――何だか、見覚えがあるような気がする。
わたしは、この世界に来て、最初にそう言った。
・・・わたしは、アスナというらしい。
だけど、わたしはアスナという名前が、わたしの名前なのかが分からない。

――わたしは何なの?
時々、わたしはそう思う。
すると、毎回わたしの側にいるものがこう言う。
――お前は、死刑執行人(エクゼキューター、もしくはヴァリアブル)だ。お前は、死の使いだ。
それが分からないから、わたしは困っているのだ。
だけど、そんなわたしに彼はこう言うのだ。
――死が近い者に、お前が訪れる。そして、お前はその者に死の手助けをするのだ。
・・・わたしは、その通りに何度もやった。
そして、死んだ人を見ると、何故だか悲しくなってしまうのだ。
それでいいのかを彼に問い、こう何度も言っている。
――サイズ、あなたは泣かないの?
――私は泣かぬ。むしろ、何故お前は泣く。
――わたしは何故だか悲しいの。悲しいから泣くの?
――・・・。
サイズは答えてくれなかった。
今でもわたしは、その疑問を持っている。

***

・・・わたしがこの町に来るようになって、もう1年が経ったと思う。
わたしはその間に、何人もの人に死と生をさまよう者を導いた。
そして、わたしの運命を変える出来事が起きることなんて誰が予想できたものだろうか・・・。

町のお店が並ぶ道を歩いていたある日・・・。
わたしは、一人の男の人が店の外から、中にある何かを見ているのが、何故か気になった。
「おい、何を見ている?」
彼に見とれていたわたしに、サイズが声を掛けた。
「ご、ごめん・・・。任務だね、任務・・・」
仕方なく、わたしはその場を後にした。

・・・任務が終わり、わたしは再びあの時の場所を訪れた。
だが、彼はいなかった。
「当然だ。私たちみたいに、人は時が止まっていないのだ」
サイズはそう不機嫌に言った。
多分、わたしが勝手にうろつくのが嫌だったのだろう。
だが、わたしはどうしても彼が気になった。
「まだ、探すよ・・・」
わたしはそう言って彼を探して、サイズを無理矢理付きあわせた。

空を飛んで探していると、彼を見つけることができた。
彼は家の2階にいた。
「いた・・・」
わたしは早速彼に近づこうとした。
だが、サイズがわたしを止めた。
「何をするのだ。あの男の死期はまだ先だぞ?」
「でも・・・!」
「でも、じゃない。それに、今行っても私たちはあの者には見えぬぞ」
そう、私たちは死の存在。
死の間際にある者にしか見えないのだ。
「・・・分かった。だけど、ここからでもいいから・・・」
「・・・勝手にしろ」
その後、わたしは外から彼を見続けた。

・・・彼を見つけて、もう3ヶ月経った。
この世界で言えば、4月になったらしい。
わたしはある任務を終えて、ここに来た時に作った家に帰ろうとした時のことであった。
ちなみに、家と言っても、橋を屋根にしたスペースである。
「アスナ。お前の最近の行動はおかしすぎるぞ?」
わたしはこの3ヶ月、ろくに任務を果たせていなかった。
他の人に先を取られたり、しまいには、受けられたのはよかったが、訳の分からないことをやって上手く仕事をこなせなかったりしていた。
「・・・ごめん」
「私は、お前の腕を見込んでついてきているのだ」
わたしがサイズと出会ったのは、わたしがわたしだと分かった世界で初めて目に入ったことから始まったのである。
そして、わたしの力を見込まれて相棒としてやり始めたのだ。
「お前がこのままの状態だと、私はお前を引き連れて元の世界に行くからな?」
「分かった。これからはちゃんとやるから・・・」
そして、わたしたちの元に、次の任務が届いた。
任務が届く時は、サイズに埋め込まれている宝石が輝くのだ。
「・・・分かった?」
「分かっているに決まっているだろ」
今のわたしたちには、思いもよらなかった。
次に向かう場所が、あの場所だったのだ。

***

――ついに来てしまった。
「どうしてだ。どうしてあの男なんだ・・・」
わたしたちが任務内容に示されていた場所に向かうと、そこはあの人がいる家だったのだ。
サイズは、とても驚いていた。
わたしが彼のことが気になった理由が、何となく分かった気がした。
だけど、本当の理由が他にあるのを一切考えていなかったのは事実である。
「あの人、咲野勇(さきの いさみ)っていうんだ・・・」
「そのようだな・・・」
どうやらサイズは、今回の任務は乗り気ではないようだ。
「・・・アスナ。今回は、一人でやってろ。今回で成功したら、私はお前を見直す」
「え? え? でも・・・」
「でも・・・、じゃない。今までの失敗を、一人で取り戻してみろ」
そう言って、サイズは勝手に消えてしまった。
「え、ちょっと・・・!」
しょうがないなぁ・・・。
でも、わたしだけで何ができるのだろうか? そういう初めてのことに不安を感じながらも、わたしは家の2階にある彼の部屋の窓から入ることにした。
窓は閉まっていたが、わたしには一切意味を成さなかった。
それは、今ある世界には干渉できないのが、わたしたち死刑執行人なのである。

・・・彼の部屋に入った。
部屋は散らかっておらず、時間帯のせいか、彼はベッドで寝ていた。
そしてわたしは、ベッドで寝ている彼の顔を覗きこんだ。
すると、彼はうーうー言いながら寝返りをうっていた。
「わわっ!」
突然こっちを向いてきた。
わたしは、思わず声をあげてしまった。
「う、ううん・・・」
彼が目を覚ましてしまった。
「あ、あわわ、あわ・・・」
わたしは慌てて部屋の壁に逃げた。
「ん・・・?」
だけど、彼はとても自然ではない反応をした。
「君は、一体?」
「わたしは・・・」
わたしは一瞬詰まった。
「わたしは、アスナ・・・」
「アスナか・・・」
彼は何かを思い出そうとしていた。
というか、わたしが彼に見えているんだ、やっぱり・・・。
「わたしは、あなたがやり残していることを叶えにやってきたの」
だけど、彼はわたしの言ったことを無視してこう言った。
「アスナって、俺にどこかで会ったことはないか?」
「え?」
わたしが初めて彼を見たのは商店街だけど、こうして話したのは初めてのような気がする。
だけど、わたしも彼と同じで、見かけた時から何かを思い出すような感覚があったのだ。
「ううん、勇くんとは今日が初めてだよ」
「そうか・・・。でも俺、昔にアスナっていう女子が俺と同じ学校に通っていたような気がするんだよな・・・」
「そう・・・」
もちろん、わたしには分からなかった。
でも、今はとにかく任務をこなすしかない。
そう思って、わたしは始めた。
「あなたは、やりのこしていることがある?」
わたしがそう尋ねると、彼はこう言った。
「・・・ないな。今は今で幸せだ」
「そう・・・なんだ・・・」
それなら、わたしは彼を死へと導くしかないのだ。
そして、わたしがサイズを持つと、彼はこう言った。
「死神、か?」
「ううん。わたしは、死刑執行人よ」
「何だ、死刑執行人ってのは?」
わたしは、長々と説明をした。
そして、その後・・・。
「じゃあ、君は死を見届ける役目を持っているんだな」
「うん、そうね・・・」
こう話しているうちに、わたしの脳裏にあることが浮かんできた。
それが何かは、わたしには分からなかったけど、あとで記憶だというものだと勇から聞いた。
「ん? アスナさん、どうかしましたか?」
「・・・ううん、なんでもない」
わたしは、サイズをしまった。
「ありがとう。勇くんが言ってくれなかったら、わたしは君をすぐさま殺していたと思う」
そして、わたしは何故か、彼にあることを話した。
「勇くんは、わたしのことを見たことがあるって言ってたよね?」
「ああ、言ったね」
「わたし、やっぱり君に会ったことがあるかも」
「そうか・・・」
わたしは、さっき思い出したことを話した。

