本編1 〜光と闇の終わりなき伝説へ〜

夏になろうとする春の終わり。
段々熱さを感じるこの頃になると、学園の生徒は用もないのに図書館へと入ってくる・・・。
なんてことがあればいいであろうと思うのだが、図書館自体に涼しくなるようなものはなかった。
「あーあ、こうも熱いとだるいわ・・・です」
カウンターでへばっている沙奈の前に一人の少女が現れて、こう言った。
「沙奈、だらしないわよ。しっかりしなさい!」
彼女は沙奈を無理矢理起こして、シャキッとさせた。
「なんなのですか!?」
彼女は田園香音(たその かのん)。自称学園の風紀委員である。
「服装は乱れているわ、学園の生徒としてだらしがないわで、ダメダメね・・・」
「何を言っているのですか。他の人だって・・・」
「他の人がやっているから、と言うわけでしょ。それじゃダメね」
「あうぅ・・・」
だが、彼女はこんな目的でここに来たわけではなかった。
「沙奈。あなたって物語の中に入れる羽ペンを持っていたわよね?」
「はいです。ここにあるのですよ」
そう言って、沙奈は彼女に羽ペンを見せた。
「・・・なるほどね」
「そんなに珍しいものではないと思うのですよ?」
「いや、珍しいわよ。だって、この話にも入れるんでしょ?」
そう言って香音は一冊の本を見せた。
沙奈はそれを手にとって見てみる。
「・・・これ、やだ」
「ちょ、ちょっと・・・」
「この話、好きじゃないです」
「沙奈・・・!」
沙奈はある作家のファンで、その人の戦記物が特に好きだった。
香音が渡してきたのは、好きな作家でもない恋愛物だった。
「人の本を投げ捨てるのはよくないわよ」
「ごめんなさいですよ・・・」
「・・・いいわ」
少し不満そうながらも、彼女はこう続けた。
「でも、本当にお話の中に入れるのなら、沙奈が好きなものでもいいからやってみせてよ?」
「うん。分かった」
沙奈は今読んでいる、『エンドレスストーリー 第1期巻』を出した。
「エンドレスストーリー?」
「そうなのです。エンドレスストーリーは永久未完と言われるほど、終わりがない物語が現在は3つ繋がっているの」
さらに、沙奈の説明は続く。
「第1期は初代の作品で、知名度が低かったせいか、あまり売れずにすぐに幻となってしまったものだと言われているほどで・・・」
香音はこのまま続けられても大したことはないと思い、話を止めた。
「もういいよ。早くやってよ?」
「・・・分かったのですよ・・・」
沙奈は、最後まで話を聞いてくれなかったことが悲しかった。
彼女は本の上に羽ペンを置いた。
そして、呪文のようなものを言った。
「物語の扉よ。物語の鍵をもって、我が前に道を示せ!」
すると、羽ペンが突然光りだした。
沙奈と香音がその光に包まれるかのように浴びた。
急に体が浮いた感覚がした。
「な、何なのこれ?」
「・・・これだ・・・」
沙奈は初めて物語りに入った時の感覚を思い出した。
そして2人は、何かに吸い込まれていくように光の中に消えた。

***

――ここは光と闇が2つに別れている大陸、ヴェルゼウス大陸である。
その大陸では7つの国が、それぞれの領地を小さいながらも持っていた。
過去の戦争から、100年が経った今、再び過去の戦争を起こさんとするものがいた。闇の国である。
闇の国は、過去では光の国と力が互角であり、最後まで戦争を続けた二国は、ある裏方によって終戦まで持ち込むことができた。
しかし、また闇の国は光の国を滅ぼすために戦争を始めようとしているのである――。

光の巫女であるセーナ。
彼女は父親である光の国の王から、闇の勢力下になってしまった5つの国を救うために5つの国の救出に向かっていた。
彼女は、兵を持たない単騎だったが、彼女の力があれば大丈夫だろうという、過度な期待を込められたものだった。
だが、彼女は何も気にしてはいなかった。
「急がなければ・・・」
急がなければ、救出ができなくなってしまう。
焦るセーナだったが、闇の国の兵に街道を歩いているのを見つかってしまった。
「光の巫女!? 始末しろ!」
見つかったことに気づいた彼女は驚いた。
「な、なんで、こんなところに・・・!?」
「お、おい、誰か、何とかしろ・・・!」
「(早くしないと、本当にやられそうだわ・・・。逃げよう・・・)」
セーナは走った。
「なっ!? に、逃がすか!」
「追うぞ!」
逃げてから3分経とうが、5分経とうが、兵士はまだ追ってくる。
「意外としぶとい。いいえ、早く上手くまけるところを見つけないと・・・」
すると、目の先に手招きをしている手が見えた。
「こ、こっち。」
それはそう言った。
「う、うん・・・。」
セーナは、それに対しての疑いもなく手をつかんだ。
しばらく経つと、兵たちはそのままセーナのいる場所を横切っていった。
「あ、ありがとうございます・・・」
セーナは相手に礼を言った。
「い、いいよ。わたしは大したことをしていないですし」
そう言うと、少女はセーナに対して希望を抱く目をした。
「光の巫女セーナさまですよね!?」
「え、ええ。でも、どうしてわたしをご存知なの?」
「わたしね、火の巫女なの。」
「あ、あら、そう・・・」
セーナは驚いた。
火の巫女である彼女は、火の国の現在を話した。
「お父さんのおかげで何とか戦場となっている城は脱出できたけど、光の国へ行こうかと迷っていたの。でも、ちょうどセーナさんが現れてくれてよかったよ。」
「現れた、というか、助けてくれたのはあなたよ。ところで、確か、あなたの名前は・・・?」
「ああ、最近光の国しかいなかったでしょ。10年も会っていないとなると、しょうがないか・・・。わたしはクリス。ファーストネームは少し長いから、このぐらいでいいよ」
「ご、ごめんなさい。わたしはお父さんに止められていたから。・・・クリスね。改めてよろしくお願いします」
「は、はい。こちらこそ・・・」
話が落ち着こうとしていた頃、突然セーナとクリスのところだけ空が暗くなった。
それに気が付いたクリスは、上を見上げた。
「セーナ! う、上に・・・!?」
「え?」
セーナも上を見上げた。
よく見てみると、人が空から降ってきているではないか!?
2人は慌てて受け止めようとした。
「うわわっ!?」
「わわっ!?」
ドドーンッ!
2人はそれぞれ1人ずつの下敷きになった。
「あいたた・・・」
「こ、ここは何処なのよ?!」
2人の少女・沙奈と香音が、空から落ちてきた。
言わずとも分かるが、羽ペンの力によるものである。
「あ、あの・・・」
「いい加減、降りてくれませんか?」
セーナとクリスの声に気づいた沙奈と香音は、2人の上に載っていることに気づき、急いでどいた。
「ご、ごめんなさいなのですよ・・・」
「す、すみません・・・!」
「正直、慌てました」
「そうだよ。何もないところから人が落ちて来るんだもん」
そして、セーナとクリスは、沙奈と香音がどうして上から降ってきたのかを聞いた。
それを聞いた沙奈と香音はどうしてそうなったのかを話した。
「実は、これを本の上に乗せたら・・・」
そう言いながら、沙奈は無意識に羽ペンを持っていた。
「あ、あれ・・・。なんでここに羽ペンがあるのですの?」
「沙奈。ここって本当にお話の中なの?」
聞いても訳が分からなかったセーナとクリスはとりあえず話を合わせてみた。
「うーん・・・。あなたたちから見れば、お話の中になるのかな?」
「お話の世界・・・」
「あ、あの・・・」
「あーっ。予想とは違うけど、こんな感じですぅ」
突然、沙奈が騒いだ。
「な、何なの!?」
「えっと・・・」
沙奈は左にいた少女を、指差してこう言った。
「セーナさん?」
「えっ、あ、はい・・・」
続いて沙奈は右にいた少女を、指差してこう言った。
「クリスさん?」
「なっ!? なんで、わたしたちの名前を知っているの?」
「あの、わたしたち言いましたよね?」
そして、香音はこう言った。
「わたしたちはお話の世界の中にいるのか、って・・・」
「そ、それは・・・」
「なんか、不思議なことだけど、一応、名前が知られている以上は・・・」
クリスは携えていた細身の剣を構えた。
「さあ、闇の国の兵よ。かかってきなさい!」
「ちょ、ちょっと・・・。沙奈、なんとかしなさいよ!?」
現実の世界とは全然違う状況の中、香音は手も足も出なかった。
彼女が沙奈にすがりつくと、沙奈は何とかしようとした。
だが、彼女が持っているのは、羽ペン1本のみだった。
「ううぅ・・・」
沙奈はただ、唸っていた。
「武器とか、ないのね・・・」
それでもクリスは、容赦なく沙奈たちに襲いかかろうとした。
しかし、寸前でセーナが止めた。
「待ちなさいよ。武器を持たない人まで斬る必要があるの?」
そう言われたクリスは、思いとどまった。
そして、構えていた剣を収めた。
「・・・ないわね。確かにこの2人はどこの者なのかが分からないけど、闇の国の者ではないのは分かった気がするわね」
「そうね。この子達は何かを知っていそうだし、話せば協力してくれるかもしれないわ。今はできるだけ、戦力がほしいから」
「・・・ま、そんなことならいいわ。」
セーナとクリスは2人を受け入れることにした。
そして、クリスがこう言った。
「あなたたちって、ここを取り戻しに来てくれたんだよね?」
沙奈が答えた。
「そういう・・・ことになるのですよ・・・多分」
「よし。それじゃあ、戦力がないけど、この4人でやってみますか・・・」
「ちょっと厳しいけどね。いや、ちょっとどころじゃないかも・・・」
こうして、沙奈と香音はセーナとクリスに協力することになった。

