2 友として、パートナーとして

――明るくなると、わたしは家に帰った。
そして、わたしは昨日のことを謝った。
「・・・ごめん、わたしが・・・」
だけど、サイズの反応は違った。
「お前は、全てを捨てなければならない時に、すぐにそうできるのか?」
どういうことかは分からなかったけど、わたしはこう答えた。
「できるよ・・・」
「・・・そうか」
サイズはそう言うと、わたしの手元に来た。
「サイズ・・・?」
そして、サイズはこう言った。
「私は、お前の相棒だ。あいつとは、お前のやりたいようにやってみろ」
「え? でも・・・」
「私は、お前という存在に賭けてみようと思っただけだ」
「う、うん・・・」
・・・サイズが、わたしをちゃんと見てくれた。
そんなような気がした。
でも、気になることがあった。
「あのね、『お前という存在』って何なの?」
いつもだったらわたしの質問に答えてくれないのに、サイズは答えてくれるような口調でこう言った。
「『お前という存在』か・・・」
少しの間、辺りは静かになった。
そして、サイズは語り始めた・・・。

***
――お前ももう分かっているだろうけど、お前は既に死んでいるようだと思ったことはないか?
――うーん・・・。
――・・・ないのか。
私は、アスナを初めて見た時から、アスナに何かがあるような気がした。
――なら、気にすることもない。
ただ単に、お前がそういう奴だということだ。
本当の死刑執行人は、死刑執行人自身の罪を執行する存在なのだ。
だが、このことは我々執行具(クリーファー)のみが知っていることだ。
・・・我々とて、死刑執行人との仲を持ちたくはない訳ではないのだ。
そんなことをして、後々どんな風に大変なことになるのだろうか・・・。
何度も死刑執行人に死刑を執行してきたものか・・・。数知れないものだ。

――へぇ、サイズっていうんだ。
私がアスナの執行具として同行するように言われて、アスナに会いに行った時の彼女の第一声である。
言っておくが、私が最初にアスナに話しかけたのである。
――そうだ。今日から、お前と一緒に死刑執行人としての仕事をこなすことになった。
――死刑執行人?
む・・・、何故お前は死刑執行人のことを知らぬのだ?
私は、アスナは何も分からずにここへ来てしまったのだと思った。
だが、重要なことをアスナに伝えた。
まぁ、アスナがそれで分かってくれたのがよかったな。

――不思議な奴だ。何故お前は泣くのだ?
私は、毎回そう思った。
アスナは、死期が近い者たちを導いた後は、泣いてばかりだった。
だが、表情からして、彼女は泣き顔を私に見せないようにしているのが分かった。
だから、私はいくら彼女が泣く理由を問いても、一切答えなかった。

***

――サイズは、落ち着いた雰囲気で話してくれた。
でも、サイズはいつも落ち着いているけどね。
わたしは、サイズが話し終わると、何故かお礼を言っていた。
「・・・ありがとう。わたしに重要そうなことを教えてくれて」
「別に・・・、たまたま気が向いただけだ」
「あはは、そんなわけないでしょ」
わたしは、サイズは照れている(?)ように見えた。
「ばっ・・・、馬鹿か!」
サイズは、わたしにユウの所に行くように急かした。
そして、わたしはそれに従った。

***

――わたしとサイズがユウに会ってから、もう1年が経とうとしていた。
もう、1年経つのか・・・。
その間の出来事は、短くできるほどだが、彼の死期が近いうちに訪れることは事実だった。