――わたしは、久留野宮明日奈(くるのみや あすな)。
わたしは、特に大したことのない女子だったみたい。わたしが勇くんと初めてお話ししたのは、わたしがある授業で忘れ物をして、教室に取りに行ったことが始まりだった。

「そうだ、そうだった。明日奈だ」
「・・・でも、どうしてわたしたち死刑執行人にはこんなことがないはずなのに、わたしは知らないわたしのことを思い出したような感じになったのだろうか?」
彼はこう言った。
「死刑執行人は、記憶というものを持たないのか?」
「これは、記憶っていうんですか・・・」
「そうだな。死刑執行人は記憶を持たないとしたら、君たちには必要のないことなのか・・・」
「なら、わたしがさっき言ったことは記憶というもので、わたしたちはそういうものは必要ないのね」
「・・・かもしれない。だけど、俺はまた明日奈に会えてよかった」
そう言うと、彼はわたしを抱きしめた。
「な、何?」
「ごめん・・・」
彼は離れた。
「だけど、本当に嬉しかったんだ」
彼はとても嬉しかったみたい。
でも、わたしはアスナなのは確かだけど、久留野宮明日奈とは限らない。
「でも、わたしは本当に久留野宮明日奈とは限らないよ?」
彼は、それでもいいと言った。
「そう・・・」
どう答えが返ってきても、わたしはどうでもよかったと思った。
だけど、わたしは何故か嬉しい感覚の中にあった。
「アスナ。俺のことは、昔の呼び方でいいからな」
「昔の呼び方?」
「ああ・・・、そうだった。昔は、勇(いさみ)っていうのが言いづらいから、勇(ゆう)っていう、とアスナから言ってきたんだ」
「そっか・・・。なら、わたしも『ユウ』って呼ぶね」
彼は明日奈を懐かしんでいるような気がした。
何故わたしがそう思ったのかが分からなかった。
本当なら、気にはならないはずだろう・・・。
「えっと・・・」
しばらくの沈黙に、わたしは耐えられなかった。
「・・・ごめんなさい。黙って部屋に入ってきた上に、ユウくんまでも起こしちゃって・・・」
「ううん。5年は会っていないアスナに会えてよかったよ」
「そう・・・、5年も・・・」
5年前というと、わたしが死刑執行人として存在し始めた時と同じだ。
「どうした?」
考え事をしているわたしに声をかけてきた。
「ううん、なんでもないよ!」
突然声をかけられたわたしは、驚いた後に慌てた。
「あ、いや・・・。えっと・・・、おやすみなさいっ!」
わたしはそそくさに閉まっている窓から出て行った。
「あ、ははは・・・」
彼は寝る前にあることを言った。
「確か、アスナは俺の目の前で、事故で死んだような気がするんだよな・・・」
ユウはわたしに聞こえないところでそう言ったらしい。

***

わたしの家に戻ると、サイズはこう言ってきた。
「・・・アスナ。お前はまた・・・!」
「待って! わたしはそんなんじゃない」
わたしがユウに対して死刑執行人としての仕事をしていなかったことに、サイズはとても怒っていた。
「わたし・・・、ユウはまだ死ぬような人じゃないと思うの」
「そう願いたいものだな」
サイズは、一日で済むようなものではないだろうと悟り、まだ動かなかったアスナを大目に見た。
「だがな、アスナの姿があいつに見えていたのに、違和感を感じなかったか?」
わたしは、あっと思った。
「そう・・・だね。全く不自然にも思わなかった」
「・・・我々死刑執行人は、死期の近い者にしか姿が見えないはずだ」
だから、あいつは近いうちに死ぬのだ、とサイズは言った。
「うん・・・」
悲しいけど、わたしは彼を死に導びかなければならない。
・・・そんなことはしたくはない。
わたしはそう思った。
そして、わたしはサイズにその思いを告げた。

――だから、わたし・・・、ユウを助けたい。
もちろん、サイズは受け入れてくれる訳がなかった。
「馬鹿か、お前は!」
「分かっているよ。だけど、わたしは彼を今度こそちゃんと助けたいんだ!」
それを聞いたサイズは、何かを感じた。
「・・・アスナ。お前、まさか・・・!」
「え、何?」
わたし、何か不思議なことを言ったのだろうか? 「やめろ、それ以上は何も言うな!」
サイズが、突然わたしに頭の刃を向けて、こう言ってきた。
「お前が生(せい)に執着してどうする? お前は死刑執行人だ。死に執着をしろ!」
「わたしが生きたいんじゃない。ユウくんを死なせたくはないだけよ!」
「・・・」
「・・・」
こんな風にサイズとケンカをしたのは初めてだった。
そしてわたしは今日、サイズと一緒にいるのをやめた。
「・・・どこへ行く?」
「わたし、眠れないから・・・」
死刑執行人には、眠るという行為はないのだ。
だけど、休む程度ならできる。
人間にとっては同じように思えるだろうけど、わたしは体力を回復するとかという行為は一切しなくてもいいのだ。
それでも、わたしは体の動きを止めて、いろいろと考え事をしている。
時には、目を閉じて何かを考えていることだってある。
「空を飛ぶのか・・・? いつものことだな」
サイズはその場で、わたしを見届けた。

***

――明るくなると、わたしは家に帰った。
そして、わたしは昨日のことを謝った。
「・・・ごめん、わたしが・・・」
だけど、サイズの反応は違った。
「お前は、全てを捨てなければならない時に、すぐにそうできるのか?」
どういうことかは分からなかったけど、わたしはこう答えた。
「できるよ・・・」
「・・・そうか」
サイズはそう言うと、わたしの手元に来た。
「サイズ・・・?」
そして、サイズはこう言った。
「私は、お前の相棒だ。あいつとは、お前のやりたいようにやってみろ」
「え? でも・・・」
「私は、お前という存在に賭けてみようと思っただけだ」
「う、うん・・・」
・・・サイズが、わたしをちゃんと見てくれた。
そんなような気がした。
でも、気になることがあった。
「あのね、『お前という存在』って何なの?」
いつもだったらわたしの質問に答えてくれないのに、サイズは答えてくれるような口調でこう言った。
「『お前という存在』か・・・」
少しの間、辺りは静かになった。
そして、サイズは語り始めた・・・。

***
――お前ももう分かっているだろうけど、お前は既に死んでいるようだと思ったことはないか?
――うーん・・・。
――・・・ないのか。
私は、アスナを初めて見た時から、アスナに何かがあるような気がした。
――なら、気にすることもない。
ただ単に、お前がそういう奴だということだ。
本当の死刑執行人は、死刑執行人自身の罪を執行する存在なのだ。
だが、このことは我々執行具(クリーファー)のみが知っていることだ。
・・・我々とて、死刑執行人との仲を持ちたくはない訳ではないのだ。
そんなことをして、後々どんな風に大変なことになるのだろうか・・・。
何度も死刑執行人に死刑を執行してきたものか・・・。数知れないものだ。