***

火の国の城へたどり着いた。
そこでは、国を取り戻そうとする抵抗勢力と、国を占拠した闇の国の勢力が外でぶつかり合っている。
4人は、戦場から少し離れた木陰に身を潜めていた。
そこでクリスが作戦の指揮をした。
「早速だけど、城へは別の入り口から入るわよ」
「ええ。分かったわ」
「それと、抵抗勢力が潰えたら、城の中に戦力が集まってしまうから、できるだけ素早くやりたいんだけど・・・?」
問題視されるのは、やはり沙奈と香音だ。
「そっか・・・。2人とも、ここからは危険だから、残念だけどここにいてくれませんか?」
それでは意味がない。
沙奈はそう思った。
「待ってください!」
沙奈は声を大きく上げた。
「・・・遊びじゃないんですよね。分かっているんですけど、さなはセーナさんと一緒に戦いたいのですよ!」
沙奈をその気にさせたら、誰も止めることはできなかった。
「ったく・・・。あたしは何もできないけど、沙奈を護らないといけない気がするなぁ・・・」
2人の決意とまではいかなかったが、それを聞いたセーナとクリスは、
「・・・分かった。でも、無理だったらさっさと諦めてよね」
「沙奈ちゃんが望むなら・・・。でも、武器も何もないのに、厳しいと思います」
と言って、沙奈と香音を受け入れた。
「ありがとうなのですよ!」
「あ、はい。ありがとうございます・・・」
そして、2人の武器の問題が気になったが、それはすぐに解決された。
突然羽ペンが光りだした。
そして、沙奈はこう言い出した。
「新たなる創造主よ。新たなる持ち主よ。己(おの)が望む姿に我は変わる・・・」
すると、羽ペンが羽の剣へと姿を変えた。
「な、なんなのこれ!?」
「す・・・、すごいっ! すごいのですよ!」
そしてまた、沙奈は何かの声を聞いたような気がした。
「沙奈・・・?」
沙奈が固まっている。
声を掛けても、体を揺らしても反応がなかった。
「沙奈ってば!?」
「は、はいですの!?」
「ふぅ・・・。どうしたのよ、一体?」
沙奈はこう答えた。
「声・・・、声が聞こえたのですよ」
そう言われたが、他の3人には聞こえなかった。
「そう・・・なのですか・・・」
彼女は聞いたことをそのまま言った。

『新たなる主よ。我に真の名を示せ。さすれば、己が望む力を開放できよう・・・』
『・・・本当に羽ペンなの?』
『そうだ。だが、主は様々なものを我に見せた。そして、我も主の願いに全力を注いだ』
『・・・とにかく、名前をつければいいのですか?』
相手は頷いた。
そして、沙奈はそれに名前をつけた。
『はね☆ペン』
『我にそのままの名を与えようというのか?』
さすがに、それも驚いていた。
『違うのですよ』
沙奈は名前について説明した。
それを聞いて、それは初めてのことに笑った。
「ははは。そのようなことは初めてだ。己こそ、主に相応しい。我が力、己が望む世界のままに扱うがいい・・・」

***

4人は隙を見て城に入ることができた。
とにかく、最上階にある王室へと向かうことになった。
戦いの中で気になったのは、一人の少女だった。
「沙奈ちゃん?」
「はい、何ですか?」
「香音ちゃんって戦えるの?」
「武器も持たないのに、戦えるわけないじゃない」
クリスがそう言ったが、香音にはある特技があった。
「ふっふっふ。あたしにはこれがあるのよ?」
そう言って、彼女は拳をクリスに素早く繰り出した。
「おっと・・・」
「一応、護身や天罰の時に役に立つんですよね・・・」
彼女は風紀委員のために護身術や空手を覚えていた時があったそうだ。
「すごいのですよ・・・」
「そういえば、沙奈にも教えていなかったっけ・・・?」
格闘技では、戦力を弱らせるだけで、人が死んだりすることはない。
「その場しのぎでもいいわ」
「そうだね・・・」
その後、立ちはだかる数々の敵を前にした4人は、どんどん敵を倒していった。
そして、最上階の王室の前に立った。

***

王室に入ったが、誰もいなかった。
「・・・誰もいないわね」
「来る場所、間違えたんじゃないの?」
「そうかも・・・」
そうクリスは言いながらも、近くにあった机の引き出しを探っていた。
「セーナ。これに光の力を注いでほしいんだけど・・・」
「ん? 何、これ?」
セーナはそれを受け取った。
「魔法具セイントレアリング。これで闇の勢力を止めることができるわ」
「それはそうだけど、これって・・・」
「そうだね。注ぎ込む魔力が莫大な量必要なのよね・・・」
ひとまず、ここで発動させても意味があることから、セーナはセイントレアリングに魔力を注ぎ込むことに集中し始めた。
「セーナの所に敵が来ないように、敵を追い払わないとね」
「それと、ここの指揮者を探さないと・・・」
3人は、敵を追い払いつつ、クリスの案内で所々探した。
地下牢に着くと、大変なことになっていた。
「な、何よこれ!?」
そこには、数々の死体がそこらじゅうにあった。
そして、その中で一人の少女が立っていた。
「あ、あなたは・・・!?」
「レイナさん!?」
沙奈は思わず、少女の名を言ってしまった。
彼女は少々驚きながらも、こう言った。
「あ、あら、初対面なのにわたしの名前を知っているのね・・・」
レイナはこう続けた。
「不思議な子が2人も・・・。新しい国の子達なの?」
沙奈はこう答えた。
「お話の世界からやってきたのですよ!」
もはや、この世界がお話の中だと思い込んでいた。
「何言ってるのかさっぱりだわ・・・」
レイナは沙奈を不審に思った。
「ちょっと!?」
勢い余る沙奈を、香音は強引に止めた。
そして、彼女はレイナについてクリスに訊ねた。
「この人って、敵なの?」
クリスは答えた。
「そうよ・・・。レイナは、闇の国の巫女よ」
レイナは言った。
「・・・そうね。確かに敵だけど、わたしは全てを知っている・・・」
そう言って、彼女は去って行った。
「待って!」
クリスはレイナを引き止めた。
「何?」
「あなたはここで何をしたかったの?」
「・・・」
レイナは何も言わずに再び去って行った。
「レイナ・・・」
クリスはどうしても気になったが、自分が相手にされることはないと思った。
「追わないのですか?」
香音がそう言ったが、クリスは一切行動を取らなかった。
「とにかく、セーナさんのところにもどるのですよ!」
「・・・そうね。そうしましょうか」
そして、3人はセーナのいる王室へ向かった。

