「ふぅ、なんとかこの大陸と心中せずにすむのか・・・。あとは、無事にこれを涼歌の所に戻すだけだな・・・」
そして、米斗は光と共に消えたのであった。
「(さようなら、だ・・・。ひと時でも涼歌の心を見せてくれた大陸よ・・・)」
***
大陸から脱出し、ひとまず一条宮付近にドラゴンフライを着陸させた6人。
そして、すぐに涼歌のいる三条宮へと向かおうとしていた。
「ふぅ・・・。何とか降りられましたね」
「ええ。でも、突然動力が壊れたから、ここに戻ってこられるか分からなかったわ」
「というか、ここより低い所にある下の大陸に降りていればよかったと思うんだけど?」
「そ、それもそうでしたね・・・」
動力が壊れ、動かなくなったドラゴンフライをひとまずそのままにし、徒歩で三条宮に向かうことにした。
三条宮に着くと、使いの者がすぐに涼歌のいる所へと案内してくれた。そこには米斗もいた。
「米斗! もう、あなたっていう人は・・・」
「す、すみません。そんなに心配かけさせていましたとは・・・」
「そうですよ! りこさまに心配をかけさせているのに平気な顔をするんだから・・・」
「あ、あはは・・・」
そして、話は涼歌の話に変わった。
「本当に大丈夫なの?」
「ええ。大丈夫なはずなのですが・・・」
だが、涼歌は眠っているかのように動かない。
「その・・・、魂とやらは大丈夫だったの?」
「ギリギリセーフっていうところです。何とか間に合いました」
「でも、目を覚ましていないんですね?」
「ええ・・・」
眠っている彼女は、6人には死んでいるようにも感じられたが、確かに生きているのであった。
一向に目を覚まさない涼歌を米斗に任せ、6人はこれからのことについて話した。
「さて、あの大陸でミーテネシアという神が言っていたことなのですが・・・」
「『大陸を望む人間共に最後のチャンスをやろう』・・・ですか」
「そうね。ここよりも遥か上にたどり着けるかどうかって・・・」
6人は少し考えた。
だが、当然答えは決まっていた。
「当然、塔の最上階へ行きますわよ!」
「りこさまも行くのでしたら、わたしも行きますぅ!」
それに続いて他の4人も行くと言い出した。
だが、三条宮へ瑠梨がやってきた。
「大変ですよ! ベアトリーチェで大勢の住民が反乱を起こしています!」
「な、何ですって!?」
「ベアトリーチェの住民だけではなく、様々な所から住民が押し寄せて、大陸創世がどうのこうのって・・・」
「う・・・っ。あの大陸のせいか・・・」
まずは、世界に平和を取り戻すため、理子と瑞穂はすぐさまベアトリーチェに向かうことにした。
反乱の状況を、瑠梨はこう言った。
「反乱はベアトリーチェが中心なのですが、他にもそれぞれの宮に人が押し寄せてきています。早く対処をしたほうがよろしいかと、と朱音さまが・・・」
「分かったわ。あの馬鹿共をなんとかしないといけないわけね・・・。面倒だけど、やってあげるわ」
「大変ね・・・。わたしたちも早くフォートレスに向かわないとね」
「はい。紀実様」
残った4人もそれぞれ統制下の街に戻った。
そして、瑠梨は米斗たちにも反乱のことを知らせた。
それを聞いた米斗はこう言った。
「そうか・・・。ありがとう、こっちはこっちで何とかしてみせるよ」
それを聞いた瑠梨はすぐに二条宮へと戻って行った。
残った米斗は眠っている涼歌にこう言った。
「涼歌、お前が一番望まないことがこれから起きるんだ。だが、涼歌さえいれば俺は何だってできる。何も心配しなくてもいいから・・・」
そして、米斗は三条宮の外に出た。
米斗が部屋を出た時に、彼は気づかなかったが、涼歌がかすかな声で『うん』と言ったような気がしたのであった・・・。
第4章 完