――へぇ、サイズっていうんだ。
私がアスナの執行具として同行するように言われて、アスナに会いに行った時の彼女の第一声である。
言っておくが、私が最初にアスナに話しかけたのである。
――そうだ。今日から、お前と一緒に死刑執行人としての仕事をこなすことになった。
――死刑執行人?
む・・・、何故お前は死刑執行人のことを知らぬのだ?
私は、アスナは何も分からずにここへ来てしまったのだと思った。
だが、重要なことをアスナに伝えた。
まぁ、アスナがそれで分かってくれたのがよかったな。

――不思議な奴だ。何故お前は泣くのだ?
私は、毎回そう思った。
アスナは、死期が近い者たちを導いた後は、泣いてばかりだった。
だが、表情からして、彼女は泣き顔を私に見せないようにしているのが分かった。
だから、私はいくら彼女が泣く理由を問いても、一切答えなかった。

***

――サイズは、落ち着いた雰囲気で話してくれた。
でも、サイズはいつも落ち着いているけどね。
わたしは、サイズが話し終わると、何故かお礼を言っていた。
「・・・ありがとう。わたしに重要そうなことを教えてくれて」
「別に・・・、たまたま気が向いただけだ」
「あはは、そんなわけないでしょ」
わたしは、サイズは照れている(?)ように見えた。
「ばっ・・・、馬鹿か!」
サイズは、わたしにユウの所に行くように急かした。
そして、わたしはそれに従った。

***

――わたしとサイズがユウに会ってから、もう1年が経とうとしていた。
もう、1年経つのか・・・。
その間の出来事は、短くできるほどだが、彼の死期が近いうちに訪れることは事実だった。

――それは、この世界では、12月のある日のことだった。
わたしは、この時になってあることに気付いた。
「ユウは、どうして外に出ないの? 1年前のこの時期には、外に出ていたよね?」
わたしの問いに、彼はこう答えた。
「俺さ、外に出るとヤバいんだよね・・・。明日奈が死ぬ前までは大丈夫だったのに、明日奈が死んでからあの場所に行くと、とても苦しくなるんだ・・・」
そう言って、ユウは自分の胸に手を当てた。
多分、そこが痛くなる所なんだろう・・・。
そして、ユウはこう続けた。
「このことを、医者はショックによるものだろうって言ってたけど、俺は何か違うような気がするんだ・・・」
「じゃあ、何なの?」
「・・・分からない」
・・・彼によれば、明日奈は商店街へ続く交差点で事故に遭って亡くなったらしい。
しかも、彼自身の不注意によるものらしい。
「・・・」
「・・・」
わたしとユウは、お互いに黙り込んでしまった。
・・・と、そこにサイズが割り込んできた。
「ユウよ。それは多分、ショックによる発作は病気だ」
訳の分からないことを、サイズは突然言い出した。
「え? ・・・何かが、聞こえた気がするんだが?」
わたしは、サイズが何か言ったことに気がついた。
「・・・アスナ、何をしている!」
わたしは慌てて、ユウにサイズが言ったことを伝えた。
「あれが、病気・・・?」
「そうみたい。それと、ユウは死に急ぐことをしようとは思っていないよね?」
彼はこう答えた。
「死に急ぐ・・・? ・・・確かに、一度だけ考えたことがある」
彼はそう言って、こう話してくれた。
明日奈が死んでから3ヶ月が経った日に、彼女の幻影をあの場所で見たという。
だが、彼はそれが明日奈ではないのを分かって後を追おうとしたそうだ。
その時に、ユウは彼女の声を聞いたという。
来ちゃダメ、と・・・。
「そうなんだ・・・」
わたしはそう言って、彼に声が聞こえてよかったねと続けて言った。
ユウはそうだなと言った。
そして、話を聞いたサイズはこう言った。
「相当な想い人だったのだな・・・」
しかも、これはユウにも聞こえたようだ。
「お、想い人? 誰が言った?」
「え? サイズ?」
わたしは部屋の壁に立てかけておいた鎌に向かって、サイズの名前を言ってしまった。
「おい・・・。ま、いいか・・・」
サイズは仕方なく、こう言った。
「・・・聞こえるように言っただけだ」
「あの鎌が、サイズ?」
サイズは、ユウの反応に驚いた。
「驚かないのか? それとも、怖くないのか?」
「んー、まぁ・・・」
ユウは驚きも怖れもしなかった。
「ふむ・・・」
その後、サイズはまあいいと言った。
昔に、サイズから聞いたことがある。
人間は、自分とは異なる存在には驚くものである、と。
そして、恐怖を感じて、自分とは異なる存在を排除するものである、と。
「・・・俺さ、明日奈の霊を見てから、サイズみたいなのを見ても驚かなくなったんだ」
「そう、なんだ・・・」
彼がわたしたちの存在を受け入れてくれたのが、なんだかホッとした。

――そして、話をユウの発作のことに戻した。
わたしがこう話を切り出して、話が始まった。
「ねぇ、雪・・・きれいだよね?」
わたしは部屋の窓を眺めて言った。
「そう・・・だな・・・」
ユウも窓を眺めて、そう言った。
「雪か・・・」
ユウはそう言って、厚着を衣装棚から出して、それを着た。
「どうしたの?」
わたしがそう聞くと、
「外に行くぞ」
とユウが言った。
「いいの、大丈夫なの?」
わたしは辛い目には遭ってほしくはなかったので、そう言った。
だが、彼は何とかなる、と曖昧なことを言って外に出た。
「・・・何をボーッとしているのだ? ついていかないのか?」
「え? あ、あ、うん・・・」
サイズに言われたわたしは部屋の窓をすり抜けて、外に出た。

***

――ユウは例の場所に来た。
わたしたちもそれについていった。
そこは、広い交差点だった。
サイズは不思議に思った。
「こんなところで、事故が起きるのか?」
それを聞いたかどうかは分からなかったが、ユウはこう言った。
「・・・俺は、明日奈の誕生日に贈るプレゼントに悩んでいたんだ・・・」
「考えていたんだね・・・」
「悩んだけど、結局誕生日の前の日まで何も出てこなかった」
・・・ユウ・・・。
「プレゼントを考えながら商店街に向かう途中、・・・そうだな、この交差点で起きた事故を、今から話すことになるな」
・・・彼は、自分のせいで明日奈は死んだと言っていたが、これを聞くと、誰が悪いのかが分からなくなる。

――商店街前の交差点。
そこは、とても見通しがよく、事故が起きることなんてないはずだった。
ユウは明日奈への誕生日プレゼントを考えながら、街中を歩いていた。
ユウは普段考えごとをしない質だが、今日に限って、集中できた。
やはり、明日奈のことが関わってきているからだろうか?
考えに考えたが、結局いいものは決まらなかった。
・・・そして、事故が起きた交差点にさしかかった。
だが、彼はそれに気づかなかったのだろうか、頭を抱えたままそのまままっすぐ向かってしまった。
「あー、決まらねぇ・・・!」
そう言って頭が上がった。
その時であった。
「ユウ! 危ないっ!」
一人の少女が、大声でユウに呼びかけた。
少し離れているが、右から車が近づいてきていた。
「えっ・・・!」
その少女こそ、明日奈であった。
そして、明日奈は何も省みず、ユウの元へ向かった。
端からみれば、何を馬鹿なことをしているのだ、と思われただろう。
いや、そう思うはずである。
明日奈は赤信号の中に飛び込んだ。
「・・・!」
そして、明日奈はユウを力強く歩道に押し返した。
「馬鹿な・・・!」
もちろん、明日奈は戻ることすらかなわなかった。