***

一方、その頃・・・。
「あと、もうちょっと・・・」
セイントレアリングに魔力を注ぎ込んでいるセーナは、初めてのことに手こずっていた。
そんな彼女のもとにレイナがやってきた。
「ふふっ。大変そうね?」
「なっ、あなたは・・・!」
セーナは詠唱の構えを取った。
だが、レイナには戦おうという意思はなかった。
「レイナ?」
彼女をおかしく思うセーナに対して、彼女はこう言った。
「・・・手伝おうか?」
「・・・え?」
敵である彼女から信じられない言葉が出た。
セーナは驚いた。
「何? このままセイントレアリングにあなたの魔力を注ぎ込む気なの?」
「そ、それは・・・」
「死ぬよ。でも、運がよくても二度と魔法が使えなくなるかもしれないというのに・・・」
親切に声を掛けるレイナであっても、セーナは疑いを晴らさなかった。
セーナの態度を見た彼女は、当然の結果だと思った。
「・・・ダメで元々、だったわね。これからどうなるのかも分からないというのに・・・」
「・・・!」 「今回だけでもいいわ。信じろとは言わない」
魔力を注ぎ込み続けているセーナに、魔力が尽きた。
「・・・」
「ギリギリっていったところね・・・」
魔力で満たされたセイントレアリングは光り輝いていた。
セイントレアリングに魔力を注ぎ込んだセーナはそのまま倒れそうになった。
それを、レイナが受け止めた。
「・・・まったく、あなたっていう人は・・・」
「この力を解放すれば、相当な力になるわね・・・」
今の状態で魔法を使うことができないセーナは、近くにいるレイナを見届けるしかなかった。
「ごめん・・・、負けたわ」
「何言ってるのよ? 本当に今回だけだからね・・・」
そう言って、レイナはセーナからセイントレアリングを受け取り、それを上に掲げた。
「やれるもんなら、やってみろ! それが、わたしの自分への道さ!」
すると、セイントレアリングは激しい光を放った。
そして、火の国中がその光に包まれた。
そして、闇が晴れて、戦いは静かに終わったのであった。
「・・・こんな光を求めて、ずっとさまよっていた」
レイナはこう続けた。
「・・・みんな、この世界の光を受けたいのよ・・・」
彼女は、疲れて眠っていたセーナを壁沿いに寝かせて、そのまま去ろうとした。
しかし、扉を開けようとした時に、クリスたちと鉢合わせをしてしまった。
「レイナ!?」
レイナを押しのけて強引に部屋に入った3人は部屋の現状を見て、クリスがこう言った。
「レイナ?」
「彼女は、頑張ったんだ。休ませてあげて・・・」
「そう・・・、分かったわ」

***

2日後・・・。
国の西外れに5人はいた。
「レイナ、つき合わせてごめん・・・」
クリスは、レイナをずっと引き止めたことを謝った。
だが、レイナは元々様子を見るつもりでいた。
「よかったね・・・。さすがに、光の巫女か・・・」
レイナはセーナを気にかけていた。
「あ、ありがとう・・・」
沙奈はあることが気になっていた。
「レイナさん?」
「ん、何?」
「『全てを知っている』って、どういうことなの?」
レイナはこう答えた。
「さすが、エディターに選ばれた少女だな・・・」
「え?」
「エディター?」
レイナは続けた。
「世界を護ろうとする者が、他の物語にもいるのは分かるわよね?」
「えっと・・・」
沙奈は作者が同じ話をいくつか述べた。
「そう・・・。まだそんなにも・・・」
何が何なのか訳が分からなくなっているセーナが割り込んだ。
「ちょっと!? どういうことなの?」
レイナが言った。
「世界が、何者かによって支配されようとしているのよ」
「いや、それは・・・」
「そうね、確かにわたしたち闇の国のせいよ」
「それなら・・・!」
だが、彼女からは意外な答えが返ってきた。
「そうね・・・。すぐにでも、皆に協力を仰いで闇の国へ行きたいわよね?」
「そうよ!」
「でも、それをやっても無駄なのよ?」
それを聞いたみんなは驚いた。
「な、何でなのです?」
レイナは答えた。
「この世界が繰り返されるからよ」
それを聞いた香音はそれが普通だと思った。
「でも・・・!? それって、物語・・・いえ、本の中としては普通のはずでしょ?」
「そう答えると思いますね。でも、このままだと『主の世界』が融合してしまうのよ・・・?」
「どういうことなの?」
彼女は続けた。
「沙奈が言ってくれたけど、わたしたちの世界の他に、わたしたちが見たこともない世界があるっていうことは分かったわよね?」
セーナとクリスは頷いた。
「ええ。そうみたいね」
「どの物語も、世界があり、全てがあるのだけれども、その中の世界が他の世界と融合できてしまうように書き換えられようとしているのよ」
「世界を、書き換える・・・?」
「そう。この世界はまだ書き換えが始まったばかりだけど、早くしないと手遅れになるのよ」
話が段々分からなくなってきた。
そうセーナは思って、こう割り込んだ。
「あ、あの・・・。戦争は闇の国の誰が起こしているの?」
レイナが答えた。
「それは、この物語、いえ、『主』の物語の全てを知る沙奈なら知っているはずよ?」
そうやって振られた沙奈はこう言った。
「た、確かに知っているのですよ。でも、話してもいいのですの?」
「事態は急を要する。今は協力が必要よ?」
「・・・分かったのですよ」
彼女はそう言うと、簡単に物語の終わりを言った。

戦争に敗れ続けた闇の国は、第一王女のレインの革命によって国の仕組みを変えられた。
一方、光の巫女セーナは、他の国の巫女と闇の巫女レイナと共に闇の国へ攻め、激戦の末、終戦協定を結ぶことによって戦争を終わらせた。

