プロローグ 〜始まりはおとぎ話のようなイメージで…♪〜

ここはフランチェスカ帝国。帝都はフランシア。
そこにある帝国一の学園である、帝都立フランシア学園は帝国の中でも貴族階級が通うようなイメージが濃い学園だ。
だが、その学園に貴族の家系には見えない一人の少女が在籍している。
彼女は中等部2年、名を鵜縷野沙奈(うるるの さな)という――。

***

ある日の放課後。
沙奈は学園内にある、大きな図書館にいた。
「今日も全然人が来ていない気がするのですよ・・・」
この図書館は学園(大きく関わっているのは帝都)が運営しており、開館時刻なら一般の人も入ることができるのだが、最近は本を読む人が減ってしまったのであった。
時々だが、好きで本を読みに来る生徒や、本の貸し借りをしていく生徒を見かけるが、歴代の司書官の人から見ても、はっきりと少ないことが分かる。
周りの少数や図書館に来ている人々からは、何か対策を打つべきではないかと言われているが、図書委員などの図書に関する組織がこの学園にはなく、沙奈自身にも対策を打てるほどの能はなかった。
「いつもの、やっていようっと・・・」
そう言って、彼女は羽ペンを取り出した。
彼女は、それを使ってどんどん絵を描いていった。
・・・よく見ると、絵は全て同じで、彼女の憧れの女性だろうか、そのような人が描かれていた。
「お姉さま・・・」
どうやら、彼女の『お姉さま』らしいが、何回も描いているせいか、それなりに上手だった。
「沙奈っ!」
沙奈が絵を見つめている時に来たのか、突然声を掛けられた彼女は驚いた。
「わわわっ、何なのですか!?」
「このケース、今回で何回目なのよ?」
その人は回数を訊ねてきた。
沙奈はそれに答える。
「今回で30回目なのです・・・」
「沙奈。いい加減、叶様の妄想をやめたら?」
「だって・・・ですよ」
「だってじゃないわよ、もう・・・」
そして沙奈は、彼女に用件を尋ねた。
「ところで、御堂さんは本を借りに来たの?」
『御堂さん』と呼ばれた彼女は答えた。
「違うわ。今日はね、生徒会選挙のためにちょっと手伝ってほしいの」
彼女は、沙奈と同級生だった。
名前は、御堂望(みどう のぞみ)である。
「せーとかい?」
「そうよ。それでさ、沙奈の絵の上手さに見込んで、ちょっとしたものを・・・」
沙奈は答えた。
「うーん・・・、分かったよ。どうせポスターかなんかでしょ?」
「話が早いわね。早速だけど、お願いできる?」
「悪いけど、選挙に関することは、候補者と推薦者でのみ行うのが規定じゃないのですか?」
「じゃあ、沙奈がわたしを推薦してよ?」
沙奈は、望を推薦している人を知っていた。
そして、こう言った。
「推薦者は1人で十分のはずですよ。それなのに、さなに何を求めているのですか?」
「むぅ、せっかくあなたを生徒会に入れてあげようかと思ったのに・・・」
「そんな権限もないのに言わないでくださいなのですよ。それに、さなはここの図書館があれば十分なのですよ」
「そう・・・。なら、いいわ・・・」
そう言って、望は去って行った。
「まったく、御堂さんも好きなんですけど、野望に巻き込まれるのが嫌なんですよね・・・」
沙奈は愚痴をこぼした。

***

翌日の放課後。
今日も沙奈は図書館にいた。
そこで、彼女はあることを言った。
「今日は昨日より人が来てませんね・・・。まぁ、来なくてもいいんだけど・・・」
彼女にとっては、図書館に来る人はどうでもいいと思った。
そして、彼女はあることを思った。
「そう言えば、昨日この羽ペンで描いたお姉さまの絵・・・」
カウンターの上に一日中置きっぱなしされていたが、何も反応がなかった。
「・・・やっぱり、あの時のは偶然だったのかな?」
沙奈がお気に入りで持っている羽ペンはとても不思議なものである。
彼女が見つけた当時は、好きな絵を白い紙に描くと絵は光だし、好きなお話を書くと夢を見ているかのようにその話の中に入れてしまう、という不思議な体験をしたのであった。
だが、今では、いくら『お姉さま』を描いても光ることはなくなったし、短いお話を書いてもお話の中に入った感じもなくなってしまったのである。
「(このまま、好きなことがなくなっちゃうのかな・・・。)」
そう思った時である。
「沙奈ちゃん。・・・元気なさそうね?」
声を掛けられた沙奈は顔を上げる。
「お、お姉さま!?」
なんと、沙奈の憧れである宮代叶(みやしろ かなえ)だ。
「お姉さま。し、失礼しました・・・です」
「ううん、いいのよ。ところで、何かあったの?」
そう言われた沙奈は羽ペンのことを答えた。
「そうね・・・。その羽ペンには使う人の心が分かるのよ」
「使う人の心、ですか?」
「ええ、そうよ。見つけた時には純粋な心があったけど、今では自分のことを考えながらしか使っていないみたいね」
「そう言われてみますと・・・」
沙奈は思い返してみた。
確かに自分勝手に扱っていたようだった。
だが、彼女にはどうして羽ペンに使う人の心が分かるのかがまったく分からなかった。
「でも、どうして羽ペンに使う人の心が分かるのですか?」
「それわね、わたしもそれを使ったことがあるからよ」
叶も羽ペンを見つけて使っていたそうだ。
だが、彼女がどう扱っても、沙奈のようにはならなかったそうだ。
「それで、分かったことがあるのよ」
「何なのですか?」
「その羽ペンはお話に憧れたり、どんなお話でも好きになれたりできる女の子だけに本当の姿を見せてくれるんじゃないかな、ってね」
「お話に憧れたり、好きになったり・・・」
沙奈は物語の中でも戦記物が特に好きである。
持ち始めた頃には、そこでの登場人物の絵を模写したり、自分でも物語を描いていたりしていた。
「沙奈ちゃん、何か分かった?」
「はい、お姉さま」
それを聞いた叶は笑顔で去って行った。
「うん。その純粋な心を持っていれば、本当の物語が見えてくるかもね・・・」
「本当の物語・・・ですか」
沙奈はいつも通りの暇つぶしをしていた。
今日は絵ではなかったが、好きな本の一つである、『エンドレスストーリー 第1期巻』を前に読んだ途中から読み始めた。
第1期は『光と闇の7つの属性(エナジー)』とも呼ばれ、過去に起きた七属戦争と呼ばれる戦争を書いたものである。
「これって、セーナが目立ちすぎているのですよ・・・」
セーナが中心に書かれている以上、それは仕方がなかった。
定刻になると、彼女は本のしおりを差し替えた。
本当は本棚に返すのが常識だが、沙奈は誰も読まないだろうと思い、放置した。