――どうして、明日奈は何も考えずに、ユウを助けたんだろうか?
わたしはそう思った。
「馬鹿な奴もいたものだな・・・」
わたしたち死刑執行人でさえも、馬鹿なことだと分かった。
「そうだな。だけど、明日奈がどうして死ぬと分かっていることをやったのかが、まったく分からないな」
ユウはそう言うと、横断歩道を渡った。
「・・・何をしているんだ? ついてこないのか?」
わたしたちはボーッとしていたようだ。
既にユウとの距離が開いている。
彼が渡っている所は、青信号だった。
「あ、はい。行きます・・・」
わたしたちは急いでユウに追いついた。
・・・例の発作が収まって何よりだ。

***

――横断歩道を渡り、商店街の道を歩いていった。
そして、わたしたちが初めてユウを見た店の前で、ユウが足を止めた。
彼が足を止めたのに気づくと、わたしたちも止まった。
「ここは・・・」
わたしは初めての時を懐かしんだ。
「アスナ、ここを知っているのか?」
ユウの問いに、わたしはそうだと答えた。
そして、こう言った。
「ここで、初めてあなたを見たの。初めて見たはずなのに、何だか懐かしく思ったんだよ」
「そうか・・・」
ユウはそう言うと、店の中に入って行った。
わたしもついて行こうとしたが、サイズに止められた。
「行く必要はないだろう・・・」と。
わたしはその通りにすることにした。

――ユウを待っていると、わたしはある異変に気がついた。
「ねぇ、サイズ?」
「ん?」
「サイズは、何か変だと思わない?」
「・・・アスナも、やっと感じたか」
サイズも何かが変だと気がついているようだ。
「うん・・・」
わたしは辺りを見回した。
すると、アスナの背後から強い風のようなものが吹き付けた。
「・・・!」
アスナはすぐさまに、サイズでそれを受け止めた。
そして、声が聞こえた。
「・・・センパイ、何をやっているのですか?」
「あなたは・・・!」
サイズで受け止めていたのは大きな斧だった。
そして、全体が赤の服を着た一人の少女がそれを携えていた。
「任務をほっぽりだして、どうしたんですか?」
少女が威圧的な目をして、そう言った。
それに対して、わたしはこう答えた。
「任務なのは分かっているわ。だけど・・・、ユウはまだ死なないよ?」
「ユウ・・・、そう呼ぶんだ?」
「え・・・?」
彼女は、わたしのことの何を知っているのだろうか。
彼女はサイズを弾いて、わたしとの距離を少し置いた。
「咲野勇・・・、そして、久留野宮明日奈・・・」
「待って・・・!」
二人の名前を聞いた時、わたしは何故か彼女を止めようとした。
だが、わたしに新たなことが突きつけられてしまう。
「この二人は、かつて我ら死刑執行人としてお互いパートナーとして任務をこなしていた・・・」
彼女が携えている斧がそう言った。
当然、斧は執行具である。
「やめろ! お前たちは、こいつをアスナだと知っているだろ?」
サイズがそう言った。
「ええ、知っているわよ」
「だけど、お前の死刑執行人は、再び罪を犯そうとしているではないか」
わたしは、それを聞いて驚いた。
「・・・」
サイズはわたしを見て黙っていた。
どうやら、サイズはまだわたしの何かを知っているようだ。
「・・・ねぇ、サイズはまだわたしに、何を隠しているの?」
だが、わたしの問いに、サイズは答えてくれなかった。
「サイズ・・・!」
わたしが呼びかけても、サイズに反応はなかった。
「・・・そうですよね。
話すわけにもいきませんよね?」
そう言って、少女はわたしに近づいてきた。
「な・・・、何なの?」
「ねぇ、センパイ。センパイは自分自身のことを知らないのは、嫌だよね?」
そう言うと、彼女はわたしの答えを聞かずに、話を始めた。

――かつて、謎の死を経て死刑執行人となった少女がいた。
彼女の名は、生前の『明日奈』をそのまま読むことにして、『アスナ』といった。
アスナは、死刑執行人としての使命を知ると、使命を果たさず死の近い者を生かしていった。
ちなみに、死刑執行人には死の近い者を生かす術などない。
あくまでも、死の近い者には満足して死んでもらおうというのが、死刑執行人の考えであり使命でもあるのだ。
・・・そして、死刑執行人としての使命を果たそうとしないアスナとその執行具であったものは、他の死刑執行人によって殺されたという。

――それが、わたしなの・・・?
死刑執行人の少女から話を聞いたわたしは、何故か悲しくなった。
「わたしは確かにアスナだけど、その『アスナ』は知らない・・・」
「惚けないでください。さっきの話は、上からみんなに話されたことですよ」
「わたしは知らない! 本当よ!」
何なの? わたしは一体何なの?
「・・・そう」
そう言うと、彼女は斧を振り回した。
「知らない方がいいわ」
彼女の斧が、わたしに振り下ろされる。
「きゃあっ!」
手元からサイズが放れていたため、わたしは何もできなかった。
「う、うぅ・・・」
痛みは感じたが、何故かわたしは傷を一切負ってなかった。
「アスナ・・・、すまない・・・」
サイズが、わたしのもとに寄ってきた。
「いい。何とか立てる・・・」
そして、わたしはサイズを手に持った。
平気な顔をして立ち上がったアスナを見た少女の斧は、こう言った。
「・・・死しても縁を望む者、か・・・」
「お前、それは・・・!」
ついに、サイズがわたしのことについて口を挟んできた。
「死刑執行人サスラ、そして、その執行具クロス。アスナには・・・、こいつには記憶がないのを知っていて言っているのか?」
「サスラ・・・、クロス・・・」
彼女らは、わたしより死刑執行人としての経験が少ないが、死刑執行人の世界には一生懸命尽くしている。
そんな彼女らに、完全に捕まればどうなるかなんて、分かったものじゃない。
「あ、そうそう。上から、一つ伝言があったわよ」
「な、なんですか?」
サスラはこう続けた。
「『現任務をちゃんとこなせば、あなたの罪は消えて、あなたは望む形の生まれ変わりを認める』と・・・」
それは、今わたしたちがやろうとしていることとは逆のことであった。
もちろん、わたしたちがやろうとしていることが間違いであるのは分かっている。
「・・・つまり、それは早く咲野勇を殺せということだな?」
サイズの言うことに、サスラは頷いた。
「ええ。多分そうだと思います」
わたしは当然、それに従うつもりはなかった。
「言っておくけど、わたしたちが何をしているのかがそっちに分かっていても、わたしたちは自分たちの信念を曲げません!」
きっぱり、そう言った。
「・・・そうですか。なら、一度退きましょうか」
「どうしてだ? 今でもやれるだろ」
「ううん。センパイは、まだ罪を犯していないわ」
「・・・」
サスラに促され、クロスはひとまず諦めることにした。
そして、サスラはこう言って去って行った。
「センパイ。今なら、まだ大丈夫ですよ。だから、今すぐに任務を果すことです」
サスラとクロスは、その場から飛び去った。
そして、辺りの風景が再び動き出した。
「サイズ・・・、わたしは・・・」
「何を今更・・・。お前はお前のやりたい通りにやればいい」
「じゃあ・・・!」
「ああ。我もアスナと共にあろう」
そして、ユウが店から出てきた。
「ユウ!」
わたしはユウの所に駆け寄った。
「・・・待ったか?」
わたしは首を横に振った。
「ううん、待ってないよ」
「よかった・・・」
ユウは安心すると、わたしの髪を触って、布切れみたいな物を着けた。
「な、何?」
ユウは照れながら、こう言った。
「アスナに合いそうな色が無くてな・・・」
そう言って、彼はわたしに謝った。
「あ、いや・・・」
わたしは正直どうでもよかったが、何故か嬉しい気持ちが湧いていた。
「ありがとう・・・」
わたしの髪に、黒のリボンが着けられた。
「アスナの髪の色に、目立たない程度に合う色が分からなかったからさ・・・」
「色は気にしないよ。でも、白か黒なら気にならないと思うよ」
「そう・・・だな・・・」
そう言って、ユウは笑みを浮かべた。
それに対して、わたしも笑みを浮かべた。
「・・・ねぇ、これだけなの?」
「ああ。俺は帰るからな・・・」
そう言って、ユウはその場から去って行った。
それを見届けたわたしたちも、自分たちの家に戻った。