これが、簡単な結末である。
「そう・・・」
「やっぱり、光が勝つんだね」
「ええ。それが普通と思ってもらっても構わないけど・・・」
レイナはこの世界で起きている異常について、話を戻した。
「・・・と、話を分かってもらえたところで、今この世界で起きている異常について、先に話しておいたわよね?」
「ええ。このまま物語を繰り返してはいけないっていう奴ね?」
「そう。このまま物語を繰り返していくと、世界のひずみが大きくなって、だんだん他の世界との境界がなくなっていってしまうのよ」
「じゃあ、どうすればいいのですか?」
当然、彼女はこう言った。
「世界のひずみを作り出している原因を消せばいいのよ」
世界のひずみの原因を消すことができるのは、沙奈か彼女に大きく関わっている者のみである。
しかし、沙奈は世界のひずみを作り出しているものが全く分からなかった。
「そうね・・・、悪いけど、わたしにも分かっていないの」
「じゃあ、誰にも分からないのね・・・」
「わたしは、この世界に起きていることだけしか分からなかった。でも、エディターならもっと分かると思っていた」
「あ、あの・・・、そんなの、さなには分からないのですよ?」
全員で悩んだ。
その末、一つの結論に至った。
「まずは、このお話を終わらせなければいいのよね?」
「そう、そう! それがあったわ!」
レイナはそこまで思いつかなかったかのように、セーナの意見に賛同した。
セーナは話を続けた。
「お話を終わらせないようにするには、とにかく、戦争を終わらせないようにすればいいのよね・・・?」
「でも、これ以上闇の侵攻は許せないわよ!」
「ううん。沙奈から聞いた『このお話結末』を達成しなければ、お話が終わることはないわ。だから・・・」
そう言って、セーナはクリスにある相談をし始めた。
その間、レイナはひずみの原因を探す方法を沙奈と香音に相談を持ちかけた。
「エディター沙奈。あなたなら分かると思うのよ・・・、この世界に存在してはならないものや、この世界のどこかが違っているとか・・・」
沙奈と香音は思い出してみた。
少しして、沙奈がこう言った。
「レイナさんって、エルナっていう人はご存知ですか?」
「エルナ? ええ、姉様の近衛兵ね?」
「うん。彼女って今どうしているの?」
レイナはこう答えた。
「・・・そういえば、最近見かけていないわ。ううん、何か違うわね・・・」
レイナはそう言った時、あることが引っかかって言葉を止めてしまった。
「どうかしましたか?」
香音がレイナを気遣った。
落ち着いたレイナはこう言った。
「ううん、エルナっていう人自体いないわよ?」
「え? どうしてなのですか?」
「いるはずなんだけど・・・、いないのよ」
「どういうことですか?」
レイナは言った。
「どうしてだろう・・・? わたしも姉様も幼い頃にはずっと護ってくれていたのに・・・」
「ねえ、沙奈? そのエルナっていう人が、世界のひずみを作り出している原因っていうのと関わっているんじゃないの?」
「そうなのですよ、多分エルナさんが関わっていると思うのですよ!」
沙奈は何も考えずに、ただただ香音の言う事につられていた。
「・・・かもしれないわね。でも、エルナは今はどこにいるのかしら?」
3人は悩んだ末に、こんな結論を出した。
「えっと・・・、闇の国っていう所に行ってみませんか?」
そう香音が言った。
レイナは不確かなまま動きたくはないと思ったが、それに乗りかかるしかないと思った。
「・・・しょうがないわ。今はさっさと戻らないと怒られてしまうわ」
レイナは自分が帰るついでに、沙奈と香音を闇の国へ連れて行くことにした。
「セーナ?」
レイナは帰り際にセーナに声を掛けた。
「わたしたち、行くね?」
「え?」
クリスが言った。
「沙奈たちも連れて行くの?」
「ま、まぁ・・・ね。こっちに必要な手がかりがまだないからね?」
「そっか・・・。こっちはこっちなりに作戦が決まってきたから」
「うん。それじゃ、せいぜい頑張ってね」
そう言って、セーナたちは先に水の国へと旅立っていった。
その後、レイナたちは闇の国へと向かっていった。

***

沙奈たちは闇の国に着いた。
レイナは早速王間へと向かうことにした。
「沙奈たちはこの部屋にいてくれる? すぐに取り次げると思うから・・・」
「あ、うん。分かったのですよ」
レイナは沙奈たちを客間に入れた。
そして、彼女は不穏な気配を感じた。
「・・・誰か、いるんでしょ?」
奥から声が聞こえた。
「遅かったわね、レイナ?」
「姉様!」
現れたのは、レイナの姉であるレインだった。
「遅いお帰りね?」
「すみません・・・」
「ま、それでもよかったけどね」
「はい?」
すると、突然レインはレイナに剣を向けた。
「な・・・っ!?」
「どうやら、わたしたちの邪魔をしているようね?」
「そ、そんなこと、ありませんっ!」
「どう弁解しても無駄よ?」
そして、彼女から信じられないことが告げられた。
「あの子、エルナが帰ってきたのよ?」
「えっ!?」
「エルナってば、長い間仕事をほっぽりだしていたのよ・・・。おかしいと思わない?」
「あ、あの・・・」
レイナが何かを言おうとしていた時、彼女の後ろから誰かが現れた。
「ご無沙汰してました、レイナお嬢様」
「!?」
エルナはレイナにこう言った。
「さっさと終わらせてくださいよ?」
「分かっているわ」
2人の間で合図が交わされると、エルナも武器を構えて、レインと共にレイナに襲い掛かった。
「な、何なの!?」
絶体絶命のレイナ。
そこにある助けがやってきた。
「レイナさん!」
すると、彼女の目の前で沙奈がエルナの武器を剣で受け止めていた。
「沙奈! 何も考えずに突撃しないでよ!」
香音はレインの武器を白羽取りして、ギリギリ助かっていた。
「す、すまない・・・」
レイナも体勢を立て直し、剣を構えた。
「・・・やるしかないのなら・・・」
彼女は姉であるレインに剣を向けた。
「何がどうなっているのかはまだ分からないけど、このままお母様が黙っているわけがありませんよ!」
それに対してレインはこう言った。
「お母様? あの人なら、死んでもらったわよ!」
「え・・・っ!?」
「今、この世界を変える時だというのに、光の国に怯えている奴なんか必要ないしね」
母親を殺しても平然でいる彼女を、レイナは許さなかった。
「光の国に怯えているって? いいえ、お母様はちゃんとお考えになっていて・・・」
「なら、どうして他の国を落とさずにいたわけ?」
「それは・・・!」
2人の遣り合いの中で、エルナが割り込んだ。
「いよいよ時間ね・・・。これでもう、レインお嬢様やレイナお嬢様が困ることもないはずです」
「ど、どういうこと?」
「何を仰っているのですか? これから闇の国の時代になるんですよ。喜ばないのですか?」
「・・・」
レイナは微妙な位置に立たされていた。
このまま、セーナたちを敵に回してまでエルナのいう闇の国の時代を待つのか、それとも、エルナを止めて世界を正しい形に戻すのかを迷っていた。
「お嬢様方にとっては理想な姿ですよね?」
「エルナが光の国に絶対勝てるというのなら、どんなことだってするわよ!」
国か。世界か。レイナはそう簡単に決められなかった。
だが、沙奈と香音は2人にこう言った。
「いいの? 世界がなくなっちゃうんだよ?」
「このまま世界の融合をさせたら、全ての世界が滅んでしまうわね。そんなことしたら、あなたたちやこの世界に住む人たちや色々なものが変わっていってなくなってしまうわよ? それでもいいの?」
「え? 世界の融合って? わたしたちだけじゃなくて、この世界全てが滅んでしまうって?」
レインは何も知らなかった。
2人の言葉を聞いて、彼女に迷いが生じた。
だが、エルナは動じなかった。
「レインお嬢様、騙されてはなりませんよ。この子たちが言っているのは全て嘘なのです。」
「そう、なのね・・・」
レインが納得しかけていた時、レイナがこう言った。
「いいえ。沙奈たち、いえ、この子たちが言っていることは本当です!」
彼女はレインに全てを話した。
「・・・そんな!?」
「姉様は未来を知っているようなので、この先どうなるか、いつ何が起きるのかを知っているようなので、沙奈に話を聞いてみてください」
そう言われた彼女は、沙奈から話を聞いた。
そして、話を聞いた彼女はやけに落ち着いていた。
「・・・そう、結局早めたってことね・・・」
そして、レインはレイナと戦うのをやめた。
「エルナ。あなたはどうしてこんなことを?」
エルナは言った。
「あーあ、せっかく世界に真の平和がやってくると思ったのに・・・。どうやら、思っていたほど甘くはなかったようですね?」
そして、彼女は辺りに煙幕を張った。
「な・・・っ!?」
「やられたわ・・・」
煙が晴れると、既にエルナの姿はなかった。
だが、声が聞こえた。
「あははは・・・。陽気なものね? このまま物語の役者を演じることが生きがいなら、愚かなことよ・・・」
そして、声は笑いと共に消えていった。
「物語の役者を演じるも何も、エルナのせいで演じていないわよ」