――それは、この世界では、12月のある日のことだった。
わたしは、この時になってあることに気付いた。
「ユウは、どうして外に出ないの? 1年前のこの時期には、外に出ていたよね?」
わたしの問いに、彼はこう答えた。
「俺さ、外に出るとヤバいんだよね・・・。明日奈が死ぬ前までは大丈夫だったのに、明日奈が死んでからあの場所に行くと、とても苦しくなるんだ・・・」
そう言って、ユウは自分の胸に手を当てた。
多分、そこが痛くなる所なんだろう・・・。
そして、ユウはこう続けた。
「このことを、医者はショックによるものだろうって言ってたけど、俺は何か違うような気がするんだ・・・」
「じゃあ、何なの?」
「・・・分からない」
・・・彼によれば、明日奈は商店街へ続く交差点で事故に遭って亡くなったらしい。
しかも、彼自身の不注意によるものらしい。
「・・・」
「・・・」
わたしとユウは、お互いに黙り込んでしまった。
・・・と、そこにサイズが割り込んできた。
「ユウよ。それは多分、ショックによる発作は病気だ」
訳の分からないことを、サイズは突然言い出した。
「え? ・・・何かが、聞こえた気がするんだが?」
わたしは、サイズが何か言ったことに気がついた。
「・・・アスナ、何をしている!」
わたしは慌てて、ユウにサイズが言ったことを伝えた。
「あれが、病気・・・?」
「そうみたい。それと、ユウは死に急ぐことをしようとは思っていないよね?」
彼はこう答えた。
「死に急ぐ・・・? ・・・確かに、一度だけ考えたことがある」
彼はそう言って、こう話してくれた。
明日奈が死んでから3ヶ月が経った日に、彼女の幻影をあの場所で見たという。
だが、彼はそれが明日奈ではないのを分かって後を追おうとしたそうだ。
その時に、ユウは彼女の声を聞いたという。
来ちゃダメ、と・・・。
「そうなんだ・・・」
わたしはそう言って、彼に声が聞こえてよかったねと続けて言った。
ユウはそうだなと言った。
そして、話を聞いたサイズはこう言った。
「相当な想い人だったのだな・・・」
しかも、これはユウにも聞こえたようだ。
「お、想い人? 誰が言った?」
「え? サイズ?」
わたしは部屋の壁に立てかけておいた鎌に向かって、サイズの名前を言ってしまった。
「おい・・・。ま、いいか・・・」
サイズは仕方なく、こう言った。
「・・・聞こえるように言っただけだ」
「あの鎌が、サイズ?」
サイズは、ユウの反応に驚いた。
「驚かないのか? それとも、怖くないのか?」
「んー、まぁ・・・」
ユウは驚きも怖れもしなかった。
「ふむ・・・」
その後、サイズはまあいいと言った。
昔に、サイズから聞いたことがある。
人間は、自分とは異なる存在には驚くものである、と。
そして、恐怖を感じて、自分とは異なる存在を排除するものである、と。
「・・・俺さ、明日奈の霊を見てから、サイズみたいなのを見ても驚かなくなったんだ」
「そう、なんだ・・・」
彼がわたしたちの存在を受け入れてくれたのが、なんだかホッとした。

――そして、話をユウの発作のことに戻した。
わたしがこう話を切り出して、話が始まった。
「ねぇ、雪・・・きれいだよね?」
わたしは部屋の窓を眺めて言った。
「そう・・・だな・・・」
ユウも窓を眺めて、そう言った。
「雪か・・・」
ユウはそう言って、厚着を衣装棚から出して、それを着た。
「どうしたの?」
わたしがそう聞くと、
「外に行くぞ」
とユウが言った。
「いいの、大丈夫なの?」
わたしは辛い目には遭ってほしくはなかったので、そう言った。
だが、彼は何とかなる、と曖昧なことを言って外に出た。
「・・・何をボーッとしているのだ? ついていかないのか?」
「え? あ、あ、うん・・・」
サイズに言われたわたしは部屋の窓をすり抜けて、外に出た。

***

――ユウは例の場所に来た。
わたしたちもそれについていった。
そこは、広い交差点だった。
サイズは不思議に思った。
「こんなところで、事故が起きるのか?」
それを聞いたかどうかは分からなかったが、ユウはこう言った。
「・・・俺は、明日奈の誕生日に贈るプレゼントに悩んでいたんだ・・・」
「考えていたんだね・・・」
「悩んだけど、結局誕生日の前の日まで何も出てこなかった」
・・・ユウ・・・。
「プレゼントを考えながら商店街に向かう途中、・・・そうだな、この交差点で起きた事故を、今から話すことになるな」
・・・彼は、自分のせいで明日奈は死んだと言っていたが、これを聞くと、誰が悪いのかが分からなくなる。

――商店街前の交差点。
そこは、とても見通しがよく、事故が起きることなんてないはずだった。
ユウは明日奈への誕生日プレゼントを考えながら、街中を歩いていた。
ユウは普段考えごとをしない質だが、今日に限って、集中できた。
やはり、明日奈のことが関わってきているからだろうか?
考えに考えたが、結局いいものは決まらなかった。
・・・そして、事故が起きた交差点にさしかかった。
だが、彼はそれに気づかなかったのだろうか、頭を抱えたままそのまままっすぐ向かってしまった。
「あー、決まらねぇ・・・!」
そう言って頭が上がった。
その時であった。
「ユウ! 危ないっ!」
一人の少女が、大声でユウに呼びかけた。
少し離れているが、右から車が近づいてきていた。
「えっ・・・!」
その少女こそ、明日奈であった。
そして、明日奈は何も省みず、ユウの元へ向かった。
端からみれば、何を馬鹿なことをしているのだ、と思われただろう。
いや、そう思うはずである。
明日奈は赤信号の中に飛び込んだ。
「・・・!」
そして、明日奈はユウを力強く歩道に押し返した。
「馬鹿な・・・!」
もちろん、明日奈は戻ることすらかなわなかった。