***

――わたしは、アスナ。ううん、明日奈なんだね・・・。
でも、わたしが明日奈であった記憶はない。
そんなわたしに、サイズはこう言ってきた。
「・・・お前の真実を、知りたくはないか?」
「え?」
驚いたわたしに、サイズはこう言った。
「一度戻ることになるが、いいか?」
「一度戻るって?」
わたしは、改めて聞き直した。
「今のお前はアスナだ。確かに、お前は明日奈だ。
明日奈として記憶を消されたと、サスラたちは言っていたが、実際にお前は偽りのお前だ」
「偽りの・・・、わたし?」
「そうだ。お前は罪を犯した後、罰として永遠の死を与えられ、偽りの魂がアスナだ」
・・・事が大きいような気がした。
それが確信に至ったのは、わたしが明日奈となった時だった。
「わたしは、偽物なんだ・・・」
サイズは、話を続けた。
「・・・わたしから見ると、まだアスナは明日奈の記憶を受け止められるとは思えないが、我の知る明日奈と同じ道を辿ろうとしているお前の真意を知りたいのだ」
「わたしが、明日奈と同じ道を辿ろうとしていることがどういうこと、か・・・」
サイズは、そうだと言った。
「・・・分かった。わたしも、どんなわたしかを知りたい」
わたしは、外に駆け出た。
「行こう、天霊界(サクリティス)へ!」
わたしは、サイズを手に持った。
「ああ。明日奈がいる場所は、我が教える」
そして、わたしたちは、死刑執行人の世界・天霊界へと戻って行った。

――天霊界。死刑執行人の世界。
そこで死刑執行人は生まれ、死期の近い者の前に現れてその者の願いを叶える使命を持っている。
だが、どうして死刑執行人という存在が必要なのかは分かっていない。
それに、死刑執行人がどのように生まれるのかも分かっていない。
本来ここには、任務を終えていないと戻ってきてはならない決まりになっている。
だけど、任務を終えていないから戻れないわけではない。
「・・・戻って、来ちゃったね」
「ああ・・・」
決まりを破ってここに来たというのに、辺りには誰もいなかった。
「・・・誰もいないな」
サイズが辺りを確認すると、わたしを目的の場所へ案内した。
「うん・・・」

――どこへ行っても、辺りには誰もいなかった。
わたしは、サイズに辺りを警戒してもらいながら目的の場所へ向かった。
「不穏だな・・・」
「何が?」
「普通なら、我らは排除されてもおかしくはない場所に入っているのだが・・・」
そう言うと、サイズはわたしに止まるように指示した。
わたしは、それに従った。
「な、何なの?」
「やはり、我らを見逃すつもりはないか・・・」
そう言うと、サイズは突然「後ろだっ!」と言った。
わたしは、とっさに後ろに構えた。
すると、高い金属音が響いた。
「・・・さすがだな、サイズよ」
襲いかかってきたのは、サスラとクロスだった。
「任務をほったらかしでいいんですか、センパイ?」
「わたしは・・・、本当のわたしを知りたい。だから、今から魂の室(たましいのむろ)に行くの!」
サイズが押し返され、弾かれた。
「・・・再び罪を犯してどうするのですか? また同じことを繰り返せば、センパイはどうなることか・・・?」
「・・・サスラはどうしてわたしを止めるの? わたしに死を執行するため?」
わたしは、理由もなくサスラが止めにかかるとは思っていなかった。
だから、わたしはサスラに理由を訊いた。
「わたしは・・・」
サスラは、何かに戸惑っていた。
「・・・記憶なんて、ない方がいいよ」
そう言うと、サスラはクロスから手を放した。
「サスラ?」
「・・・本来は、生前の記憶なんかない状態で生まれるはずだった・・・」
サスラはそう言いながら、わたしの胸元に抱きついてきた。
わたしはサイズから手を放して、それを受け止めた。
「・・・でも、最近になって、死刑執行人の理が破れはじめたのです」
「それは、アスナが代表的だというのか?」
サスラは頷いた。
「わたしが、理を破ったってどういうことなの?」
「死刑執行人は、生前の世界で罪を償いきれなかった者が、生前の世界で罪を犯して償おうとする者が罪を償いきれずに死を迎えようとする時に、その手助けとなる者たちのことを言う・・・」
クロスが、続けてこう言った。
「・・・だが、明日奈は罪を償うどころか、罪を犯し続けて死を迎えてしまった」
「そして、死を迎えた明日奈は、死刑執行人になったからか、自分の罪を持ったまま生まれたからか分からなかったが、死に執着する生の世界の者たちに生きることを教えて、死を諦めさせたらしい」
二人の言ったことに、わたしは疑問を持った。
「・・・何故死刑執行人は、人を殺そうと考えているの?」
わたしの疑問に、サイズが答えた。
「・・・それが、天霊界の存在を保つためだからだ」
「え?」
わたしだけではなく、サスラも驚いた。
サイズの話したことに、クロスは怒った。
「貴様! どこまで禁則事項を話すつもりだ?」
サイズの言ったことに、わたしとサスラは何故だかショックを受けた。
「天霊界の存在を保つため・・・?」
「・・・もう、分かんないよ!」
そう言うと、サスラはわたしから離れた。
そして、こう言った。
「・・・早く、行ってください。わたしは見なかったことにしますから」
サスラは、わたしを押した。
「サスラ・・・?」
呆けているわたしに、サイズがこう声をかけた。
「おい、行けるのなら行くぞ?」
「あ、うん・・・」
わたしはサイズを持ち、魂の室へと向かった。
「サスラ、お前は・・・!」
「うるさい! あんたはわたしの僕でしょう。黙ってなさい!」
そしてサスラは、しばらくの間その場に佇んでいたという。

――魂の室。そこに、わたしが眠っている。
だけど、何故わたしがそこで眠っているのかは、サイズにも分からなかった。
「・・・ここが、魂の室・・・」
その部屋の奥に、わたし・・・明日奈がカプセルみたいなのに入れられていた。
「アスナ。右にある装置に手を触れてみろ」
わたしは、サイズに言われた通りにした。
すると、わたしは装置に引き込まれる感じがした。
いや、本当に装置に引き込まれたんだ・・・。
「アスナ!?」
サイズは床に倒れかかったままになった。