***

レイナはエルナの行方を追うために国を出ようとしていた。
「・・・手がかりもなしで、どうする気なのよ?」
レインがレイナを止めた。
「姉様・・・」
「エルナはこの大陸の北にある時の島に行ったと思うわ」
「時の島?」
「この世界の過去も未来も分かる時の国が支配している島よ。まぁ、島全体が時の国だと思ってもいいわよ」
レイナは、どうしてエルナがそこへ行ったのかを疑問に思った。
それに対して、レインは答えた。
「推測だけどいい?」
「あ、はい」
「時の島は時空を操ることができると言われているの。多分、レイナが言った『世界のひずみ』っていうのを発生させられやすいと思うのよ」
「そうなんだ・・・」
しかし、レイナは、エルナの言っていた光の国に絶対に勝てる方法が何なのかが分からなかった。
「でもどうして、時の島と戦争に必ず勝てるというのが結びつくの?」
レインはエルナに教えてもらったことをそのまま答えた。
「えっと・・・。なんでも、そこでセンカンとか、すごい武器とか、巨人兵とか・・・が呼び出せるって言っていたような・・・?」
「え・・・?」
レイナには訳が分からなかったが、沙奈たちには分かった。
「兵器・・・」
「センカンって、空を飛ぶ船って感じの?」
「うーん・・・。わたしにもよく分からなかったけど、そんな感じだったような気がするわね」
「さ、沙奈、香音・・・?」
レイナは2人にいろいろとどういったものなのかを聞いた。
2人はそれぞれレイナに説明をした後、彼女は理解をした。
「この世界のものではないのは分かったわ」
「つまりは、光の国にないものでやっつけるという卑怯な手に出ようとしたのですよ」
「沙奈!」
「あ、ごめん・・・なのですよ」
とにかく、エルナを何とかするために時の島へ向かうことにした。
「レイナ!」
「あ、はいっ!」
「気をつけて・・・。あと、終わったらすぐに帰ってきなさいよね!」
「うんっ!」
レインは物語に支障が出ないように、国に残ることにした。
そして、レイナと彼女によってきっかけが与えられた2人はエルナの陰謀を止めるべく、時の島へと向かった。

***

時の島へは、船に乗って向かうことにした。
もちろん、時の国は既にエルナの手に落ちていることを考えて、上がれる場所を探して上陸することにした。
船はセーナに話を掛け合って、借りることができた。

上陸地点は、城下から離れたボートの停留場に止めることにした。
そこから東へ向かって、城下を目指した。
だが、城下はとても静かだった。
「なんか、さびしい所ですよ・・・」
「ここって無人島ってわけじゃないよね?」
「そのはずよ。とにかく、城へ向かいましょう・・・」
そして3人は城に向かった。
「正面からだと大変だけど・・・」
「さなはいつでもどこでもOKなのですよ!」
「沙奈がよくても、わたしたちはまだ・・・」
「1、2の、3! でいくわよ?」
2人はその合図を受け入れ、3人で慎重に物陰に隠れて潜んだ。
そして、しばらく時間が経った・・・。
「行ける! 1、2の・・・3!」
レイナの合図で3人は一斉に飛び出した。
そして、何事もなく城に入ることができたのであった。
「よし、突破ね!」
「番兵を一斉に叩けたからね・・・」
「このままどんどん進もう、なのですよ!」

***

城の中はとても静かだった。入り口で一騒ぎがあったというのに・・・。
「侵入者がいるというのに、どうしてこんなに静かなの?」
「たくさん人が来ると思っていたけど、意外ね・・・」
「なんか、緊張感に欠けるよね・・・」
沙奈は期待していた状況と全く反対のことが起きたので、個人的に不満を持っていた。
「兵たちが来ないのなら、そっちの方がいいわよ」
「・・・だよね!」
「(沙奈ってば・・・)」
3人はとにかく先へ進むことにした。