――どうして、明日奈は何も考えずに、ユウを助けたんだろうか?
わたしはそう思った。
「馬鹿な奴もいたものだな・・・」
わたしたち死刑執行人でさえも、馬鹿なことだと分かった。
「そうだな。だけど、明日奈がどうして死ぬと分かっていることをやったのかが、まったく分からないな」
ユウはそう言うと、横断歩道を渡った。
「・・・何をしているんだ? ついてこないのか?」
わたしたちはボーッとしていたようだ。
既にユウとの距離が開いている。
彼が渡っている所は、青信号だった。
「あ、はい。行きます・・・」
わたしたちは急いでユウに追いついた。
・・・例の発作が収まって何よりだ。

***

――横断歩道を渡り、商店街の道を歩いていった。
そして、わたしたちが初めてユウを見た店の前で、ユウが足を止めた。
彼が足を止めたのに気づくと、わたしたちも止まった。
「ここは・・・」
わたしは初めての時を懐かしんだ。
「アスナ、ここを知っているのか?」
ユウの問いに、わたしはそうだと答えた。
そして、こう言った。
「ここで、初めてあなたを見たの。初めて見たはずなのに、何だか懐かしく思ったんだよ」
「そうか・・・」
ユウはそう言うと、店の中に入って行った。
わたしもついて行こうとしたが、サイズに止められた。
「行く必要はないだろう・・・」と。
わたしはその通りにすることにした。

――ユウを待っていると、わたしはある異変に気がついた。
「ねぇ、サイズ?」
「ん?」
「サイズは、何か変だと思わない?」
「・・・アスナも、やっと感じたか」
サイズも何かが変だと気がついているようだ。
「うん・・・」
わたしは辺りを見回した。
すると、アスナの背後から強い風のようなものが吹き付けた。
「・・・!」
アスナはすぐさまに、サイズでそれを受け止めた。
そして、声が聞こえた。
「・・・センパイ、何をやっているのですか?」
「あなたは・・・!」
サイズで受け止めていたのは大きな斧だった。
そして、全体が赤の服を着た一人の少女がそれを携えていた。
「任務をほっぽりだして、どうしたんですか?」
少女が威圧的な目をして、そう言った。
それに対して、わたしはこう答えた。
「任務なのは分かっているわ。だけど・・・、ユウはまだ死なないよ?」
「ユウ・・・、そう呼ぶんだ?」
「え・・・?」
彼女は、わたしのことの何を知っているのだろうか。
彼女はサイズを弾いて、わたしとの距離を少し置いた。
「咲野勇・・・、そして、久留野宮明日奈・・・」
「待って・・・!」
二人の名前を聞いた時、わたしは何故か彼女を止めようとした。
だが、わたしに新たなことが突きつけられてしまう。
「この二人は、かつて我ら死刑執行人としてお互いパートナーとして任務をこなしていた・・・」
彼女が携えている斧がそう言った。
当然、斧は執行具である。
「やめろ! お前たちは、こいつをアスナだと知っているだろ?」
サイズがそう言った。
「ええ、知っているわよ」
「だけど、お前の死刑執行人は、再び罪を犯そうとしているではないか」
わたしは、それを聞いて驚いた。
「・・・」
サイズはわたしを見て黙っていた。
どうやら、サイズはまだわたしの何かを知っているようだ。
「・・・ねぇ、サイズはまだわたしに、何を隠しているの?」
だが、わたしの問いに、サイズは答えてくれなかった。
「サイズ・・・!」
わたしが呼びかけても、サイズに反応はなかった。
「・・・そうですよね。
話すわけにもいきませんよね?」
そう言って、少女はわたしに近づいてきた。
「な・・・、何なの?」
「ねぇ、センパイ。センパイは自分自身のことを知らないのは、嫌だよね?」
そう言うと、彼女はわたしの答えを聞かずに、話を始めた。