***

――ここは・・・?
わたしの目の前に見えているのは、何なのだろう・・・?
――・・・来たんだね、アスナ。
――え・・・?
――自分を思い出すために、アスナはわたしのところに来たんだ。
鏡を見たことはないけど、確かにわたしだ。
――アスナ?
わたしが語りかけてくる。
――確かに、わたしは明日奈としての記憶を取り戻したい。だけど、わたしは明日奈がどうして死刑執行人としての使命を果たさなかったのかを知りたいの。
――アスナだって、わたしと同じことをしようとしている。
明日奈はわたしの全てを知っている。
それはもちろん、わたしは明日奈だからだ。
――・・・そう、ユウを見つけてくれたんだ。
――うん・・・。
――ユウ・・・。わたしが戻ってきてくれたから、もうすぐユウのもわたしのも、罪が消えるんだよ。
――ううん。罪は消えないよ。
――何故?
――わたしが明日奈になったら、また同じことを繰り返す。明日奈は分かっているはずよ。
――何が言いたいのよ?
わたしは、今までのわたしとしての記憶を、必要もないのに話した。
――・・・だからじゃないけど、ちゃんと使命を果たせば・・・。
だが、明日奈はそれに応じなかった。
――イヤ! わたしがそうしたら、この世界のためにサイズに殺されるんだよ。分かっているの? ――分かっているよ。使命を果たせば、執行具に死刑を執行されるのはサイズから聞いたよ。だけど、使命を果たして、罪を償うことができれば、死刑執行人に縛られずに生まれ変わることができるの。
こんなことを明日奈に話さなくても、明日奈は死刑執行人の理を知っている。
――・・・償っても無駄なのよ。
そう言うと、明日奈はわたしに触れた。
すると、わたしがフッと消えた。
――アスナ・・・。わたしであって欲しかったよ。
そして、カプセルの中で意識が戻った。

***

――今のわたしは、何・・・?
カプセルの中で意識を取り戻したわたしは、頭の中がいろんなものでごちゃごちゃになっていた。
「アスナ!」
サイズの呼ぶ声が聞こえた。
「・・・」
カプセルから出してもらったわたし。
「アスナなのか? それとも、明日奈なのか?」
わたしはサイズの問いに答えずに、サイズを掴んだ。
「アスナ、何を!?」
「わたしは、サイズの知っているアスナではないわよ」
「な・・・」
わたしはサイズを一振りした。
「わたしは、久留野宮明日奈。わたしは元のわたしに戻ったわ」
「明日奈か・・・」
こうなることくらい、誰しも予想できたであろう。
「・・・アスナはわたしの偽者。最高執行人に作られた、偽りのわたしなのよ」
「ああ、そうだな・・・」
そして、わたしたちは魂の室をあとにして、ユウのいる世界へと戻っていった。

***

――もう、戻って来ないのか、アスナ?
アスナはもういないのだ。
それを分かっていても、どうしてもアスナを忘れることができないのである。

・・・あれから、何日経ったのだろうか。
やはり、明日奈は過去に交わしたユウとの約束を果たすために、今のユウに接触した。
だが、明日奈は彼の願いを叶えることはおろか、自分の願いすら叶えることができなかった。
そして、咲野勇の願いを叶えさせることができないまま、彼は亡くなってしまった。
原因は、あの発作が長く続いたことらしい。
アスナの時にはなんでもなかったことが、明日奈となると酷く発作が起きたのであった。
もちろん、彼の死を早めたのは、明日奈が第一の原因であることなのは、我には分かった。

・・・そして、ユウを失った明日奈は、死刑執行とは無関係の人をひたすら斬り始めた。
「こんな世界、消えればいいんだ!」
執行具の我に、死刑執行人を止められる力があるわけがなかった。
「天霊界のために、みんな死んじゃえばいいんだ!」
「やめろ! こんなことをやっても、お前の願いは叶わないぞ!」
「いや! いやいやいやいやぁ!」
明日奈は止まらなかった。
「落ち着くのだ。彼もそのうち生まれ変わるんだ」
「だけど、わたしはあのユウがよかった」
「・・・」
我にはよく分からないが、明日奈は何故『あのユウ』と言ったのだろうか。
「・・・サイズ?」
「ん?」
そして、明日奈は我に、あることを話し始めた。
「・・・わたし、この世界を何度も見たことがあるんだ・・・」
「何度も、とはどういうことだ?」
我は、明日奈が言ったことは当たり前のことだろうと思いつつも、彼女にそう訊いた。
「よく分からない。けど、まるでこの世界が何度も姿を変えているように思うの」
「・・・つまり、明日奈は何度も生まれ変わっているということか」
明日奈は頷いた。
「・・・かもしれない」
「そうか・・・」
そして、明日奈は話の本題に入った。
「・・・わたしは、最初に会った時からユウのことが好きだった」
そう始まった話は、じっくりと明日奈の口から語られていった・・・。

***

――昔のそのまた昔。わたしは確かに生きていた。
わたしは3回同じ世界で、『明日奈』という名前で生まれていた。
そして、ユウも3回同じ世界で生きていた。

1回目。
わたしとユウが初めて出会ったのは、大人として落ち着いた生活をしていたころだった。
大人だから大丈夫だろう、と思ったら大間違い。
わたしとユウでは格が違いすぎたのだ。
わたしはしがない平民に比べ、ユウは一国の王子だった。
この時代では、格差婚なんかあり得ないことだった。
もし、付き合っているのが見つかれば、引き離されるのが当然なのだ。
・・・きっかけとかはサイズにだけ教えるけど、わたしとユウは密かに付き合っていたのは事実だ。
わたしは、優しかったユウに惹かれた。
だから、ユウのためならどこまでも何だってしようと決めた。
でも、認められない仲は引き離される。
わたしたちも結局は王家によって引き離されてしまった。
それでも諦められなかったわたしに、ある日ユウからの手紙が届いた。
そして、その手紙に書かれていたことに、わたしは来世ではずっと一緒にいようって決めた。
・・・まぁ、他の人からすれば、おかしな人だと思われるけど、これがわたしなのだ。
・・・とまぁ、手紙に書かれていたことはこうだった。
「いつかは、一緒にいよう」と。
本来の意味なんか、一切分からなかった。
だけど、わたしは来世でもまた会えるのだと思い込んだ。

2回目。
そのわたしは、前世の記憶が何故かあった。
普通はあり得ないことだったが、わたしは前世で誓った愛を元に、世界を駆け巡れる将来にしようと決めた。
もちろん、それは現実となった。
・・・世界は、長きに渡る戦争で各国が衰退していた。
各国が潤うために、各国が争いを続ける。
そんなことを続けてきていれば、世界がどうなるかなんて分かりきっている。
そして、わたしもまた、その『やり合い』に加担していた。
わたしは騎士となり、世界各国を渡って、前世で一緒にいようと誓い合った相手であるユウを探した。
もちろん、見つかった。
だけど、ユウはわたしに刃を向ける相手でしかなかった。
「ユウ、わたしだよ。アスナだよ!」
「貴様、どうして俺の名前を知っている?」
「一緒にいようって誓い合ったじゃない!」
「知らない。・・・というか、言っている意味が全く分からないな」
ユウは、前世の記憶がなかった。
それが、当たり前なのだか・・・。
・・・そして、わたしとユウは何度も戦った。
最後の戦いは、わたしの故国が追い詰められていた。
わたしはその時も、ユウに誓いを言い続けた。
だけど、ユウには通じていなかった。
・・・そう思った。
それは、わたしがユウに斬られて死ぬ直前のことであった。
「アスナ。お前が味方だったら、この世界を本当の意味で救えたかもしれないな・・・」
それ、わたしを殺しておいて言うことか、と思った。
わたしは、ユウとならどこまでもついていこうと思った。
だけど、国を裏切ることができないせいで、本当の自分を押し殺していたのだ・・・。