時の間と呼ばれる、城の奥地にエルナがいた。
「・・・よくここが分かったね?」
「ええ。あなたがここにいるのは誰でも分かったわよ」
「そう・・・、ですか。理由がどうあれ、わたしを止めに来たのは分かっています。だから、ここでエディターも共に死んでもらいますか!」
エルナはそう言って、武器を構えた。
それに対して、3人も武器を構えた。
「エルナ! どうして突然いなくなったの!?」
レイナの問いにエルナは答えた。
「わたしは国を思えばのことをしたのです!」
「どうしても必要なの、勝たなければならないことが?」
「わたしは終わらせたかったのです。戦いに苦しむたくさんの人々を見かけてきました。だから、そのために・・・!」
「・・・分かっているのね」
レイナも同じだった。
どの人にも同じ光の下であってほしいのだ。
「力で抑えて、姉様もそんな風には思っていないはずよ。姉様はただやり方が違うだけ・・・」
「終わらせる、絶対に!」
エルナにはもう何を言っても変わることがなかった。
「うああああああああ!!!」
「なっ!」
エルナからただならぬ気が発せられた。
「な、何なのですか!?」
「すごい・・・。これが気迫・・・」
すると、天井に大きな穴が開き、そこからとても大きなものが出てきた。
「出でよ、機工神ギーグ! 我が盟約のもとに、愚かな地上の者共を滅せよ!」
そして、ギーグは徐々に巨人へと化していった。
人はそれを『変形』と言った。
沙奈は『変形』ロボットも好きだった。
「うわぁ、あれって変形するの!?」
「さなってば・・・」
全く女の子らしくなかった印象を持つ沙奈だった。
ギーグを召喚したエルナは不気味な笑いをみせた。
「フッフッフ・・・。この機工神が世界の何もかもを潰してくれるわ!」
ギーグが動き出した。
それは大きな足で沙奈たちを踏み潰そうとする。
3人は何度も踏み潰されようとするが、避けきれていた。
「くっ・・・。このままじゃ、どうしようもないわ・・・!」
「あはは! いい加減諦めなよ?」
エルナはもう我を失っていた。
「何もかも、なくなっちゃえええええぇぇぇ!!!」
すると、ギーグは口を開いた。
そして、そこからビームが出た。
「な・・・っ!? 何もかもありなの?」
「どうにもならないの!?」
ギーグの前では、誰も手も足も出ないのか?
「もう・・・だめ・・・」
レイナと香音は諦めを感じた。
だが、沙奈はギーグに興味津々だった。
「ちょっと、沙奈!?」
「・・・うん」
「何よ? 何勝手に納得しているのよ?」
そして、沙奈は剣で足を叩き始めた。
「何をやっても無駄よ?」
沙奈の不可解な行動に気づいたエルナだったが、何も疑いもせず平気な顔をしていた。
「やった、ここだぁ!」
「え!?」
沙奈がギーグの足を何度も叩いたおかげか、ギーグの左足がもげた。
そしてギーグは、後ろに倒れた。
「なにぃ!?」
沙奈以外、驚きを隠せなかった。
「すごい、沙奈・・・」
だが、ギーグが後ろに倒れたぐらいで終わることはなかった。
エルナはギーグを無理やり動かした。
「まだ・・・。まだ・・・終わらない!」
「もうやめてっ!!」
強行を続けるエルナに、レイナは思いの一言をぶつけた。
「本当に、世界が壊れちゃう・・・。こんなもので本当に世界を平和にできるの?」
「それは・・・」
レイナの喝で、エルナは我を取り戻した。
「わたし・・・」
ゴゴゴ・・・。
召喚主であるエルナが命令をしていないのに、ギーグはひとりでに動き出した。
「ギーグ!?」
「沙奈!」
沙奈は香音に声を掛けられて、すぐさまにギーグの胴体に飛びついた。
「立たせるものですかぁぁぁ!!」
沙奈は飛びついた所に剣を差した。
「グ、ゴゴゴ・・・」
すると、ギーグは立ち上がりもせずに、そのまま倒れた。
そして、爆発を始めた。
「沙奈、早く離れて!」
「わ、分かっているのですよ!」
ギーグは爆発して消滅した。
「あ、ああ・・・」
エルナは戦いに敗れた。
「もう、やめよう?」
助けたレイナがエルナにそう言った。
だが、彼女はやめることはなかった。
「もう、無理なのです・・・」
「どうして?」
「わたしは・・・、この世界の者ではないから・・・」
そう言ったエルナは闇に包まれた。
そして、不思議な恰好をした少女に姿を変えた。
「よくやってくれたのですよ・・・」
「なっ!? エルナが・・・」
エルナだった彼女はこう言った。
「エルナ、ですか? マルチはマルチなのですよ」
「ちょっと、さなを真似しないでなのですよ!」
「なにを言っているのですか? マルチが先なのですよ!」
「むむむ・・・」
沙奈はマルチとキャラが被っていることが気に食わなかった。
「細かいことは気にしない、気にしない」
香音はそう言って沙奈を制止した。
「もう、いいや・・・」
沙奈は諦めることにした。
そして、マルチという少女によって話が進められた。
「あーあ・・・。この世界では失敗か・・・。あの人はどう思うのかな?」
マルチの悔しさがとても伝わってきた。
「あの人って誰?」
「あの人? まぁ、教えちゃってもいいか・・・」
マルチは隠すこともなく話してくれた。
「あの人というのは、わたしのご主人様のユズハさまのことなのですよ」
「ユズハさま?」
「そう、ユズハさま」
そう言うと、マルチは諦めたかのように、自分自身で開いたひずみに入っていった。
「あはは・・・。たとえエディターがいた所で、何も変わらないのですよ」
「なぜそう言えるのですか?」
「だって、ご主人様は『主』の世界を支配する力があるからなのですよ!」
そしてマルチは、高笑いと共にひずみの中に入り、自らひずみを閉じて去っていったのであった。
「エルナ・・・」
レイナは昔のエルナを思い出していた。
彼女に一体何があったのか。どうして、こんなことになったのか・・・。
「沙奈、大丈夫?」
香音は沙奈に気を遣って声を掛けた。
「はい。大丈夫なのですよ!」
「そう、よかった・・・」
いろいろあった3人。
落ち着けるのはいつになるのかは分からなかった・・・。
だが、世界を救うことはできた。
そして、3人は国へと戻っていった。

***

時の島での戦いから、3日が経った。
沙奈、香音、レイナの3人は、この3日間で何とか落ち着きを取り戻すことができた。
そして、本来の物語の筋書きに戻されようとしていた・・・。
「2人とも、ありがとう!」
セーナが沙奈と香音に世界を救ったお礼を言った。
「ううん。いいのですよ。さなは大好きな物語がなくなっちゃうのが嫌だっただけだからなのですよ」
「でも、最初はレイナさんのおかげだよねぇ?」
「そ、そうなんだけど・・・、もう・・・」
皆の中で笑いが起きる。
そして再び、セーナから話が切り出された。
「お礼と言ってなんだけど、これあげるわ・・・」
沙奈はセーナから、純銀のリングをもらった。
「これって・・・!」
「そう、セイントレアリングよ」
「でも、さなには使えないのですよ・・・」
そう言った沙奈に対して、セーナはセイントレアリングを彼女の腕にはめてからこう言った。
「ううん。銀って魔除けの効果があるっていう言い伝えがあるの。多分、セイントレアリングで沙奈は幸せになれるのかもしれないって思って・・・」
「さなは、あまり願掛けは好きではないのですよ・・・」
「確かに銀には魔除けの効果があるって言われているわ。でも、幸せになるというのは当てはまらないと思います」
それを聞いたセーナは少々焦った。
「あ、あら、そうなのですか・・・。でも、レイナが言っていたエディターである沙奈なら、セイントレアリングの力が引き出せるのかもしれません」
「(ありえそうでありえない話にすりかえられたし・・・)」
「で、でも、嬉しいのですよ。お守りとして持っているのですよ」
「ありがとう、沙奈!」
セーナは満面の笑みを見せた。
そして、そろそろ本格的に最後の戦いが始まる時がやってきた。
沙奈たちは物語の世界から元の世界へと帰ろうとしていた。
「・・・本当に、帰れるの?」
最後までセーナは心配になって、2人を見守っていた。
「帰れるのですよ! さなが帰れるって言ったら、帰れるのですよ!」
「沙奈ってば・・・。そんなわがままが通用すると思ってるの?」
「こうすればよしなのですよ!」
そう言って、沙奈は地面に大きなバツ印を描き始めた。
「話、聞いてないし・・・」
絶対これだ、と突っ走る沙奈を知っている香音は、止めることを諦めた。
沙奈と香音のやり取りを見て、セーナは少々心配しかけたが、何とかなりそうと前向きに見ていた。
そして、沙奈がバツ印を描き終わった時、バツ印が光りだした。
「わわっ!?」
香音は本当に帰れそうな気がした。
「ほら、なのですよ!」
2人は光っているバツ印の上に乗った。
その時に、セーナがこう言った。
「レイナが言っていたんだけど、エディターは『主』の世界の物語では白き羽でエディターの想いが物語に届くそうよ」
「な、何のことですか?」
セーナの言うことが理解できなかった沙奈に対して、香音がフォローをした。
「つまりは、物語の世界では、沙奈の思っていることや願い事がはね☆ペンで叶っちゃうって訳よ」
「へぇ・・・」
「多分だけど、そのバツ印の上で『元の世界に戻りたい』と願えば、帰れると思います」
「分かったのですよ!」
そして、光るバツ印の中で、沙奈は元の世界に戻りたいと願った。
「あ・・・」
そして、沙奈たちを大きな光が包み込んだ。
そう、元の世界へと戻れるのだ。
2人の去り際に、セーナはこう言った。
「あなた方なら、他の世界も救えると思います。たとえ、どんなことがあっても諦めないで! 今の心を持ち続けて!」
そして大きな光は沙奈たちを包んだまま消えていった・・・。

***

光は2人をフランシア図書館へと戻した。
「ここは・・・」
「戻ってきたようね・・・」
2人は無事を確認した。
だが、ここで香音があることに気が付いた。
「・・・時間が、進んでいない・・・」
「え? だって、物語では5日もいたみたいなのですよ?」
「でも、わたしたちが物語の中に吸い込まれてから1分も経っていないわよ・・・?」
「気のせいだと思うのですよ・・・?」
気のせいだと思いたい香音だったが、沙奈に流されるしかなかった。
「そう・・・かな・・・、あはは・・・」
そして2人は、物語の中に入る前のことを思い出す。
「・・・この本、はね☆ペン使わなくてもいいや。物語は実際に、自分で場面を想像したり、登場人物を想像して憧れたりしなきゃいけなさそうだからね・・・」
香音は持ち出した本を持って、図書館を出た。
「う、うん・・・。分かった、のですよ・・・」
沙奈の中に珍しい感情が生まれた。
なんか、悪いこと、したのかな・・・。と。
「物語の最後は・・・」
沙奈はエンドレスストーリーを開いた。(※文章は原版写しと多少の編集を加えたものです。)