そして、前世で死んで、わたしは死刑執行人になった。
わたしは、死刑執行人なんか気に入らなかった。
ただただ、生きた屍のような感覚の中でいたくはなかった。
だから、わたしは死刑執行人としてはいけないことをし続けてきた。
だけど、死ぬ運命にあるものを永遠に生かすことなんてできるわけがなかった。
だから、わたしは死刑を執行した後は、死んでいった人の悔いを感じて一緒に悲しんだ。
・・・そう、これが泣いていた理由なのだ。
だが、わたしの行動に気づいた最終執行人は、わたしに転生をさせないという罰を与えた。
わたしの中に秘められ続けたユウとの誓いに気づいたのだろう。
それのために何度も生きてもらっては困る、という判断なのだろう。
・・・しかし、わたしに一つのチャンスが与えられた。
それは、100人の死と引き換えにわたしの罰が消えるというものだった。
しかし、そのチャンスを受け入れるかどうかは、わたしに選ぶ権利はなかった。
・・・わたしは罰を受けた時からわたしの意思がなくなっていて、アスナになっていたのだ。

そして、アスナであるわたしは、魂だけ生まれ変わることを許されて、久留野宮 明日奈(くるのみや あすな)として生きることとなった。
だけど、過去までの明日奈の望みは、魂に執着していた。
しかし、それは久留野宮明日奈としてのわたしにはなかった。
・・・これで、3回目。
わたしは、前世までの記憶を無くして生まれ変わった。
3回目にしても、ユウと会うことができた。
しかも、今度は幼なじみとして。
前世の記憶を持たないわたしでも、ユウを好きになった。
ユウもまた、わたしのことを好きでいてくれた。

・・・そして、いろいろあって、わたしは事故で死んだ。
知っている通り、馬鹿みたいにユウを庇ってね。
わたしがユウの代わりに死んだのは、ある声が聞こえたからである。
――魂よ。還る時がきた。
その声が聞こえた途端、わたしは何故かユウを歩道に押し出して、車を目の前にしていた。
誰かに操られたみたいであった。
・・・だけど、何故最終執行人は何故わたしをアスナとしてあの世界に還したのかが全く分からないのである。

・・・そして、アスナとして死刑執行人となり、明日奈として存在できるようになり、今に至るのである。

***

――100人の死と引き換えにわたしがアスナとなった。
それは、どういうことなのかをサイズに訊いた。
サイズはこう答えた。
「明日奈に対する特例だ。お前が何故生まれ変わる意思を持ち続けているのかを知りたかった、と我は聞いている」
「普通の死刑執行人ならともかく、特例を下したのは最終執行人だよね。最終執行人なら、わたしのことなんか、知り尽くしているはずだと思うよ」
「そうだな。だが、最終執行人はそれが明日奈を意味するものかを確かめるために、お前の記憶を全て消して他の人間と同じにしたのだ」
そして、実験されたわたしを使った結果というと・・・?
「明日奈であって、明日奈ではなかった。我はそう聞いた」
「それって、わたしらしくなかったっていうことですか?」
「ああ、そういうことだと思うな」
そうだね・・・。
わたしは死刑執行人としての使命を果たさなかったから、わたしの身体と魂が分けられた後、魂は操られていたのだ。
生まれ変わった間は操られたような感じはなかったけど、わたしとしての心が欠けていた。
果たして、久留野宮 明日奈としてのわたしとアスナとしてのわたしは、最終執行人には何の意味があったのだろうか? わたしは、それが気になった。
そして、わたしはサイズにそれを提案した。
「ねぇ、サイズ?」
「ん? 何だ?」
「最終執行人に会いたいんだけど・・・?」
それを聞いたサイズは、とても驚いていた。
「明日奈、お前・・・!」
「・・・言っておくけど、わたしは殺されるために行くんじゃないんだよ」
「そんなのは分かっているよ」
わたしはそう言っていても、自信があるわけではなかった。
「わたしはただ、ユウと一緒にいたかった。平和な世界で一緒にいたかったんだ・・・」
「・・・それが、願いなのは分かっている。だがな、最終執行人は、明日奈となったお前を許すことはないだろう」
「いや、絶対に許してもらう」
「お前は罪の上に、さらに今回の罪を重ねている。それで、お前の願いを聞くわけもない」
サイズは何かを勘違いしているようだった。
「・・・サイズ。最終執行人は、何故わたしを久留野宮明日奈やアスナとしてのわたしを作ったんだろうっていうのを、聞きに行きたいのよ」
それを聞いたサイズは、少し考えた後、こう言った。
「・・・要するに、お前は久留野宮 明日奈とアスナとして生かされた意味を知りたいのか?」
わたしは頷いた。
「・・・分かった。とは言っても、執行具としての我には何かを決めてもその通りには動けぬからな・・・」
「ごめん、サイズ。わがまま言っちゃって」
「謝らなくてもいい。それと、お前とは修羅の道だってついて行くと決めたんだからな」
「あ、はは・・・」
わたしは笑った。
そういえば、笑うのも久し振りかな。
「・・・じゃあ、また戻ろうか?」
「ああ。いいぞ」
そしてわたしたちは、目の前にしていた天霊界へと再び乗り込んだ。

――天霊界にまた戻ってきた。
また戻ってきたところで、どうなるかなんて分かっている。
だけど、わたしの知りたいことは、多分最終執行人にしか分からないことだから、どんなことが待っていても行くだけだ。
「センパイ・・・」
サスラが、通路に立ちはだかった。
「どうして、戻ってきたのですか?」
「わたしは、わたしの知りたいことを、最終執行人に聞きたいの」
「最終執行人に、だと!?」
サスラとクロスは、驚いた。
「だめです。センパイが行ったら、殺されちゃいます」
「わざわざ、殺されに行く必要はない」
二人は明日奈とサイズを止めようとした。
だが、明日奈とサイズは覚悟を決めていた。
「大丈夫」
「明日奈には手を出さないだろうからな・・・」
それを聞いたサスラとクロスは少し考えた後に、こう言った。
「・・・大丈夫じゃないよな?」
「ええ、そうよ。クロス」
そう言うと、二人は道を開けてくれた。
「・・・ご一緒、させてください」
サスラは笑顔でそう言った。
それに、明日奈とサイズは・・・。
「ううん。これはわたしの問題よ」
「そうだな。他の誰かがどうこうできることではないな・・・」
「確かにできないね・・・」
明日奈がそういうと、サイズをサスラに渡そうとした。
「センパイ! どういうことですか?」
「わたしが望んでいることは、サイズとは全く関係のないこと。だから、サイズとはここでお別れ・・・」
それを聞いたサイズは、大声で怒鳴った。
「明日奈。我はどうなってもいい。だから、最後までお前と共にいたいのだ!」
「ううん。サイズには、死刑を執行されたくはないから・・・」
「されるとは限らん。だから・・・」
「わたしはただ、サイズがサイズであってほしいだけなの・・・!」
明日奈がそう言いきる前に、サイズはこう言った。
「俺じゃ、だめなのか!」
「え・・・?」
いつもとは違うサイズの声だった。
「明日奈の望みは、俺の望みだ!」
「その声は・・・」
明日奈はサイズを手放すのをやめた。
「どうして・・・! この声・・・」
「分からないとは言わせないな、明日奈」
「うん・・・」
そう、彼だ・・・。ユウだ・・・。
「ユウ・・・!」
わたしは、とても嬉しかった。
こんな身近にユウがいたなんて信じられなかった。
「・・・分かってくれたか。今はサイズになっているけどな・・・」
「いいの。わたしには、ユウがいてくれればいいの」
「俺は、今だけここにいられる。もうすぐ俺が消えるんだ」
「え?」
ユウによれば、ユウはサイズによって少しの時間だけ魂を支えられているらしい。
「・・・とにかくだ。サイズを一緒に連れて行ってやってくれ。俺も望んでいる」
わたしは、それを認めるしかなかった。
「・・・分かった。何もかも、わたしのわがままだけであったのかと思った。だけど、わたしのわがままをサイズは何も言わずに受け入れてくれていたんだよね・・・」
そして、わたしはサスラが開けてくれた道を進んだ。
サスラは、わたしの言った通り、ついて来なかった。
「・・・いいのか?」
クロスがサスラにそう訊くと、サスラはこう言った。
「いいのかって言われても、あたしが手を出しちゃいけないって分かったのよ」
「そうか・・・、だめなのか・・・」
「それと、ね・・・」
サスラは、クロスを構えた。
「ふっ・・・」
「行くとしますか・・・」
「そりゃ、結構なことだな!」
いつの間にか、辺りにはたくさんの死刑執行人がいた。
「あたしは、死刑執行人になんか、なりたくなかったよ。いくら人を殺しても罪はないけど、あたしはその死に遭っているんだからねっ!」
そして、サスラとクロスは大勢の死刑執行人を相手にした。

***

――最終執行人。それは、死刑執行人の中でも一番格が上の者を指す。
最終執行人の正体は、何故かわたしは覚えていない。
そして今、その正体不明の相手の所にわたしたちはやってきた。
「・・・ほう。自ら、死を選んだか・・・」
「ううん。わたしは、どうしてわたしではない時を作ったのかを知りたいのです」
わたしは、自分の疑問をぶつけた。
「ふっ・・・。たくさんの罪を負いながらも、ここまで来られたご褒美に教えてあげようか・・・」
そう言うと、最終執行人は明日奈の首を掴んだ。
「な・・・っ!」
「明日奈!」
「・・・教えてくれるんじゃなかったのですか?」
最終執行人はこう言った。
「・・・今から、教えてやる」
「きゃあぁぁぁ!」
わたしが身動きが取れない所に、体が痺れるような感覚を感じた。
「う、ううん・・・」
「お前はもう、伝わっているはずだ」
「あ・・・」
言われた通り、確かに伝わっていた。
・・・それは、こうだった。
「わたしに、罪の重さを知って欲しかった・・・?」
「そうだ。一人の身勝手で、すべてが変わってしまうことは少なくはないんだ」
「だが、それと明日奈にどういう関係があるんだ?」
最終執行人は答えた。
「分からぬのか? お前は、誰もが望む『生まれ変わり』を自由にしようとしたのだぞ」
「自由にって?」
「決めるはずの道を、お前は生まれてから死ぬまでを決めようとしている」
「・・・本当なら、それは生まれてから決めるもの。それは、『運命』というやつか?」
サイズが言ったことに、最終執行人は頷いた。
「・・・普通なら、全ての世界に別の世界の記憶は持ってこられない。だが、明日奈の魂に消せないほど深く刻まれた意志があるせいで、明日奈は世界の理を無視できてしまう、ということか・・・」
「ふっ・・・、さすがは執行具サイズ。我の力の一部を持つ者だな・・・」
わたしは、世界の理なんか知ったことじゃない。
だけど、最終執行人から見れば、わたしは特別だけどあってはならない存在だというのが分かったような気がした。
「・・・わたしは何でもできてしまう。だけど、そのせいで、わたしは失うものがない・・・」
「・・・分かってきたようだな」
「だが、明日奈はまだ死刑執行人としての罪しかない。今まで明日奈が生きてきた世界では、明日奈自身の罪は何もないはずだ」
サイズには教えていない、わたしの部分。
だけど、サイズはそれを話していた。
これも、最終執行人の力の一部なの?
「そうだな・・・」
そう言うと、最終執行人は近くにあった鎌を手に取った。
補足する必要はないだろうけど、決してサイズではない。
「・・・まずは、死刑執行人としての罪を、罰として受けてもらおうか」
最終執行人の鎌が、わたしに目掛けて降り下ろされた。
「う・・・っ・・・」
わたしは何の抵抗もせずに、それを受けた。
「明日奈!」
「大丈夫・・・。どうせ、罪を償わないと、わたしの願いは叶わないから・・・」
わたしは、わたし自身が平気ではないことが分かっていた。
前にサスラと戦った時にはなんともなかったが、今のわたしは生身だ。
死刑執行人が霊的存在とはいえ、人としてでもあるし、感情や心だってあるものはあるし・・・。
「あ、あはは・・・」
「・・・やはり、大丈夫じゃないか・・・」
受けた時だけ、ちょっとクラッときただけ。
「いいの・・・」
わたしは、まだこれだけではないと思った。
「ま、まだ・・・、あるんです・・・よね?」
「あぁ、あるとも・・・」
最終執行人は再び、鎌をわたしに目掛けて降り下ろした。
「うぐ・・・っ・・・」
「明日奈よ。お前は、お前の罪を自覚しているか?」
わたしにある罪と言えば、わたしがわたしではなかった経験をして、何も感じなかったこと。
そして、死とは無関係の人を100人は殺したことだ。
わたしは、それらを言った。
「・・・まだ、足りぬのか?」
「・・・!」
最終執行人は鎌を再び振り上げた。
「やめてください!」
「・・・もう一度、お前の本当にやりたいことを見直してみるといい・・・」
そして、最後の一撃がわたしに目掛けてきた。
「う・・・」
わたしは、その場に倒れた。
「明日奈!」
「・・・明日奈はここで死んだのだ・・・」
「どういうことですか?」
「それは、お前も確かめてみるといい・・・」
そう言うと、最終執行人はサイズの核を鎌から取り外した。
「明日奈とサイズよ。お前たちは、何もない状態からやり直してみよ・・・」
そしてその後、わたしやサイズに何があったのは、全く分からなかったのであった・・・。
「サイズよ。お前も罪を償うといい・・・。『叶えられなかった願い』という罪をな・・・」
最終執行人はそう言い残して、わたしたちをどこかへを担いでいったらしい・・・。

***

――わたしは、アスナ。
近くには、ユウという幼なじみ・・・ううん、結婚を決めた人がいる(思い込みである)。
「・・・ユウ、何をしているの?」
わたしは、ユウが指揮をしている部隊の隊員として活動している。
「何って・・・。アスナには、何度も教えたはずだろ?」
「あ、ああ・・・。それって、わたしのためのリボン?」
「ち、違う、からな・・・」
そう言って、いつもわたしにプレゼントしてくれている。
「俺は、青より赤の方がいいと思うけどな」
「いいの。わたしは、青の方が好きなの」
「そうか・・・」
ユウはリボンをくれた。
「・・・さて、行くか!」
「はい!」
そして、わたしたちは今日を生き続けていくのであった。
・・・そう。これは一人の少女が願ったことなのである。