7属戦争の最後、それはレインの敗戦にあった。
その後、戦犯者として裁かれたが、レイナによって処刑を免れ、女王と巫女の座を下ろされるだけというほぼ平和的な結果になって開放されたのはまた別の話である。

「ふっ・・・。すごいわね、最初は差があったのに。これが心で負けたと言うのね。」
「ええ。わたしにはよく分からないけど、仲間を信じればよく分かるんだって。」
「・・・そう。わたしはお母様を信じていたけど、お母様の考えが急に変わられてしまった時は信じていなかったから、この結果になった・・・。」
「姉さん。あなたはもっと考えていたらこんなことにならなかったかもしれなかったわ。」
「ええ。あなたを殺そうとしたのに、信じてくれるなんて・・・うっ。」
「姉さん!」
「・・・もういたって仕方が無いわ。」
レインはナイフの刃を自分に向けた。
「やめて!そんなことしないで!」
レイナはレインの腕をつかみ止めようとする。
「どうしてこんなわたしを止めようとする。」
レイナの答えはこうだった。
「好きだから。姉さんが好きだから。」
レインはレイナの腕をはずし、ナイフを捨て、こう言った。
「・・・うれしい。でも、わたしはここにいても何も無いからいなくなりたい、消えてなくなりたい。」
レインはナイフを拾って再びナイフを自分に向けた。
「やめて!え・・・。」
レイナは話を続けようとしたが、セーナに止められた。
「何故あなたは死を望むのですか?」
「これは戦争であり、レイナとの決闘でもあるのだ。戦の敗者に残された道は死なのだ。」
「死を選ぼうとしないでください。わたしたちは死を望んではいないのです。本当は人が死んで欲しくは無いのです。」
「わたしに存在価値があると言うのか。なら、生かしておいて損をすることは無いと言うのであろうな。」
「その通りです。あなたにはまだ道が見えます。もう戦争のやり方通りに死を選ばなくてもいいのです。さあ、レイナさんと共にこの国の未来を作り上げていってください。」
「・・・わ、わたしがレイナと・・・。」
「姉さん。わたしは信じます、姉さんが世界を理解することを。」
「ありがとう・・・。そしてごめんね。」
「いいよ。わたしだって・・・。」
レイナは倒れこんだ。
「レイナ!」
エルナがレイナを診た。
「大丈夫です・・・。疲れているだけなので、少し休ませてあげてください。」
「そうですか。安心しました。」
こうして世界に再び平和が訪れた。

その1週間後のことであった・・・。
光の巫女、セーナ。セーナは自分をもっと知るために自分を思ってくれる人が近くにいることに憧れていた。
「あー、わたしにはまだ何かあるような気がしますの。何か分かります?」
「すみません。分からないです。」
「あなたなら、わたしのことが分かるような気がするの。」
「あ、こ、この僕は・・・。」
「うん。いいよ、あなたが守ってくださっているから。」
セーナは立ち去った。
「・・・。」

火の巫女、クリス。クリスは時の巫女レインの約束どおりに時の扉中に入れてもらっていた。
「ここが時の世界。」
「ええそうよ。」
「何か世界が動くと言うのが分かったような気がする。」
「ええ。時は世界を動かします、世界が時を忘れたことはありません。」
「そうなんだ・・・。」

水の巫女セシル。セシルは戦争を書に印した。
「世界を変えることは難しいのかな。」
「いいえ。今でも何かが変わっているのかもしれませんよ。」
「そうなのですか。わたしも世界を変えることができるのかな。」
「はい。相手に伝わればいいのです。」
「そうなんだね。」

風の王子ウェンド。ウェンドは国を守っていた。
「これからはどうすればいいと思うのか考えてみろ。」
「今のままでもいいのです。考えても何も無い場合はそのままでいいのです。」
「そうだな、君は国の様子を見てくるといい。」
「はい、分かりました。」

土の国の長フーシ。フーシはある人に頼まれたことの準備をしていた。
「よぉし、出てきたか?」
「いいえ、まだです。大変ですよ。フーシ様手伝ってください。」
「よし、やるべさ。」
「ありがたき幸せ。」
「大げさだべさ。しっかりやるべさ。」
「はい。」

闇の巫女レイナ。レイナは姉のレインと共に世界を見ていた。
「レイナ、あなたにも国を守る必要があるのです。」
「はい。」
「わたしが困っているときには助けてくれるとうれしいです。」
「もちろんです。どんなときにも助けます!」
「レイナ、早速だけどセーナさんのところへ行ってくださる?」
「え、ええ。用件は・・・?」

この15年後のことである。
人々は7属戦争を忘れたのかは分からないが、国々の戦争が激しくなった。
戦争の間には3つの勢力があった。
1つは、光の国と闇の国からなる星光派、もう1つは火の国と風の国からなる疾風派、残りは水の国と土の国の中立派である。
戦争の中心となるものたちは国々の国王である。
この戦争に立ち上がる1人の巫女がいた。
彼女の名はフィーナ。
フィーナは光の国の巫女。星光派の一人である。
星光派は疾風派の反乱を止めるための政派である。
この彼女が戦争を止めることは誰も知らなかったのである・・・。

沙奈は安心した表情を見せた。
「・・・何も、変わってないのですよ・・・」
安心した彼女は本を閉じ、それを元の場所に戻した。
そして、昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴った。
「あ、急がなきゃ授業に間に合わないのですよ!」
沙奈は図書館を後にし、急いで教室に戻っていったのであった。
そして、授業の中で沙奈や香音は本当に時間が進んでいないことを知るのであった・・・。

***

物語の世界に大きな闇が降りかかろうとしていた。
この世界には何かがあるわけでもなかった。
だが、一つの空間としては成り立っていた。
「・・・ユズハさま・・・」
セーナたちの世界である、ヴェルゼウス大陸から帰ってきたマルチは失敗を告げた。
「わざわざ、そのようなことをいうために帰ってきたのですか?」
「そ、それは・・・」
「もういいです。そこは捨て置きなさい。エディターが来た以上、早急に他の世界の融合を完了させなさい!」
「は、はい・・・、なのですよ・・・」
マルチは別の世界へ向かおうとしていた。
だが、ユズハはマルチを行かせなかった。
「あなたが行っても無駄です」
「え・・・」
マルチはその場で止まった。
そして、ユズハは誰かを呼んだ。
「アスハ! アスハはいるわよね?」
「はい、ここでございます」
マルチの後ろから、アスハという少女が現れた。
「あ、アスハ・・・」
マルチの失敗の報はすでに広まっていた。
「あはは。マルチ、失敗したんだねぇ?」
「な、何なのですよ! アスハこそ、エディターが来たらマルチみたいになるのですよ?」
だが、アスハは余裕を見せた。
「何言ってるのよ? わたしの方はもう準備万端よ? たとえ、エディターが来てもやっつけてあげますわ!」
その自信を感じたユズハは信用した。
「そうですか・・・。それなら、早く終わらせてちょうだい?」
「はいっ! ユズハさまぁ〜」
そう言うと、アスハは風のように去って行った。
そして、ユズハはマルチに何かを言い忘れていたかのようにあることを言った。
「マルチ。アスハはわたしの妹です。そこであなたには、アスハの監視を頼みたいのですが・・・」
「あ、はい。ユズハさまがそういうのでしたら・・・」
「あくまでも監視です。アスハにどんなことがあっても手を出してはなりませんよ?」
「はい、分かりました・・・」
マルチはアスハをこっそり追った。
「ヴェルゼウス大陸。あそこは時の支配が大きすぎたのね。それ故にあの世界は我々を受け入れる部分が少なかったのかもしれません・・・」
ユズハはマルチの失敗の理由を説いた。

***

そして、放課後のフランシア図書館。
沙奈はなんとなく一番乗りをしたかった。
いや、沙奈がいなければ図書館の鍵を開けることさえできないのである。
沙奈は図書館の鍵を開けた。
図書館の中は、閉めきっていたためもあり、熱気がこもっていた。
「うぅ・・・、暑いのですよ・・・」
沙奈は開けられるガラス窓を手当たり次第に開けた。
「少しはマシになったのかも・・・ですよ」
そして沙奈はカウンターに倒れこんだ。
一日にいろいろあったせいか、いつの間にかかわいい寝息を立てながら寝ていた。
そんな彼女に、何かを囁くような声で誰かが沙奈の名前を呼んでいた。
「さな・・・、沙奈・・・、沙奈ちゃん♪・・・」
当然聞こえるわけもなかった。
それでも、声はずっと彼女に呼びかけをしていた。
「さーなーちゃーん!」
沙奈が目を覚ます気配はなかった。むしろ、小さい声で起きる人はそういないはずだ。
「さなちゃぁぁぁぁん!!!」
声はある時を境に叫びとなった。
それも気づいたのであろう、ずっと小さな声ではだめだということを。
「わ、わあーっ!?」
沙奈は飛び起きた。
「な、何なのですか?」
目の前に一人の生徒がいた。
「あ、あの・・・。これ、お借りしてもいいですか?」
「あ、はいなのですよ」
沙奈が飛び起きた声と一人の生徒の声が一致しないように感じた沙奈だったが、司書の仕事をこなさないわけには行かなかった。
彼女は生徒から名前を聞き、貸出しカードに本の名前と生徒の名前を記した。
そして、生徒には一枚の紙と貸し出す本を渡した。
「はい、これでよしなのですよ。期日や規則は守ってくださいなのですよ」
「はい。ありがとうございます」
本を借りた生徒はすぐに図書館を去って行った。
その後、沙奈はまた寝てしまった。
そしてまた、声が再び沙奈に呼びかけた。
「沙奈ってば!」
「!?!?」
起きた沙奈は辺りを見回した。
「沙奈? もしかして、わざとやってない?」
「ううん」
沙奈は首を横に振った。
そして彼女は、声がした方を見ると、見覚えのある人の姿があった。
「えっ!?」
そしてそれは、何事もなかったかのようにこう言った。
「久し振り、ね。いえ、そんなに時間が経っていないみたいね?」
「あ、あなたは!」
「や、やあ・・・」
なんと、光の巫女セーナだった。
「セーナさん!」
「あのね、いつの間にかというか、世界を救ってからかな? それくらいの時からここにいたのですけど・・・」
「そうなのですか・・・」
「ええ・・・。それと、さん付けしなくてもいいからね?」
そのやり取りを見られていたのか、いつの間にか叶がいた。
「沙奈ちゃん。何しているの?」
「か、叶お姉さま!」
彼女にも見えているのだろうか。
彼女はセーナにも声を掛けた。
「あら? そこのお方は制服ではないのですね。一般の方かしら?」
そう言われたセーナは戸惑った。
「え、え? えっと・・・」
「あの、お名前は?」
「セーナ、です」
「セーナさん、ね」
そして、叶は沙奈にこう言った。
「お客様でしょ? 読みたい本に困っているんじゃないのですか?」
沙奈はなんとか理由を話さそうとした。
「あ、あの、お姉さま。これにはわけが・・・」
「うん、何?」
叶が聞き入れてくれるので、沙奈はセーナのことを話した。
それを聞いた彼女は、意外にも納得してくれた。
「そ、そうなのですか・・・」
「すみません・・・、突然」
「ううん、聞いたことがある内容だったから、受け入れられたの」
「え?」
叶の意外な答えに、沙奈とセーナは驚いた。
「羽ペンには様々な言い伝えがあるのよ・・・」
そう言って、彼女は羽ペンよって繰り広げられた物語を語った。
「・・・あら、そんなことが・・・」
「その『世界の救世主』が現れた時が、世界に危機が訪れるのですね?」
「そうなのです」
物語の救世主・エディターが現れる時、世界を賭けた戦いあり。
世界の救世主・クラスターが現れる時、世界に危機あり。
・・・そう、叶は言った。
「でも、セーナの世界は救ったはずなのですよ?」
「というか、エディターがいる地点で世界に危機が訪れているようなものだと思います」
「いえ。エディターとクラスターはそれぞれ別世界だけど、エディターの世界のことを全て指しているのよ」
「じゃ、じゃあ・・・、この世界に何かが起ころうとしているの?」
心配する沙奈に叶は頷いた。
「ええ、そうなるわ・・・」
しかし、この世界に危機が起きているような状況は一つも無かった。
ひとまず、沙奈はエディターの使命を果たすことにした。
「これからも、セーナの世界と同じように、そこでの世界を救っていけばよさそうなのですよね?」
「そうなりますね・・・」
そして、叶は沙奈だけでは心配になったので、サポートなどを行うことにした。
しかし、彼女は沙奈みたいに『主』の物語を全然知らなかった。
そこから、沙奈は叶を巻き込まないようにした。
「いいのですよ、お姉さま。さなはできるのですよ?」
「そういうことじゃないのです」
そう言って、叶は沙奈の頭を撫でた。特に理由も無いようだが・・・。
「香音から聞いたわ。わたしも見てみたいし、沙奈だけじゃちょっとね・・・」
「お、お姉さま・・・」
「セーナさんは、沙奈のことを知っていそうね?」
「はい、もちろん」
振られたセーナは沙奈の印象を言った。
「・・・なんていうか、破天荒? いえ、目の前に壁があっても壊して進むって感じです・・・」
それを聞いた沙奈は恥ずかしかった。
「ふふっ。沙奈って相変わらずなのね」
「むー・・・」
「あはっ」
結局、叶は協力してくれることになった。
「ま、まぁ、ありがとうございますなのですよ」
「うん、分かればよろしい」
今日のところは、叶は引き上げることにした。
「セーナさん」
「はい」
「図書館にいてもいいけど、一応生徒として手続きしておきますね?」
「え、できるのですか?」
叶には、自信というか確信があった。
「できますよ。これでも、伯父様はこの学園の理事長なのですよね・・・」
沙奈にも知らない情報だった。
「そ、そうなのですか!?」
「お父様が大企業の社長の跡を譲られた代わりにお父様のお兄さんがここを受け持つことになったんだって」
「そう・・・ですか・・・」
「うふふ・・・」
叶は笑いながら去って行った。
「一応、ここにいられるんですね?」
「よかったね」
「はい、よかったです」
そして、時間が閉館時間になり、沙奈はカウンターの上にあるものを整理して図書館に鍵をかけようとした。
「鍵を、かけるの?」
「毎日かけているのですよ」
「そっか・・・」
沙奈は無責任だと感じながらも、セーナに鍵を渡した。
「これ、一つしかないから、無くさないでくださいなのですよ」
セーナは鍵を受け取った。
そして、沙奈は図書館を後にした・・・。